第9話三級の実力

 

 そしてダンジョンに入っていった俺たちは一度目と同じように進み、一度目の時に倒したゴブリンの死体の場所を越えると、その後は何度かゴブリンに遭遇し戦闘をした。


 だが、宮野も北原も顔を顰めているが、それでも吐き出したりしゃがみ込んだりはしない。多少の泣き言というか不満は呟いているが、言ってしまえばその程度だ。


「問題ない、みたいだな」

「あ、あの……」

「ん? ああ、何だ?」

「えっと、その……」


 しばらく戦闘を見ながらダンジョンを進んでいたのだが、一時間ほど進んだあたりになって、俺の隣で待機していた北原が小さく戸惑いがちに声をかけてきた。


「言いたい事ははっきり言ってくれて構わない。こんな場所じゃ、そうやって戸惑って言わないってのも害になるからな」

「あう。す、すみません……」

「あんた何柚子をいじめてんのよ!」


 俺としては真っ当な意見を言っただけなのだが、北原は縮こまってしまった。


 それを見ていたのか聞いていたのか、それまで前衛として戦っていた浅田が俺を睨みながら戻ってきた。


 まあ確かに、多少は言葉がぶっきらぼうというか雑なものになっていたかもしれない。

 だが、俺は決していじめなどしていないし、いじめをする気もない。

 ダンジョン内や同じチーム内でそんなことをしたところで、自分の首を締めるだけだからな。


「話がありそうだったから聞いただけだ。いじめなんてするかよ」

「話? はんっ、そんなのわかりきってるでしょ。あんたも戦えってことよ! さっきから後ろであたしたちのことを見てばっかでぼそぼそ呟いて。文句があんならあんたが戦いなさいよ!」


 別に文句があるわけじゃないんだがな……。

 呟いていたのは確かだが、それはこいつらの能力の分析をしていただけだ。


「佳奈。そこまでよ」


 と、そこで浅田と同じく前衛として戦っていた宮野も戻ってきて浅田を制止した。

 しかし、それだけでは終わらなかった。


「えっと、伊上さん。佳奈の言い方は悪いですけど、できれば力を見せてもらえませんか? あなたの力を知っているのと知らないのでは、いざという時の対処が変わりますので」


 つい数時間前までは凹んでいた少女が言うにしては随分とはっきり言ったな、と思うが、だからと言って俺は特に思うところがあるわけでもないし、その言い分は真っ当なので俺は承諾することにした。


「まあ、そうだな」

「どうせあの子より弱いでしょうけどね!」

「あの子?」

「病気で休んでる子です。伊上さんと同じ魔法使いなので」

「ああ。まあ確かに比べ物にならないだろうなぁ」


 なるほど。このチームの本来の四人目は魔法使いだったか。随分とバランスの良いチームだな。

 まあ、今言った通り俺とは比べものにならないだろうけどな。……もちろん俺が下って意味でだ。

 おそらく一級であろう奴と、三級である俺とを比べるなってんだ。


「いざと言う時は助けに入りますから」

「ここ程度の相手に助けなんていらないって」


 俺はそう言うと先頭を進みだす。

 しばらくすると前方に敵の反応を感じ取り、後ろについて来ていた三人に合図を出して止める。


 そして魔法を使って敵の数や居場所を正確に把握していく。

 敵の状況を完全に把握すると、今度は攻撃のために魔法を使うが……


「水?」

「しょぼ」


 俺が魔法によって生み出した水を見て宮野と浅田が小さく声を漏らすが、まあ実際にしょぼいのは確かだ。


 俺が魔法で生み出したのはピンポン球程度の水。その数は三つ出しているとはいえ、それでも一級の魔法使いを知ってるのなら、比べるまでもないだろう。何せ一級の魔法使いはプールいっぱい分の水を簡単に生み出し、操ることができるんだから。


 だが……


「まあ三級だし、そんなもん──」


 だがしかしだ。だからと言ってその成果が変わるわけではない。


 たとえ海ほどの量の水を作ることができたとしても、ピンポン球三つ分の水しか作ることができなかったとしても、『三体のゴブリンを殺す』ということができるのなら、結果だけ見ればどちらも変わらない。


 俺の生み出した水の球はゴブリン達へと進んでいき、その口に命中した。

 すると、ゴブリン達は突然のことに驚き、慌てて周囲を確認するが、すぐに確認することをやめて自分の首へと手を伸ばした。


 そのまましばらく放っておくと、ゴブリン達は首を掻き毟りながら倒れたので、俺は近づいて剣で貫きトドメを刺した。


「どっかのバカはしょぼいとか言ってたみたいだが、生き物を殺すのにプールいっぱいの水なんてのは必要ないんだよ。喉さえ塞げば、それでおしまいだ。小さな魔法はそれだけ敵の魔法使いに察知される可能性も少なくできて、魔力の消費を抑えられる。力任せな一撃なんてのは、俺から言わせりゃあバカのやることだ」


 魔法ってのは使う際に魔力を周囲に撒き散らすんだが、その使う魔法の規模が大きければ大きいほど、威力が高ければ高いほど周囲に魔力の反応を広くまき散らす。


 魔法使いにはその反応を感じ取ることができるので、あまり敵を引き寄せたくないダンジョンでの戦闘は基本的に大規模な魔法は使わない。


 まあ、力技が必要なときだってあるだろうし、三級よりも一級の方が継戦能力が高いのは事実だから、実際にどっちを選ぶかと言ったらやっぱり一級の方だろうけどな。


「で、どうだった? これが俺の戦い方だ」


 敵の隙をついて魔法で動きを阻害して剣で切る。それが俺の基本的な戦い方だ。


 ここに道具を使ったり仲間と連携したりなんてのも加わるが、なんにしてもまあ、王道ではないな。

 卑怯者や外道の戦い方だ。だがそれが命をかけ戦い、それが冒険ってものだ。生き残るためには華々しい勝利なんて求めてられない。


「……だから魔法使いなのに遊撃なんですね」

「ああ。まあさっきはああ言ったが、実際は大技を使えないってのもあるけどな。何せ三級だし」


 俺は三級なのでそれほど魔力がない。一応大規模な魔法を……まあ使えないこともないが、使ったらぶっ倒れるだろうな。


 今のだって完全に死ぬまで待たなかったのは少しでも魔力を温存しておきたいからだ。


「とりあえず先に進むか?」


 ひとまず俺の戦い方は見せることができただろうし、元の隊列に戻るか。

 まあ、隊列っていっても一番後ろをついていくだけだが。

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