第6章 満月の夜に①

 初めての魔物退治を果たしてから、三人とチビの修行の場所が変わった。今まではベルの家の前で、各々魔法の練習を行っていたのだが、あれからヴァンじいさんの指定する森の奥になったのだ。相手はもちろん、魔物だ。魔物相手に実戦経験を積んでいくのが三人とチビの修行となっていた。

 もちろん、チビの狩りに対する本能を満たすと言う目的も兼ねている。加えて、三人が連携して魔法を使うための練習なのだ。


 しかし毎日魔物が出没する訳ではなかった。

 魔物がいない平和な時間は、三人でチビのウロコを使ったブレスレット作りを行っていた。


「見て、ベル。私たくさんのウロコを使ってみたの」


 シャルロットがベルに作りかけのブレスレットを見せてくれる。

 シャルロットのブレスレットはチビの小さなウロコを集めた豪奢な作りになっていた。


「可愛い!」


 それを見たベルも声を上げる。


「ベルのは? どんな感じなの?」


 シャルロットの問いかけに、ベルも自分が作っていたブレスレットを見せた。

 ベルが作っていたのは、シャルロットよりも大きめのウロコを使ったブレスレットだった。何枚ものウロコを重ねて紐を通している。


「ベルのもいい感じ!」


 笑顔のシャルロットに、ベルも笑顔を返すのだった。


「女子はなんでそんなに、ゴテゴテのものを作りたがるんだ?」


 もう既にブレスレットを作り終えたヴィンダーがチビの傍に座って二人に声をかけた。


「俺のなんて、すっげーシンプルに作ったけど、かっこいいぜ? なぁ? チビ」


 ヴィンダーの作ったブレスレットは、チビのウロコの一際大きなものを数枚使っただけのシンプルなものだった。それに紐を通しているだけなので、作るのは簡単だったようだ。

 チビにそのブレスレットを見せながら、ヴィンダーはチビを撫でる。


「男子には可愛いが分からないんだよーっだ!」


 シャルロットはヴィンダーにそう言うと、自分のブレスレット作りを再開するのだった。

 そうして三人のブレスレット作りが終わりを迎えた頃、ベルが三人に声をかけた。


「ねぇシャルロット、ヴィンダー。今度はチビのネックレスを作らない?」

「チビの?」


 聞き返す二人にベルは説明する。

 まもなくチビの、三度目の脱皮の時期がやって来る。そうなると、チビとは別れなければならない。


「私たちのこと、チビが忘れないように、チビの分も作りたいの」

「そう、だな。別れる前に、思い出の品を作りたいよな」

「そう言うことなら、私も賛成」


 こうして三人はチビの分のネックレスを作ることにするのだった。




 チビが三度目の脱皮後、どれだけ大きくなるのかが予測できない三人はまず、魔導図書館へと向かった。


「本物の龍の大きさくらい、自分たちで調べておかないとね」


 そう言ったのはシャルロットだった。

 ヴィンダーは図書館の空気が苦手なのか、借りてきた猫のようにおとなしくなっている。

 ベルは以前訪れた時に龍の書物がどこにあるのかを知っていたので、シャルロットたちを案内する。


「こんなにたくさん、龍に関する本があるのね……」


 シャルロットとヴィンダーはその量に驚愕きょうがくしていた。


「この中から、龍の大きさを探すのかよ……」


 ヴィンダーが絶望したような口調で言う。


「とりあえず、図鑑がいいの、かな?」


 シャルロットも少し気が引けているようだったが、龍についての図鑑を探すべく『図鑑』と名のつくものを片っ端から引っ張り出していく。


「お、おいおい。そんなにいるのか……?」


 ヴィンダーが静かに言うがシャルロットはお構いなしだ。

 数冊の分厚い図鑑を取り出してから、図書館の椅子に座って、三人で龍の成長した大きさを調べていく。

 ほとんどの図鑑は数字のみでその大きさがベルたちには想像できなかったが、そのうちの一冊に、


「見ろ。これ、図で説明してあるぜ」


 ヴィンダーが見つけた図鑑には、龍の成長過程が写真付きで載っていた。文章は少し難しく、ヴィンダーには読めなかったようだが、


「えっとぉ……、龍は三度目の脱皮での大きさは二回目の脱皮とそんなに変わらない……か」


 シャルロットがスラスラと説明文を読んでくれる。


「お前、良くこんな文字、読めるな」

「ヴィンダーが知らなさ過ぎるだけよ」


 ヴィンダーの言葉にシャルロットが冷たく返す。ヴィンダーは頭をカリカリと掻きながらシャルロットの説明文を聞いていた。


「火球を飛ばせるようになるのが二回目の脱皮で、三回目では空を飛べるようになるんだって」


 ベルはシャルロットがいてくれて良かったと思いながら、その説明を聞いていた。


「とにかく、三回目の脱皮で大きさがそんなに変わらないんだったら、今のチビの大きさで作れば問題ないってことだな?」


 ヴィンダーの言葉にシャルロットが頷いた。


「そうと決まれば、早く出ようぜ」


 ヴィンダーは図書館の空気がむずがゆいらしく、ソワソワとしている。ベルとシャルロットは引っ張り出した図鑑を元の位置に戻すと、ヴィンダーを連れて魔導図書館を後にした。




「チビー! 帰ったよー!」


 ベルたち三人は帰宅後すぐにチビのいる森の中へと入っていった。ベルの手には紐が握られている。三人に気付いたチビが顔をこちらへと向けた。

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