第21話いろいろ変わったもの

「今日も無事終わったな」

「そうですね。初めての時と比べると結構良くなってきたと思います」


 夏休みもほとんど終わりに近づき、残りはわずかと言ったところだが、今日も今日とて俺たちはダンジョンに潜っていた。


「そうね〜。けど夏休みも後少しで終わりかぁ……」

「佳奈、冒険以外の課題は終わってるの?」

「だいじょーぶ。そっちは夏休みが入る前に終わってるから」

「夏休みになる前にって……」


 浅田の言葉に宮野が呆れた様子を見せているが、俺もそんな感じだったな。授業中に書き取りだとか時間がかかる作業系の奴は終わらせる。

 あまり褒められたことではないかもしれないが、やっているだけマシだと思う。


 と、そんな話をしながら今出てきたダンジョンの反省会をしながら俺は道具類の確認をしたのだが、少し道具が減ってきている。


 普通なら無くなった道具を買えばそれでおしまいだが、生憎と俺の使っている道具は全部自作だ。


 魔法使い系の冒険者は魔法の込められた道具を作ることができる。

 それを錬金術というのだが、そのためには専用の施設が必要だ。


 通常ならその施設は金を払って貸してもらうんだが、せっかく学校の施設が使えるんだし使わせてもらおう。


「悪いが、明日は俺は休みでいいか?」

「? 場所を選べばそろそろ私たちだけでも問題ないと思いますが……」

「何? なんかあるの?」

「いやなに。そろそろ道具類の補充しとかないとまずいんだよ」

「そんなの買えばいいじゃない」

「無理。コースケの使う道具は全部自作」


 浅田の言葉に安部がそう言ったが……なんだ、気づいていたのか。道具を作ってるなんて話した覚えはないんだけどな。


 ちなみに、コースケというのは俺のことだ。伊上浩介だからコースケらしいが、この夏休み中に魔法の使い方について教えていたらなつかれた。

 他のメンバー達も呼び方が変わったり俺への態度が変わったりしている。


 だが、俺の方は態度を変えたりしていない。どうせ三……いや、後二ヶ月か。まあその程度で離れるんだし仲良くならない方がいいからな。


「そ、そうだったんですか?」

「まあな。売ってるものの方が高品質高威力だけど、高いし俺の求める効果から微妙にズレてるんだ」

「あー、そう言えばあんた微妙な道具いっぱい持ってたわね」

「微妙っていうが、あれが俺的に一番使いやすいんだよ。んでまあ、それらを頼むとただでさえ高い魔法具の類が特注ってことでもっと高くなる。だから自分で作るしかないんだ」


 ちょっとした変化だけでも特注ってだけで倍くらいかかるんだよなぁ。得意ってわけでもないし、その道で食っていけるってほどでもないが、まあ自分が使う分くらいは作れる。


「というか、あんた魔法具なんて作れたのね」

「ああ、前に友人から教えてもらってな。っつっても、一応魔法使い系なら誰でもできるけどな」

「晴華ちゃんもできるの?」

「無理」

「って言ってるけど?」

「は? いや、できるだろ?」

「……『錬金ができること』と、ただ『実行することができるだけ』なのは違う。私は無理」

「ああそういう……まあ、あれは結構特殊だからな。戦闘ように鍛えた魔法使いじゃ難しいかもな」


 魔法系なら一応誰でもできる錬金だが、まあ得意不得意はあるわな、そりゃあ。

 戦っている様子を見るに、安倍の場合は才能を全て魔法に注ぎ込んでるんだろうな。


「──っとそうだ。お前ら学生なんだから学校の施設使用申請用にアプリをとってるよな?」

「はい。ありますよ」

「錬金室って明日予約があるか調べてくれないか?」

「えっと、ちょっと待ってください」


 宮野はそう言ってスマホを取り出すと操作して調べ始めた。

 冒険者学校に通う学生は、専用のアプリを使うことができ、それを使って学内にある施設の使用予約などができる。

 俺は施設の使用は認められたが、学生ではないのでアプリは持っていない。なので必然的に施設を使うときはチームメンバーを頼ることになるので多少の不便はあるが、まあ使えるならなんでもいい。


「使えます。誰も使わないみたいですね」

「誰も、か。相変わらず人気がないな」


 これが訓練場だったら夏休みでもそこそこ使ってるんだけど、錬金は誰もいないらしい。


「伊上さんの時もだったんですか?」

「ああ。まあ錬金なんてのは魔法使い系しかできないし、やるのはそっちの道に専門で進む奴が大半だからな。魔法と錬金。あっちもこっちも、なんて鍛えられないし、どうせ使うなら錬金専門のやつが作った方が効果が高いからな」

「実際、そうするように言われてるものね。錬金専攻の人に頼むようにって」


 浅田の言葉に頷く。彼女の言った通り、自分でできるからと言って自分で作らなければならない理由などない。

 練習として作るのであれば問題ないが、実践用とするのなら買った方がいい。学生に頼むのなら特注でも安く済むしな。


「後は購買?」

「で、でも、私たちは最初の一回以外はあんまり使ってないよね?」

「そうねぇ。大体こいつが揃えちゃうからね」

「あー、そうだなぁ。一応ダンジョン攻略に必要な道具類の一覧は渡しておいたし教えたが、実際に冒険者になった後に使える店を教えたりもしといた方がいいのか」


 道具の目利きなんかもある程度は教えておいた方がいいんだろうか? いや、目利きを覚えさせるには時間がかかるし、知り合いの店を教えた方が……。


 と、そこまで考えてふと疑問が出てきた。


 ……なんで俺こんなに頑張ってんだろう? 

 いやまあ、死んで欲しくないとは思うし、そのためにある程度は手を貸すとは決めた。

 だが、始まりは嫌々だったし、ほぼ無理やりな感じでのチーム加入だった。それがここまで頑張るとは自分でも思っていなかった。実際、そこそこ適当に教えておしまいにすればいいと思っていた。


 でも……


「購買以外の店かぁ……そう言えば実際に行ったことはなかったわね」

「そういうのはある程度の経験がないと騙されることがあるから、一年生の時は推奨しないって言われてるからね」

「で、でも、そういうお店って、少し憧れがあるなぁ」

「ん。確かに興味はある」


 ……まあいいか。最初は面倒だったが、今はこいつらの面倒を見るのはそんなに嫌じゃないし、成長するこいつらの糧になれてると思うと楽しく……ああ、なるほどな。

 そうだな。多分、俺はこいつらの糧になりたかったんだ。

 凡庸で冴えない底辺で這ってるだけの俺も、将来大物になるであろう子供の役に立てたんならそれは意味のある人生だったと思えるから。


「まあそれはおいおいな。とりあえず明日は俺は道具の作成をするから、お前たちは好きにダンジョンに入るなりしておけ」

「はーい」

「はい」

「わかった」


 浅田、宮野、安部の三人は返事をしたのだが、唯一北原だけが少し悩んだ様子で返事をしなかった。


「……あ、あの。その作業って私たちも見ることってできないですか?」

「ん? ……まあ構わないが、見てて楽しいものでもないぞ?」

「か、構いません。普段自分たちが使ってる道具が何を使ってどんな風に作られているのか知っておくのも大事、ですから。それに、自分で作る必要が来たときの練習に、なりますから」


 一応北原も魔法使い系だから錬金はできるが……まあやらせておいて損はないか。俺に害があるってわけでもないし。


「……そうね。使う機会がなくても知っているのと知らないのでは違うものね」


 だがどうやら北原だけではなく他の三人も来るようだ。前衛であるはずの宮野の言葉に残りの二人も頷いている。


「それは、まあ、そうだが……」

「何よ浩介。見られて困るもんなの?」

「そういうわけでもないが……本当につまらないぞ? 特にお前だ浅田。絶対途中で飽きるからな」

「は? なんであたしだけ名指しなわけ?」

「まあ一応明日は朝の九時頃から錬金室で作業してるから、来たかったら勝手に来てくれ」


 それに、こうしてこいつらと一緒に行動してると、自分も若返ったように思えて少し楽しいと思う。


 とは言え、それも後二ヶ月程度で終わる。その後は俺はチームから抜けてこいつらとはもう関わらなくなる。それはチームから抜けたからとかじゃなくて、その方がこいつらのためになるはずだから。


 ……だが、それまでは多少楽しんだところでバチは当たらないだろう。

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