第30話『白騎士』
「あら、宮野さんたち他のメンバーはどうされたのですの?」
「あ? ああ、あんたか。あー、一応今日はよろしく」
ゲート前に行くと、すでにそこには相手……天智飛鳥という少女とそのチームが待機していた。
こいつらはゲーム前の接触を警戒したりしないんだろうか?
俺がヘラヘラと戦い前にはふさわしくない様子で笑いながら手を差し出すと、天智は眉を寄せたが試合前の礼儀だとでも思ったのか手を握り返してきた。
そして俺は天智のチームメンバー達にも同様に握手をして行ったのだが、見た目だけだと女子高生と握手したいだけのおっさんに見えないか、これ?
……いや違う、大丈夫だ。気にするな。
「で、なんだったか……ああ、あいつらはどうしたか、だったな。だがどうしたって言われても、知らんよ。俺はあいつらに嫌われてるからな」
「……嫌われてる?」
「ああ。あー……まあいいか。俺はな、元々あいつらのチームに入るつもりはなかったんだよ。教導官なんてめんどくせえことはするつもりがなかったからな」
実際にはどう思われてるかなんてわからないが、俺はいかにもどうでもいいことを愚痴るかのようにダラダラと話していく。
「ではなぜ今、宮野さんたちと行動を共にしているのでしょうか?」
「冒険者になると五年間はダンジョンに潜らないといけない縛り……通称『お勤め』があんだろ? 俺はそれを果たすためにダンジョンに潜ってたんだが、その五年も後わずかって時にチームが解散してな。まあ俺以外のメンバーはお勤め終わってたし、もう歳も結構いってたからな。仕方ねえっちゃ仕方ねえ」
話していくと、それを聞いている天智の表情がわずかにだが不機嫌そうに歪められている。
自分が求めても組んでもらえないのに、俺みたいな奴が組んでるのが気に入らないんだろうか?
「んでまあ、そんな時に試験だが病気で一人メンバーが足りないあいつらと会ったんだ。あいつらは数合わせでいいからメンバーを探してたが、その日は運が悪いことに同時に複数のダンジョンが見つかったせいで組合に人がいなかった。いたのは俺だけ」
「だからあなたと組んだと?」
ここまでの話に嘘はない。
実際みんな歳いってたし、解散したのも本当だ。仮にこいつらが俺のことを調べてたとしても、そのことは間違いではないと分かるだけだ。
だが、ここからは少し違う。
さあ、真面目に戦う気のお前らには悪いが、ちょっと化かされてもらうぞ。
「ああ。こっちも人が必要だったからな。ただまあ、無理やりやらされてるだけあって俺はやる気がねえ。そんな態度が気に入らなかったんだろうよ」
「……それはわかりました。ですが、ではなぜ今も彼女たちはあなたと? 嫌っているのでしょう?」
「それが 最初の契約だからだ。俺がお勤めを終えるまではあいつらのチームに入れてくれってな。その代わり数合わせとして参加してやるって」
「それであなたのような足手纏いを……」
天智はそんな俺の言葉を聞いて、それまでのように隠しきれずに滲んだ不愉快さではなく、明確に侮蔑の籠った眼差しを俺に向けた。
「おいおい、これでも年上だぞ? 足手纏いと思うのは勝手だが、少しは気ぃ使って外面だけでも敬意を払えよ」
「私が敬意を払うのは、それに値するだけの成果を出した方のみです」
「俺はダメか?」
俺は天智の言葉も態度も特に気にした様子もなく、いまだにヘラりと笑っている。そのことが余計に気に入らないんだろう。吐き出される言葉の語調が強くなっている。
俺のことが気に入らないにしてもちっとばかし短期が過ぎると思うが……俺にとっては丁度いい。いや、俺〝たち〟にとって、か。
「ではお聞きしますが、尊敬に値するなにをなされましたか?」
「尊敬ねぇ……なんもねえな。ははっ」
「……ならば、私のあなたへの態度が変わることはありません」
「そうかい。そりゃあざん──」
「宮野さんたちがいらしたので失礼いたします。挨拶をしなければなりませんので」
俺が最後まで言葉を紡ぐ前に、これ以上は聞いていられないとばかりに、天智はたった今ゲート前にやってきて俺たちのことを遠巻きに見ていた宮野達の方へと歩いて行った。
「随分と嫌われたもんだな」
誰にいうつもりでもなかった単なる独り言だったのだが、それに反応した人物がいた。
「お嬢さんは生まれもあって少々冒険者というものに真面目すぎるんです。失礼な点は多々ありますが、多めに見ていただけると助かります」
「あ? ……まあ子供の言葉だ。それくらいは気にするつもりもないが……誰だ?」
声のした方へと視線を向けると、そこには天智たちの後ろで立っていたスーツ姿の男がいた。
「失礼しました。私は工藤俊。天智飛鳥お嬢さんの護衛兼教導官を務めている者です」
「ああ、あいつの。そりゃあ大変だろうな。俺は伊上浩介だ。よろし──なんだって?」
丁寧な挨拶を受けて俺も挨拶を返すが、その途中であることに気がついた。
「どうかされましたか?」
「……お前、工藤俊っつったか?」
「はい。……やっぱりわかりますか?」
「まあな。冒険者で『お前ら』を知らない奴は一度脳みその中身洗い流してもう一度詰め込み直したほうがいい」
そんな俺の言葉に、目の前の男——工藤は苦笑を浮かべている。
だが、俺からしたらそんな苦笑いで済むようなことではない。
なんだってこんな奴がこんなところにいんだよ。護衛ってのは今聞いたが、お前は護衛をするような奴じゃないだろうがっ。
「特級冒険者の『白騎士』が、まさか子供のお守りをしてるとはな」
そう。こいつは世界で一握りしかいない特級の冒険者だ。確か歳は……今だと二十五くらいか?
俺のいるチームには宮野がいるし、今回の相手には天智がいるからそこらへんに溢れているように感じるかもしれないが、実際にはそうそう会えるものではない。
今はこいつの代名詞になった真っ白な鎧を着ていないが、その力そのものは変わっていないだろう。
「そういやあ数年前に……三年前くらいだったか? 確かそれくらいに冒険者を辞めたって聞いたような覚えもあったな」
「はい。確かに三年前に私は冒険者を辞めました。……いえ、正確には辞めざるを得なかった」
「……怪我か?」
「どちらかと言うと呪いでしょうか? 一級の者に頼んでみたのですが……」
工藤はそう言いながら諦めたような笑みで緩く首を振った。
「私も特級だ『白騎士』だ、なんて言われて調子に乗っていたんでしょうね。少々油断してこのざまです。今では以前のようには戦えない」
「かの『白騎士』様がねぇ……」
呪いか……そればっかりはどうしようもないな。
怪我なら治癒師が治せる。時間が経って定着した怪我は階級の低い治癒師だと治せないが、特級の治癒師なら問題なく治せる。金はかかるが、こいつだって特級なんだからそれくらいは払えただろう。
だが、呪いとなると話は別だ。
呪いには冒険者と同じように三級から特級までの階級がある。加えて、さらに細かく分類されるわけだが、その呪いよりも階級がうえで、なおかつ扱う呪いの分類が一致している者ではないと呪いは解くことはできない。
今の話ぶりからしてこいつにかけられた呪いは特級。
しかし、今の世界には特級の解呪を行なえる奴はいない。
正確にはいることはいるのだが、滅多に表に出てこないのでいかに特級のこいつでも捕まえることはできなかったんだろう。
「ですが、私よりもあなたの方が有名ではないですか?」
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