第5章 チビと三人の魔法使い⑥

 三体の魔物はじりじりとその間合いを詰めてくる。

 三人の魔法使いたちはチビを中心に後ずさる。


「シャルロット、壁を作れる?」

「やってみる」


 ベルの言葉にシャルロットは両手を地面に当てると、全身全霊を込めて呪文を口に出した。


「ソイルミュール!」


 シャルロットの呪文と共に、三人を囲む壁が一周出来上がる。高さも昨日ヴァンじいさんの前でテストをした時よりも高くなっていた。


「凄い! シャルロット、昨日よりも上達しているわ!」

「感心するのは後にしろ。来るぞ」


 ベルの言葉にヴィンダーが真剣な声音で言う。そのヴィンダーの言葉を合図にするように、三体の魔物がその長い足で壁を突き破ろうと突進してきた。


「……っ!」

「シャルロット! 大丈夫っ?」

「大丈夫……。でも、長くは、もたない、かも……」


 魔物の衝撃にシャルロットの顔がゆがんだ。こういう時、自分に何が出来るのだろうか。


 ベルは一生懸命に考える。

 自分が出来る呪文は疾風の刃と霧の呪文のみだ。

 ヴィンダーはと言うと、壁の中でどうしたら良いのかを思案しているようだ。

 ベルは壁の中で考えた結果、


「ヴィンダー」

「何だ?」

「私が、霧を作る。その間に魔力を溜めて欲しいの」


 ベルの言葉にヴィンダーが目を丸くする。


「多分、シャルロットの壁は破られるから、その前に霧を作る。そして、シャルロットの壁が破られた時に、チビと一緒に攻撃をして欲しいの」


 ベルの提案に、ヴィンダーは少し考える風だったが、


「分かった」


 一言そう返すと、魔力の回復をはかるために両手を下ろした。


「チビ、お願いね」


 ベルの言葉にチビも小さく、くぅ、と鳴いた。

 シャルロットはその間、黙って魔物からの体当たりに耐えている。

 ベルは焦る気持ちを静めるようにして、ゆっくりと息を吸い込むと泉の周り全体をイメージして呪文を唱えた。


「ネーベルネブラ」


 静かに唱えられた呪文は、壁の外の世界を真っ白に塗り替えていく。視界を奪われた魔物たちが壁越しに慌てているのが感じられた。


「もう、限界……」


 シャルロットの言葉に、ヴィンダーとチビが頷き合う。

 そして壁になっていた土が地面に返ると同時に、


「グリンゲ・デ・ウェントゥス!」


 ヴィンダーは下ろしていた手を八の字に戻すと、壁の周りに疾風の刃を展開した。それと同時に霧も晴れていき、疾風の刃で傷ついた三体の魔物がすぐ傍にいるのが見えた。

 チビはそれを見逃さず、一体の魔物に向かって体当たりをする。吹っ飛ばされた魔物に他の魔物の意識が向かう。

 その隙を逃さず、


「グリンゲ・デ・ウェントゥス!」


 今度はベルが疾風の刃を近くの魔物へと飛ばす。ベルの攻撃を受けた魔物がよろめいた。


 その隙にチビが二つ火球を吐き出す。

 二つの火球は見事にベルが攻撃した魔物と、シャルロットの近くにいた魔物に命中した。そしてチビは体当たりをした魔物へと巻き付くとそのまま締め上げる。

 三体いた魔物たちはもはや虫の息だ。

 ヴィンダーとベルは同時に呪文を唱えると、チビが火球を当てた二体の魔物へと疾風の刃を繰り出した。


「「グリンゲ・デ・ウェントゥス!」」


 うろたえていた魔物にその疾風の刃は見事に命中した。




 こうして、三人の魔法使いたちとチビは、初めての魔物退治を成功させた。

 チビも火球を吐き出すことにより、狩りの成功率を上げられることが分かった。

 シャルロットは魔力を使い果たしてしまってヘトヘトと地面に座り込んでいたが、それでも二人の魔法使いの活躍に胸を躍らせているのだった。




「でね、ヴィンダーの疾風の刃が凄かったのよ!」


 家に戻ってきたベルたちは、ことの顛末てんまつをヴァンじいさんに説明していた。

 ヴァンじいさんは終始にこにこと微笑みながら三人の報告を聞いている。


「俺たち三人なら、最強ってことだな!」


 ヴィンダーはそう言うと、チビの傍に行き、


「もちろん、チビも最強の龍だぜ」


 そう言ってチビの身体を触るのだった。

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