第5話後に引けなくしたのはてめえらだろうが!
ん? 条件?
なんだ? ヒロがこんな子達相手にそんなことを言うのは珍しいな。同人誌的な、『ぐへへ……』な展開にはしないだろうけど……
「条件ですか? いったいどんな……」
「あー、不安にさせたなら悪いけどそんな難しいことじゃない。助っ人を出す代わりに、そいつを三ヶ月の間雇ってくれないかってことだ」
……は? え? 助っ人に行ったやつを雇うってのはつまり……俺をか? え、なんで?
まあ、助っ人に行くのが俺じゃないかもしれないけど……。
なんて思っていたのだが、「あ、ダメだ」とすぐに分かった。
何せヒロがもう一度こっちを見たきたのだが、意味ありげに笑っている。確実に助っ人に行くのは俺だわこれ。
「え? ……雇う、ですか? その助っ人の人を?」
「そう。冒険者の才に目覚めたら五年間はダンジョンに潜らないといけないって規則は知ってるだろ? 俺たちは、その勤めを終わらせるため〝だけ〟にダンジョンに潜ってるんだが……後一人、その勤めが残ってる奴がいるんだ。それが残り三ヶ月。だからそいつの勤めが終わるまで一緒にダンジョンに潜ってノルマをこなしてくれるなら、俺たちとしては助っ人を出すのも構わない」
「三ヶ月ですか……」
つまりヒロは俺をこの少女達のチームに入れてお勤めを終わらせようとしているってことか。
でも、なんでだ? そんなことをしなくても、この子達への協力はこの場限りで後は普通にいつも通り俺たちだけで潜ってりゃあいいんじゃねえのか?
そりゃあ俺たちの中でお勤めが残ってるのは俺だけだし、俺だって他の三人に迷惑かけてる自覚はあるけどさ……
「君たちにもいい提案だと思うよ? 今回のことだけじゃない。俺たちの階級は低いけど、これでも五年近くダンジョンで生き残ってきたんだ。君達みたいな初心者としてはダンジョンでの知識をつけるために『生きた知恵』があった方がいいと思うんだけど、どうかな?」
「……ちょっとみんなと話してもいいですか?」
「ああ。もちろん」
ヒロの話が終わると少女は同じチームメンバーであろう少女達の方へと振り返って話し始めた。
だが話があるのは少女達だけではなく俺達もだ。性格には俺が話がある。
「おいちょっと待て。ヒロ、それ、俺のことだろ? 何勝手に決めてんだよ」
「いや、でもよ。よく考えてみ? あっちは一級の冒険者。こっちは三級の年寄り。どっちがいいかなんて明白だろ?」
そんなヒロの言葉は客観的に見れば納得できるものだが、俺からすれば納得できない。
「まあそうだよな。俺たちの中で『お勤め』が残ってんのはお前だけだし、あっちで入った方が生き残る確率高いだろ。よっぽどバカやんねえ限り少なくともモンスター相手に死ぬ事はそうそうねえぞ?」
だが、そんなヒロの意見にその場に残っていたもう一人の仲間であるケイが賛同した。
こいつらの言っていることはわかる。わかるさ。確かにその通りだろう。
だが、問題がないわけでもないのだ。
第一に、信頼できるかどうかもわからない相手とダンジョンに潜りたくないという真っ当な、常識とも言える理由。
まあ、今の少女の態度を見た感じだと問題がありそうってわけでもないが、他の仲間はわからない。それに、今の話しかけてきた少女だってその『裏』はわからない。
そして第二に……
「お前らには友情はねえのか! 俺にあんなキャピキャピした中に入れって言うのかよ!?」
「キャピキャピとか(笑)……今時使わないだろ」
「仕方ねえだろ、センスも歳もおっさんなんだから!」
それが理由だ。俺みたいな三十過ぎのおっさんがこんな女子高生の輪の中に入れると思ってんのかって話だ。
うん、無理。まず無理だな。仲良くなれる予感がしない。
「あの……」
しかしそんな俺の反論は取り合われず、こっちで話している間に少女達の話し合いは終わったようで先程の少女が再び声をかけてきた。
「ああ、決まったかな?」
「はい。それで、よろしくお願いします」
「ヒロさん。これ、もう終わらせといたぞ」
「おっ、思ったより早かったな」
すると、ヒロに何かを言われて何処かへと言っていたヤスが戻ってきた。やっぱりトイレに行ったわけじゃなかったか。
だが、なんだ? その手には何か紙が握られていた。
「じゃあこれ。必要な事は書いておいたから、後はそっちの情報を書いて受付に出せばOKだ」
その言葉で俺はヒロが何を頼み、ヤスが何を持ってきたのか察した。どうやらヤスはチーム加入申請の書類を持って来たようだ。しかも俺の情報を書き込んだものを。
「おいっ! 俺が入るのは確定なのか!?」
「そうだよ」
「そーだよ」
「と言うか、もう解散申請したし、入らないとお前ソロでやることになるぞ?」
「はあっ!? こんな時ばっかり早くなくていいんだよ! もっとゆっくりしろや年寄り!」
チーム加入申請の紙を持ってくるだけにしては時間かかったと思ったが、まさかもうチーム解散を終わらせていただと!?
役所仕事なんて無駄に時間がかかるくせにこんな時ばかり早いのはなんでだよ!
それにヤス! お前だって普段はだらだら動いてるくせに、なんでこんな時だけ手際がいいんだ!
「覚悟を決めろ。もうお前は後には退けねえんだ」
「後に引けなくしたのはてめえらだろうがっ!」
宥めるような煽るようなヒロの言葉に俺は叫びを返すが、これは仕方がないだろう。
そのことで周りからの視線を集めてるが、言わずにはいられなかった。
「あの、本当にいいんでしょうか?」
「ん? おー、君は優しい子だね。いいのいいの。こいつのためってのは本当だから。君たちの人間性についてはわからないけど、少なくとも力だけなら俺たちといるよりも断然生き残る率が高い。利用する形になって悪いけど、そう言うわけだからあいつを三ヶ月の間よろしく。その間は君たちもあいつを利用していいからさ」
「はい」
その後は受付の前で騒いでいたら迷惑になるので……もうすでに迷惑になってる気もするが、まあともかく俺たちは歓談スペースへと移動した。
そして移動してもなお憤っている俺をヤスとケイが宥め、ヒロは少女達と何事か話しながら紙に記入して手続きを進めていった。
途中で俺も名前の記帳を求められたのだが、渋々ながらも名前を書いてチームの加入に同意した。
「あの……」
「ああ?」
「よろしくお願いします!」
「……はぁ。……ああ、よろしく」
少女が俺にそう挨拶をしてきたので俺も一応挨拶を返したが、思わずため息を吐いてしまった。
これが仕方のないことだってのは分かってる。だからこそさっき俺は本気で抵抗しなかったわけだし。
だが、感情と理屈は別物だ。
分かってはいるのだが、どうしても仲間から見捨てられたような気分になってしまう。
もちろんそんなことはなく、むしろあいつらは俺のことを考えてくれたからこうして無理にでもこの少女達のチームに入れようとしたのだ。
後三ヶ月とはいえ、若者に比べて動きの鈍い自分たちよりも、才能あふれるこの子達と一緒にした方が俺の生存率が高い。
それは分かってるんだけどおおおお………………はああぁぁ。
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