第2章
再び会場へとやってきたアルド達。
そこはリンリーの店である「福楽苑」のすぐ隣で、いつもならウシブタまんじゅうを使って、魔物をおびき寄せる催しをやっている場所だった。
今はそこが特設会場として使われているようだ。
リンリーの言うとおり、客席にはたくさんの人で溢れかえっていた。
アルド「本当にすごい人だな・・・!一体どんな奴が出るんだろうな?」
シグレ「さあのう!いずれにしても腕が鳴るな!はっはっは!」
会場内に銅鑼の音がばああん!と響き渡る。
それと共に聞こえてきたアナウンスの声。
アナウンス「さあミナサマお待ちかね!ナグシャム武術大会の幕が上がる・・・アル!」
アルド「ん?この声は・・・?!」
リンリー「ナグシャムの民もそうでない人もミナサマこんにちはアル!ウシブタまんじゅう作りでおなじみ、最近は猫まんじゅう作りも修行中のワタシことリンリーが司会をやらせていただくアル!よろしくアルー!!」
わあああと歓声が響く。
アルドとシグレもさすがに驚いたようだった。
アルド「リンリー?!準備って司会の事だったのか?!」
リンリー「さあ今回も我こそは!という猛者達がこの地に降り立たアル!選ばれし剣士達よ、東方一の強さを競て正々堂々戦うアルよ!観客のミナサマはぜひ、ナグシャム名物のウシブタまんじゅうをお供に・・・アル!」
リンリーの声に会場がざわざわとし始める。
観客「うおー、リンリーちゃーん!!」
観客「猫まんじゅう・・・いや、すべてのまんじゅうの女神!」
観客「今回の剣術大会、リンリーちゃんの実況のために俺は来たぜ!うおおおー!!」
すさまじい盛り上がりを見せる観客の声援にやや引き気味のアルド。
アルド「・・・リンリーって、ファンが多いんだな・・・」
だがシグレはさして気にしていないようだった。
皆の声援を聞いて豪快に笑う。
シグレ「うむ、なんとも良い余興ではないか!いい機会だ、俺も久々にウシブタまんじゅうを食したいものよ!」
リンリー「まずは予選会アル!ここに集また人たちで戦てもらう、いわゆる乱戦アルよ。最後まで残た数人が決勝トーナメントに出られるアル!」
闘技場には出番を待つ精鋭達が何十人とひしめいていた。
実況を聞いて、アルドとシグレは互いにうなずく。
シグレ「さて、ここからは味方といえど敵同士・・・手は抜かぬぞ、アルドよ。」
アルド「ああ、俺も全力で戦うぞ!」
いったん暗転し、舞台は再び会場へと戻る。
予選会はもう終わったようだった。
リンリー「さー盛り上がてきましたアル、ナグシャム剣術大会!!激闘だた予選を勝ち抜いてきたのは、この剣士たちアルー!」
バアン!と銅鑼の音が鳴る。
リンリーのかけ声と共にまずはアルドにスポットが当たった。
リンリー「世界中を駆け抜けるおせかいイケメン剣士!アルドー!!」
ひどい呼び名に凍り付くアルド。
アルド「お、おせっかい剣士って・・・」
ところがこの呼び名は観客にウケたのか、会場が声援に包まれはじめた。
観客「うおおお、おせっかい剣士―!!」
観客「あらほんとにイケメンだわ!がんばってーおばさん応援するわよー!」
謎の声援にアルドは肩を落とす。
アルド「・・・リンリーのせいで、そんな名前でこれから呼ばれるのか・・・?」
リンリー「さてお次は・・・」
銅鑼の音と共に次にスポットが当たるのはサイラス。
リンリー「その勇姿はまるで妖魔のよう!でもれきとした人間らしいアル!その名は、義理人情のさすらいカエル剣士サイラスー!!」
サイラスががっくりとうなだれる。
サイラス「よ、妖魔呼ばわりとは・・・義理人情という所しか褒められておらんでござる・・・!」
さらにスポットが当たるのはシグレ。再び銅鑼の音がばああんと響き渡る。
リンリー「そして!普賢一刀流後継者にして、その悪名はガルレア大陸中に響き渡てるアル!おなごに対しデリカシーゼロの万年花嫁募集中侍、シグレー!!」
ひどいアナウンスでもシグレは豪快に笑い飛ばす。
シグレ「はっはっは、俺もすごい二つ名がつくようになったな!どれ、ここいらで俺の名を響かせれば、本当に未来の嫁に会えるかもしれん!」
アルド「ひどい言われようなのに全然動じてないな・・・さすがシグレ・・・」
最後にスポットが当たったのはアカネだった。
リンリー「同じく普賢一刀流の弟子!その単純明快な性格からあちこちでトラブル引き起こし、兄が後始末をしてるともぱらの噂!紅一点の侍、アカネ!!」
アカネ「自分にもすごい名前ついてますね・・・恥ずかしいです!頑張ります!!」
一体どこまで台本があるのか、リンリーのかなり毒舌な紹介にアルドはがっくりとうなだれる。
アルド「・・・みんなひどい言われようだけど・・・シグレとアカネは全く気にしてないみたいだな・・・ははは・・・」
試合が始まる前からアルドは何やら疲労感を感じていた。
リンリー「さあこの激戦を戦い抜き、決勝戦で待つ最強の刺客と戦うのは誰なのか・・・アル!まずはアカネ選手とシグレ選手の兄弟弟子対決ネ。両者、前へアル!」
特設会場として用意された、円形の闘技場。
その大舞台で、アカネとシグレの二人が相まみえる。
アカネ「自分、一度手合わせしてみたいと思ってました!よろしくお願いします!!」
アカネはシグレに対し礼儀正しくペコリ、と挨拶した。
「うむ、シオンの意図を幼馴染の俺が汲まないわけにはいかぬからな。妹弟子の成長、とくと見せてもらうぞ、アカネ!」
シグレの呼びかけに応じるように、アカネは刀を構える。
アカネ「ここから先は普段お世話になっているシグレ殿でも容赦しません!全力で行きます、お覚悟を!!!」
シグレ「ほほお、面白い。やれるものならやってみろ、アカネよ!俺も容赦はせん!」
シグレも刀を構える。
試合開始の合図として銅鑼の音が響き渡った。
直後からバチ、キィン!という音ともにアカネとシグレの対決が始まった。
リンリー「おおー、これはすごいアル!!お互い一歩も譲らず相手を牽制してるアル!」
華麗な二人の剣技に会場もざわつき始める。
観客「すごいな・・・あれが普賢一刀流?!」
観客「ああ、これほどすごい剣技とは・・・!ナグシャムの兵士達ももちろん鍛錬しているが、あの侍、デキる・・・!」
観客「あの女の子も全く引けを取ってないぜ?!頑張れーー!!」
観客達は感心し、手に汗を握りながら勝負の行方を見守っていた。
アルドも普段とまた違う二人の戦いに見入っていた。
アルド(仲間同士の戦いを見る機会ってなかなかないよな・・・二人ともすごいぞ!)
アカネが仕掛けた。
アカネ「行きます、天輪斬!!」
シグレ「ふむ、なら俺の技も見せるとしよう!紅葉の打ち!」
パチイン、という音と共に二人はさっきまで位置していた場所とは逆の場所にいた。
それは圧倒的に早く、会場の観客達は目で追えないほどだった。
会場の端と端に対峙するシグレとアカネは刀を構えたまま、自身の切り込んだ技が相手に与えるダメージが明白になるのをじっと待っていた。
アルド「ど、どっちが勝ったんだ・・・!?」
観客が固唾を呑んで見守っていると、アカネが膝をついてう、と呻いた。
今度は勝負が決した合図の銅鑼が鳴る。
リンリー「勝負ありアル!勝者、シグレ!!」
シオン「・・・・・・っ!」
わあああと歓声が響く中、シオンだけは違った。
今まで戦いの様子をじっと見守っていたシオンはたまらず会場に飛び出し、アカネの横に膝をつく。
シオン「大丈夫かアカネ?!」
アカネ「う・・・兄上、大丈夫ですよこれくらい・・・でもやっぱり、シグレ殿は強いです・・・自分、感服しました・・・」
シグレ「はっはっはっ、妹が心配でたまらず出てきおったか。相変わらずだのう、おぬしは。」
駆け寄るシオンにゆっくりと歩み寄ったのはシグレだった。
シオン「・・・それは、私が未熟だということか。」
シグレ「まーた何をわけのわからぬ事を。実におぬしらしいと言っておるだけだ。」
少しあきれたようにシグレは幼馴染を見つめる。
そして、今し方自分の対戦相手であったアカネに声をかけようと膝をつく。
シグレ「さて、大丈夫かアカネ。おぬしが予想以上に成長しておったがゆえ、俺もついつい本気になってしまった。」
アカネ「いえ・・・自分はまだ修行不足だと思い知らされました。今度こそは必ず・・・勝ってみせます!」
シグレ「うむ!今回はなんとか勝てたが、俺もますます技を磨いておかねば、次は危なそうだな!はっはっはっ!」
こうして準々決勝第1試合は終わった。
会場の下にある控え場所。そこでアルドとサイラスが皆の帰りを待っていた。
少しして、シグレと、シオンが帰ってきた。
二人にアルドは駆け寄った。
アルド「すごい勝負だったよ!アカネもあともう少しだったのにな。」
シオン「いや・・・戦いの最中、すべてにおいてシグレの方が上回っていた。まだまだ修行が足りぬ。」
アルド「はは、シオンは厳しいな。あれからアカネは大丈夫なのか?」
シオン「ああ、今はリンリー殿の店で少し休ませてもらっている。大事はない。」
アルド「それならよかったよ。」
シグレ「アカネの奴も日々精進しておるようだ。また手合わせする日が楽しみよ。」
シグレはまたも盛大に笑った。
銅鑼がばん、ばあんと響いた。
リンリー「次は第2試合アル!選手は会場へ集まて欲しいアルよ。」
アルド「次はオレの番みたいだな。行ってくるよ。」
シグレ「うむ、アルドよ期待しているぞ!」
アルド「ああ、任せてくれ!」
アルドが会場に上がる。
リンリー「さて、続く試合はこちらの二人!アルド対カエ・・・じゃなかたアル、サイラスー!!」
サイラス「・・・今、拙者の呼び名を間違えかけたような気がするでござるが、まあ侍は細かいことを気にせぬもの。・・・アルド、いざ尋常に勝負!」
アルド「ああ!俺も全力で行くぞサイラス!」
銅鑼の音と共に戦いが始まった。
アルドは積極的に切り込むが、サイラスがことごとく交わしてしまう。
リンリー「おおー、見た目よりも遙かに素早い動きで、カエルがアルドの攻撃を見切てるアルー!!」
サイラス「んなっ、だから拙者はカエルでござらん!」
観客「うおおおーカエルの化け物まるで人間みたいだぜー!!」
観客「イケメン剣士さん、頑張ってー!そしておばさんに旅の話を教えておくれー!」
シオン、シグレも会場で見守る中、アルドの切り込んだ隙を見計らってサイラスが間合いを詰め、勢いよく飛んだ。
サイラス「勝負あり・・・でござる!水天斬!!」
サイラスがそのまま必殺の剣技を決めようとするが、アルドは素早くしゃがみ込んでサイラスの真下まで走り込み、そのまま・・・
アルド「これで・・・どうだ!エックス斬り・改!!」
下から一気に切りつけた。
ぱきぃんと切る音がした後、会場には仰向けになったサイラスがいた。
サイラス「見事・・・でござる。」
銅鑼の音がばん、ばーんと鳴り響いた。
リンリー「おおー、アルドが見事カエル退治を成し遂げたアルー!!」
サイラス「だから拙者はカエルではござらんと・・・ぐふ。」
そのままサイラスは会場のスタッフ兼兵士に福楽苑へと運ばれていった。
勝負のついた会場にシグレとシオンも上がり、アルドの元へと駆け寄った。
シオン「・・・見事だった。」
シグレ「うむ、シオンの言うとおりあっぱれであったぞアルド!これは準決勝が楽しみだな!はっはっはっ!」
アルド「ああ、やっぱりサイラスは強かったけど・・・どうにか勝てたよ。」
会場に再びアナウンスが響く。
リンリー「準決勝はしばしの休憩後行うアル!それまで選手やお客さんは休んでてほしいアル!ぜひ福楽苑のウシブタまんじゅうをご賞味あれアルー!」
アナウンスにアルド達は少しほっとする。
ここから試合続きで一休みする暇もなかったからだ。
アルド「良かった、少し休めるんだな。二人はどうするんだ?」
シオン「私はアカネの所に。」
即答するシオンにまたもシグレが笑った。
シグレ「全くもって妹の事になると周囲が見えなくなるな!さて、ならば俺は久々にナグシャム見物でもしてくるとするか。」
アルド「ああ、じゃあまたあとでな!」
こうしてアルド達はそれぞれ別行動を取って、つかの間のナグシャム観光を楽しむ事にするのだった。
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