第31話『生還者』

 

 工藤は、自分の話はもういいとばかりに話を次へと……ってか俺のことへと移した。

 だが、俺は三級だ。特殊な力も何もない、ありふれた三級の冒険者。そんな俺が特級よりも有名とか、あり得ないだろ。


「そんなことねえだろ。俺は三級だぜ? 使える魔法の属性も普通。有名になる要素が──」

「冒険者がダンジョンに潜る際、最初にそのダンジョンの危険性を調べるために先遣隊が送り込まれます。その先遣隊の軽い調査によってダンジョンの危険度は定められますが、それとて完璧ではない。稀に、調査結果による危険度とは違う危険度の場合があります。そしてその大抵の場合は──」

「定められた危険度よりも高い危険がまってる」

「ええ。普通の冒険者はそれを経験することは基本的にありませんが、あなたは違う。あなた方のチームは過去五年の間に三度も測定ミスに遭遇しながら、チームメンバーの誰一人としてかけることなく、それどころか重傷を負わず、その場に居合わせた他のチームまで共に生還している」

「偶然だろ」

「偶然というには、三度という数は些か多すぎるかと思いますよ」


 ……確かに、こいつの話は間違っていない。

 だが、あれは俺の力じゃない。本当に生き残れたのも偶然の要素が大きい。


「助けられたことはわかってる。誰が助けてくれたのかもわかってる。だけど、どうして勝ったのか、どうして生き残れたのか誰もわからない。絶対に生き残れる状況じゃなかったのに……。そんな狐に化かされたような、詐欺師に騙されたかのような戦いをする男。ついた呼び名が『|生還者(サバイバー)』。あいつと一緒なら必ず生き残れる……なんて、界隈では結構有名な話ですよ」

「……詐欺師じゃなくて、せめて手品師くらいにしてくれよ」


 界隈で有名っつったって、そりゃあごく一部だろうに。この辺の低位の冒険者の間だけの話のはずだ。

 まあ一度だけ他所に行った時に測定ミスに遭遇した時もあったが、それだってそんな有名になるほどの騒ぎにはならなかったはずだ。


「随分と恥ずかしい話を持ち出すな。だがそりゃあ俺だけの話じゃないだろ。確かに俺が目立ってたかもしれないが、あれはチーム全員の活躍あってこそだ」

「本当に、そうでしょうか? もちろんチームの活躍があったことは事実でしょう。けれど──」

「俊。なにをしているのです。それの相手をする必要はありません。こちらに」


 工藤がそれ以上の話をする前に、宮野達との話を終えたのか天智が戻ってきて工藤の言葉を遮った。

 だが天智はできる限り俺のことを見たくないのか、それだけ言うとすぐに振り返って少し離れた場所へと歩いて行った。


 それ自体はまあいいんだが、今の反応、それと最初に話した時の反応からして、こいつは俺のことを教えていないのか?


「……あのお嬢様には話してないのか?」

「ええ。教導官とはいえ、何でもかんでも教えるわけではありません。時には自分で気づかないといけないこともあります。今回は情報を集める大切さですね」

「大変だな」

「まあそれなりに。ですがそれはあなたも同じでしょう? やりがいもありますし、自分と同じような者が──」

「俊!」

「ああすみません。もう行きますね」

「早く行かないと怒られるからな」


 再び話を遮られた工藤は、すまなそうに眉を寄せて謝った後、天智の方へと去っていった。


「生還者、か……そう大そうなものでもないけどな」


 ……だがそれは今は関係ない。

 工藤が俺のことをあのお嬢様に話してないってんなら好都合だ。あいつの考えからして、この後教えるってこともないだろうし、ひとまずは気にする必要はないだろう。

 まあ、全く警戒しないってこともできないが、少なくとも序盤はこっちの想定通りに進むとはずだ。


 ただ……


「あいつの相手をするのは骨が折れるだろうな……」

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