第4話特級の少女と三級のおっさん

「多分君たちは、あれだろ? 学校の授業とか課題とかそんなやつでダンジョンに潜る必要があるんじゃないか? でも見たところ君たちは三人しかいない。ダンジョンに潜るには特例を除き、最低でも四人必要だ。その後一人の数集めに困ってる。そんなところかな?」

「はい。本当はもう一人いるはずだったのですが、病気になってしましまして……」

「ならその子が治るのを待ってから挑戦すればいいんじゃないかい?」

「できません。今回の試験は期限が一週間だったんですけど、今日含めて後三日しかないんです。でもその子はまだ治りそうもなくて……」


 ヒロが言ったように俺ももう一度日を改めて挑戦すれば良いと思ったのだが、どうやらそうはいかないらしい。

 あと三日しかないんじゃ、本当にギリギリだな。


 ダンジョンは場所にもよるけど、一日で終わらないことがある。と言うかむしろその方が多い。


 この子達の場合は初めてなんだろうし、そんな泊まりで行かないといけないような場所に潜ったりしないだろうけど、それでも失敗をした場合を考える必要がある。


 そして失敗した場合残りは二日となるわけだが、そのうち一日は準備や治療のための休養日に当てる必要がある。

 そしてその翌日に再挑戦となるのだが、今日挑めないとなると再挑戦を諦めるか休養日を無くさないといけない。そうなると結構危ないことになる。

 だからこそ、多少の無茶があったとしても今日挑もうとしたのだろう。


「……あー、でも俺たちが受けたところで大丈夫なのか? その病気の子も一緒に行かないと合格にはならないんじゃないか?」

「いえ、合否は班単位で行われますので、所属さえしていれば参加していなくても合格扱いになります。それに、各班一人までなら外部の助っ人が認められているんです」

「助っ人ね……」

「……やはり、ダメでしょうか?」

「あー……ちょっと待って」


 ヒロはそう少女に断りを入れると、もう一度俺たちに振り返ってきた。


「どうするよ?」


 このまま放っておけば、この子達は俺たち以外の誰かを誘うだろう。別にそれはそれで構わないのだが、その相手がまともな人間である保証はどこにもない。

 もし『ハズレ』を引き当てた場合、この子達は初めてのダンジョンで死ぬこともあるが、それだけならまだマシな方だ。ともすれば誰も見ていないのを良いことにこの子達を犯したりする可能性だってある。そう言う事件は、決してないわけじゃないんだから。


 この少女達とは会ったばかりの他人だが、こうして悲劇を止められる立場にいて、後になって何かあったと分かったらクソみたいな気分になるのは明らかだ。


 ヒロは同じ考えたからこそ、俺たちに聞いてきたんだろう。


「やるしかなくねえか?」

「だよな。ここで見捨てたら絶対に後悔する自信がある」

「俺もだなぁ……正直めんどくせえ感がするけど」


 そしてそれは俺たち三人も同じだった。

 ついさっきと言っても良いくらいの時間にダンジョンから帰ってきた俺たちとしては、今すぐにでも帰って休みたい。

 だが、このまま見捨てるのも嫌だ。


「うーん……ちなみに、君たちの役割と階級を教えてもらってもいいかな?」


 俺たちの答えを聞くと、ヒロは軽くため息を吐き出してから少女へと向き直ったが、ヒロがそう言うと、参加してくれそうな雰囲気だからか少女の顔はパッと笑みを浮かべた。


「あ、はい! 私は剣士で特級です。この子は戦士の一級で、こっちの子は治癒師の一級です」

「……マジか。特級って、マジか……」


 少女の言葉を聞いてヒロが驚き、言葉に詰まっているが、それは仕方のないことだ。

 特級……それは冒険者の間でも特別なものだから。


 俺たち冒険者の覚醒度合いには階級がある。才能と言い換えても良い。下は三級で上は一級まで。それが基本だ。

 だが、中にはそんな基本を打ち破ってさらに上へと突き抜けてる奴らがいる。それが特級。


 特級は少ないと言われている冒険者の中でもさらに少ない。全体の1%に満たないだろう。そんな一握りの天才達。


 正確には特級の中でも特一級だとか特二級だとかあるし、中には『勇者』なんて称号をもらったりする奴もいるのだが、それは冒険者として活動してからの功績で決まるので今の学生の彼女にはつかないでただの特級だ。

 だが、そうだとしてもこの目の前にいる少女が世界に一握りしかいない天才の一人だと言う事実は変わらない。


 それに、彼女以外の仲間もかなりのものだ。特級には及ばないものの、一級というのもかなりの才能だ。

 三級と一級を比べればその差は天と地ほどにある。乗り物で速さを競うなら自転車とスーパーカーくらい違う。なお、特級はジェット機だ。もはや勝負するどころの話じゃない。


「俺たち三級しかいないけど、それでも構わないのかな?」


 ただ、そんな一級と特級のめちゃすごチームの彼女達だが、生憎と俺たちは全員三級だ。普通なら同じチームには入れない。


「はい」


 だがそれでも少女は頷いた。


「あー、つまり本当に数合わせの一人が欲しいだけ。後は最低限自分の身さえ守れれば問題ない?」

「えっと……はい」


 わかっていたことだが、俺たちに求めているのは強力じゃなくて数合わせ。

 それをはっきり言うのが失礼だと思ったからか、少女は少し申し訳なさそうにして頷いた。


「……見たところ、君たちは一年生だろ? ならダンジョンに潜るのは初めてなんじゃないのかな?」

「はい。なので準備に時間をかけていたのですが、その間にもう一人の子が……」

「そうか……」


 ん? どうした?

 少女の話を聞いていたヒロが、突然後ろを振り返って俺たちを見た。や、俺たちを、と言うか、俺をか? 目があったし。


 かと思ったら、今度はヒロは自分の隣にいた仲間、町田安彦──通称ヤスへと何事かを耳打ちし、ヤスは驚いた様子で目を見開くと俺の方を見た。

 そして何かに納得したように頷くと、トイレに行ってくると言ってその場を離れていった。


 明らかにトイレではないが……なんなんだ?


 まあ、ヒロの指示なんだし、この少女達にとって不都合なことではないだろう。多分知り合いを探すとか組合職員に話をしてくるとかそんなところか?


「なら、ちょうどいい」

「え?」

「君たちに助っ人を出すのは構わないよ」

「本当ですか!?」


 やっぱり助けるのか、まあそうだろうなとは思ったけど。

 だがそうなると、誰を出すんだ? 全員で行くのか? ……ないな。俺たちは良いけど仲間の一人であるケイ──岡崎圭は、もう今日は戦える状況ではない。怪我をしていると言うわけではないんだが、魔法を使うためのエネルギーである魔力がもう空になってる。


 それに、彼女たちのチームに四人入るとなると大人の男四人に少女三人と言う編成になる。

 これが親しい仲なら良いが、俺たちはあったばかり。自分たちよりも大人の男が多くなると言う状況は少女達としては不安を感じるだろう。

 実際には特級がいるんだったら三級程度どうとでもなるのだが、気持ちの問題はまた別だ。


 となると彼女達のチーム編成からして必要なのは後衛。俺たちの中だと俺かケイなのだが、ケイはさっきの理由でなし。そもそも彼女達の中にはケイと同じ治癒師がいる。

 ってことは……俺か。

 だからさっきヒロは俺の事を見たのか?


 ……はぁ。まあ見捨てるのは嫌だったし仕方がな──


「ああ。ただし、条件がある」

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