第3話少女達とおっさん達の出会い

「ちょっとどうしてよ!?」

「あん?」


 だが、俺たちが受付にたどり着くと、隣の受付から幼さの残る少女の叫ぶ声が聞こえた。


「どうして、と言われましても、現在あなた方に紹介できる冒険者の方はいないのです。現在──」

「だからそれがどうしてって聞いてんの!」

「ちょっと佳奈、落ち着いて。今お姉さんが話してる途中だったから。最後まで聞こう? ね?」


 少女たちは三人いて、そのうちの一人が受付の女性を相手に怒鳴っているが、それを三人のうちもう一人が宥めている。


 友達、だろうか。その少女に宥められ、叫んでいた少女は渋々という態度を前面に押し出しながら黙った。


「ごめんなさい。さっきの続きをお願いしてもいいですか?」

「いえ、こちらも言葉が足りなかったようで申し訳ありませんでした」


 とりあえず謝るのが日本人。クレーマーにはなれているのだろう受付の女性は、相手が子供であっても丁寧に頭を下げて対応している。


「あなた方に冒険者を紹介できないと言いましたが、正確にはあなた方以外にも冒険者を紹介できない状況なのです。現在この組合の管理下にある地域で三つのダンジョンが同時に発生しました。それ自体は珍しくはあっても異常なことではないので問題ないのですが、その三つのダンジョンの調査、及び戦闘待機として多くの冒険者が駆り出されたのです。ですので、ご紹介できるほどの冒険者が余っていない、というのが現状なのです」


 へぇー、三つ同時か。確かに珍しいことだが、ないわけじゃないな。

 それにここの規模だと三つなんてとりあえずの調査をするだけでせいいっぱいだろう。これは冒険者の総数が少ないから仕方がないことだ。


 と言っても、これでもここは多い方なんだけどな。何せここには冒険者育成のための学校がある。首都ではないけど、首都から一時間ちょっとでくることのできて周りに田んぼの多かったここは丁度よかったんだろう。冒険者のための施設って結構場所とるし。


「……では、今日は仲間を集める事はできず、私たちはダンジョンに入れないって事ですか?」

「あなた方があと一人用意して入る分には許可できますが、こちらでご紹介する事はできません」


 ダンジョンに入るのに最高は決められていないが、最低でも四人必要だ。これは法律で定められていることで、それ以下で入れば罰則がある。

 まあそれだって『基本的には』、だけどな。何事も特例ってのはあるもんだ。例えば……世界最強、なんて冗談みたいな名前で呼ばれるようなやつとかな。


「あ? 何見てんだ? いい歳したおっさんが女子高生を見つめてると事案だぞ?」

「は? バカ言うなよ。そっちじゃねえって。三つのダンジョンの方だ」


 隣の騒ぎを見ていたら、一緒にいた仲間にそんなことを言われたのでそっちに視線を戻すと、鍵を返し終えてもう帰るところだったようだ。


「ああ、それね。俺たちは新規のダンジョンなんて危険ばっかりで潜らないけど、金にはなるからな」

「でも普通のダンジョンに潜って稼いでるだけでも十分な稼ぎにはなるだろうに……わざわざ命の危険を冒してまで金が欲しいもんかね?」


 俺だったら命が惜しいけどな。実際『お勤め』が終わったらすぐにでも冒険者をやめようと思ってるくらいだし。


「知ってるか? 『危険を冒す者』って書いて『冒険者』って呼ぶんだぜ!」

「あーはいはい。知ってる知ってる」

「金より命だろ」

「まあ金があるに越した事はないけど、俺たちは高望みすると本当に死ぬからなぁ」


 チームの仲間とそんな風に話しながらその場を離れていくが、最後にチラッとだけ後ろを振り向いて騒いでいた少女たちを見た。


 ……あ、目があった。


「で、だ。今月のノルマはもう終わったし、後は各自自由に解散でいいよな?」


 騒いでいた少女を止めた子と目があったが、仲間の声を聞いてすぐに前へと振り向く。


「ああ」

「いいよ」

「俺も」

「んじゃあ、次に集まんのは二週間後でよろしく。まあその間もダンジョンには潜んないけど筋トレと準備は怠るなよ。後たった三ヶ月なのに死んだらシャレになんねえからな」

「わかってるよ」


 後三ヶ月……のくだりで俺を見たので、俺は肩を竦めて返事をすると他の二人も頷いた。


「じゃあかいさ──」

「あの!」


 今月の『お勤め』のノルマが終わったので解散しようとチームリーダーが宣言しようとしたのだが、その言葉は聞き覚えのある声によって遮られた。


 いや、聞き覚えがあるって言うか、この声さっき聞いたばかりだわ。


「ん?」


 もう解散気分でいた俺たちはかけられた声にとっさに振り向くが、そこにはやはり先ほど聞いた声の主である三人組の少女の一人がいた。


「えっと、その……失礼ながらお話を聞いてしまいました。ごめんなさい」

「え? ああいや、別に構わないけど。俺たちも隠そうとしてたわけでもないし?」


 突然若い女の子に話しかけられたからか、我らがリーダー、ヒロこと渡辺弘は困惑を見せながら答えた。

 お前、結婚してるくせに照れんなよ。あとで嫁さんに伝えちまうぞ?


「それで、少々聞きしたいことがあるのですが、皆さんは本日の『攻略』を終えたのですよね?」

「ああ、まあ」

「もしよろしければ、私たちと一緒に攻略に参加していただけないでしょうか?」


 少女のその言葉に俺たちは顔を見合わせる。

 まだ少女から話を聞いていないが、なぜそんな事を言ったのかその理由はおおよそ見当がつく。おそらく、仲間が足りないんだろう。


 少女の後ろへと視線を送るが、見たところそこには先ほど騒いでいた少女ともう一人の大人しめな感じの少女しかいない。

 軽く周囲へ視線を巡らせるが、この子たちの仲間や知り合いといった感じの者はいない。


 ってことはだ、この子たちはダンジョンに入ろうとして最低人数不足で止められたってことだろう。

 と言うかそんな話をさっき横でしてたし。


 で、丁度隣に俺達ダンジョン攻略を終えた奴らがいたからメンバーとして参加してもらえないか話しかけたとかそんなところだろう。



 俺たちのリーダーであるヒロもその事を理解したのか、俺たちから話しかけてきた少女へと視線を戻すと、相手を怖がらせないためにか普段よりも優しげで丁寧な口調で諭すように話し始めた。


「……いきなりそんなことを言われてもな。わかってるとは思うが、ダンジョンってのは危険なところだ。入るんだったらどんな場所でも命の危険が伴う。それを組合の紹介もなく会ったばかりの人から『一緒に来てくれ』なんて言われても、すぐには頷けない」

「……はい」


 本来なら組合がチームを組んでいない人や、チームでの活動予定が入っていない人を確認して推薦してくれるのだが、さっき言ったように今日に限ってはそれができない。


 だから組合に頼らずに自分たちで残りのメンバーを探さないといけないわけだが、基本的に組合で紹介していない者同士のチームは推奨していない。

 それが元々の知り合いなんかだったり知り合いの紹介だったりするのなら別だが、全く見ず知らずの相手と組むのは本来なら避けるべきことだ。


 何せダンジョンの中は化け物だらけの危険地帯。そんな場所でお互いによく知りもしないのに連携してお互いの不足を補い合って進めと言うのはなかなかに厳しい。

 技量も性格もわからないのだから、ダンジョンの中で喧嘩をするかもしれない。そうなったらかなりやばい。お互いに足を引っ張って共倒れ、なんてのは割とよくあることだ。


 加えて、よくお話にあるようにダンジョンの中は無法地帯。一応殺しやそれに類することは禁じられているが、監視カメラがあるわけでもなし、中で何があってもわからない。


 だからこそ、本当に信頼できる仲間と一緒じゃないとダンジョンには潜れないのだ。

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