第6話新チーム加入
「おっし、じゃあお勤めは終わったし、しばらくはゆっくり休むとすっか!」
「今までお疲れっしたー」
「かいさーん」
「ちょっ、待てや!」
「やだよ。こちとら朝帰りで疲れてんだ」
「はは、朝帰りっつっても、嬉しくないやつだけどな」
「じゃあヒロ、あんたは女となら朝帰りしてもいいのか?」
「あー、それもなしだなぁ。嫁に殺される」
そうして俺のチームメンバー……いや、〝元〟チームメンバー達は俺の静止の声を無視して談笑しながら組合の建物を出て去っていった。
……あいつらは、本当に俺のことを考えてくれていたのだろうか?
っつーか朝帰りだってんなら俺も同じだこのやろう!
「くそっ、あの薄情者どもっ……!」
「えっと、それじゃあまずは自己紹介をしませんか? 私は宮野瑞樹。剣士の特級です」
「浅田佳奈。役割は戦士の一級。使う武器は大槌」
「わ、私は北原柚子です。治癒師の一級で、みんなの治癒を、その、しています。よろしく、お願いします」
元チームメンバーの背中を見ながら悪態をついていると、少女達が俺に話しかけ、自己紹介を始めた。
……はぁ、いつまでも駄々をこねてる訳にはいかないか。もうどうしようもないんだし、これ以上はみっともない。すでに醜態を晒した気もするけど、そこは気にしないでいこう。
「……不本意ながら仲間に売られて加入することとなった伊上浩介だ。分類は魔法使いだが実際の役割は遊撃。……三級だ」
「ふん、何よ三級のくせに不本意ながら〜、って。それに遊撃? そんな役割があんたなんかにできるの?」
俺が自己紹介をすると、浅田と名乗ったさっき受付で騒いでいた少女が不満そうな態度を隠すことなくそう言った。
……まあ、こいつらの階級を考えればそう言いたくなるのもわからないでもない。
だが……
「……はぁ。やっぱり失敗だったかもな」
「何よ。なんか文句でもあるわけ?」
思わずため息を吐いてしまった俺の態度が頭にきたのか、浅田は眉を寄せ、怒りを声に乗せて突っかかってきた。
だが俺は、それに対して俺が先程ため息を吐き出してしまった理由を丁寧に教えてやることにした。
「遊撃ができるか、って言ったな? バカかよ。できるから生きてこれてんだ。ダンジョンに入ったこともないようだから言っておくが、あそこじゃあ役割を果たせなかった奴がいれば全滅する。嫌々ながらやってきたが、それでも五年近くあのクソみたいな場所で生き残ってきたんだ。冒険者としての信頼は、一級でも何もなしていないお前より、三級で何年も生き残ってきた俺の方が高い。それを頭に入れておけ、新人」
そこまで言うと何も言えないようで、浅田は……いや、彼女だけではなく他の二人も黙り込んでしまった。
黙ったのでちょうどいいと、改めて少女達の姿を確認していく。
宮野と名乗った最初に話しかけてきたリーダー的な少女は、黒く艶やかな長髪を後頭部でひとまとめにし、歳のためか肌もきめ細かく傷一つない。
長い髪をまとめていることから、最低限の準備なんかはできているんだろうけど、そもそも髪が長いって時点でどうなんだと思わざるを得ない。何せ戦いの中では髪が長いというのは不利として数えられるから。
確かに髪が長いことで利点もある。
それは、髪には魔力を溜められるってことだ。髪が長ければその分だけ魔力の貯蔵量が増えるので、冒険者であっても髪を伸ばしている奴はいる。
だが、それは後衛に限った話だ。
同じ覚醒者——冒険者とは言っても、前衛と後衛では全く違う。
後衛は体内の魔力を使って魔法を使うことができるが、前衛は魔力を使えないのだ。
ただ単純に身体能力が高いだけ。それが前衛だ。
つまり、魔力を使うことのできない前衛は髪を伸ばす必要はないのだが、この子は剣士だと名乗ったにもかかわらず髪を伸ばしている。
ってことはだ、単なるファッションであるってことだ。
まあ、特級という力を考えればその程度はどうにでもなるような些細なものなのかもしれないな。
んで、次は浅田という少女だが、こっちはさっきの宮野に比べて背が高く、ガタイもいい。……女の子にガタイっていうのはどうなんだ?
まあとにかく前衛系の体格をしている。
髪は染められており、金髪になっているが、こっちは宮野とは違って短めの髪だ。
後は……特になし。強いていうなら相手をするのがめんどくさそうってくらいだな。
最後は吃りながら自己紹介をした北原って地味目な少女。
だがその胸は地味とは言えない。本人の性格とは違ってかなり自己主張が激しい。
……ダメだ。おっさん臭いがどうしてもそっちに目がいく。
ま、まあ他に何か言うのならこの子も髪が長いってことだな。だがこっちは宮野に比べて特におかしいわけではない。何せ治癒師——魔法使い系なのだから、魔力タンクって意味でも髪の長さは重要になる。かく言う俺も男にしては長めの髪、で後ろで縛ってるし。
ここに後一人今日は休んでる子が入るんだろうけど、その子は弓兵か斥候、もしくは魔法使いだろうな。しかも多分その子も一級だろうな。流石に特級はないと思う。
ま、全体的にはそれくらいか。四人目次第だけど、一応前衛と治癒師がいるんだからバランスは取れていると言えなくもない。
これでここにいる三人が前衛だったら、いくらなんでも俺だってチームに入るようなことはしなかった。
「それで、どのダンジョンに潜るつもりだったんだ?」
「え?」
とりあえずここで固まってても仕方がないので話を進めることにしたのだが、少女——宮野は不思議そうな表情で首を傾げた。
「ダンジョンだよ。行くつもりだったんだろ? そのために準備したんじゃないのか?」
「あ、はい。ですが、伊上さんは大丈夫ですか? ダンジョンから戻ってきたばかりのようですし、別の場所に潜るとなると装備も変わるんじゃ……」
「大丈夫だ。初心者が選ぶ程度のダンジョンなら合わせられる」
確かに今の俺は泊まりがけでダンジョンに潜ってたせいで疲れてるし眠いし、道具なんかも万全ではなく消耗している。
だが、初めてダンジョンに潜る少女達についていく程度ならなんの問題もない。むしろ道具類に関しては持ちすぎているとも言えるほどだ。
「ふんっ、そんな調子にのってるだけの実力があるのかしらね」
「問題ねえよ」
俺とこの子達を階級だけで判断するのなら向こうのほうが格上だが、実戦となれば負ける気はしない。いや直接戦闘の話じゃなくてダンジョンでの貢献度の話な? 正面切って正々堂々戦ったらそりゃあ負けるさ。階級ってのはそれくらいに無慈悲なもんだ。
「それじゃあ、目的はここなんですけど、大丈夫ですか?」
俺の言葉に納得したのか宮野は冒険者用の耐熱耐水耐衝撃の加工が施されている特別仕様の携帯端末を取り出してそれを操作するとその画面を俺に見せた。
だが、俺はその画面を見て思わず眉を顰めてしまう。
「小鬼の穴? ……お前ら初めてのダンジョンなんだよな?」
「はい。……何か問題でもありましたか?」
「小鬼──ゴブリンってのは醜悪な姿をした人型のモンスターで、その知能は人間でいう四歳くらいの知能を持ってる」
四歳くらいの人間の子供と言ったら侮るものが多いのだが、実際にはそんな油断できるほど簡単な相手じゃない。
子供ってのは意外と残酷で、遊びなんかであっても罠を張ったり騙し討ちなんかをしたりする。
鬼ごっこやかくれんぼを思い出してもらえればわかるだろう。
鬼ごっこでは物陰に隠れて見つからないように移動しててきを背後から狙うし、隠れるのだって大人の常識からすればありえないところに隠れたりする。
小鬼の穴は、そんな人間の子供達と同じような知能を持つゴブリン達が暮らしている洞窟だ。
考えてみて欲しい。そんなもの達が悪意と害意と殺意を抱いて凶器を手に襲いかかってくるのだ。危険でないわけがない。
ファンタジーを知ってる戦ったことのない一般人ならゴブリンと聞くだけで侮るかもしれないが、とんでもない。初心者の一割くらいはこいつらにやられて死ぬのだ。学校や組合でその怖さを教えているはずなのだが、いかんせん名前からイメージが先行して侮ってしまうのだろう。
それに加えてもう一つ、初心者にとってはかなり厄介な点があるのだが……この少女達はそれを理解しているのだろうか?
「知ってるわよそんなの。何? 自分の知識を自慢したいわけ?」
「……わかってるならいい。話を止めて悪かったな」
浅田は俺の言葉にそう反論したが、俺の言った言葉の意味が本当に分かっているんだろうか? 詳しく聞いた方が……いや、やめておくか。
俺はあくまでも臨時で入ったにすぎない。そんな俺があれこれ口出しをすれば、あまりいい空気になるとは思えないからな。
準備してるって言ったし、大丈夫だろ。大丈夫じゃなくても、問題が起きるとしたら入り口付近だろうし、まあ、三人くらいなら連れて逃げられるはずだ。
「えっと、それじゃあダンジョンに向かうけど、みんな大丈夫?」
宮野のその言葉に俺を含め他のメンバーも頷き、組合の建物を出てダンジョン入口であるゲートのある場所へと移動し始めた。
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