第5章 チビと三人の魔法使い④

 朝日に照らされたチビの身体は真っ白で、毛並みも白く透き通っている。神々しさも感じられるその姿は美しく、三人の言葉を奪うには十分だった。

 



 くぅ……?




 チビは黙ってしまった三人に言葉をかけるように声を出した。その声に三人ははっとする。


「チビ、本当に綺麗な龍ね!」


 最初に口を開いたのはベルだった。シャルロットは無言でその言葉に頷いている。ヴィンダーはチビに近づくと、チビの身体に触りながら、


「俺たち、魔導院に行ってくるからな。帰ったらまた顔を出すから、おとなしくしておくんだぞ?」


 ヴィンダーの言葉にチビはその大きな顔をヴィンダーに近づける。

 ベルとシャルロットもチビへと近づくと、その鼻先を触ってから魔導院へと出発するのだった。




 魔導院でのレッスンは三人にとっては少し退屈なものになっていた。基礎練習は確かに大事だと言うことは三人にも分かってはいたのだが、どのレッスンも三人にとっては簡単で、すぐにこなせるのだ。


 同級生たちからは、特にベルの成長に羨望の声が上がっていた。自分たちよりも下だと思っていたベルがメキメキと上達したことに嫉妬する者もいたが、そういう者にはヴィンダーが、


「悔しかったら、ベルみたいに毎日しっかり練習しろよ」


 そう言って黙らせるのだった。

 魔導院でのレッスンを終わらせた三人は真っ直ぐにベルの家へと向かう。チビが脱皮したことで、三人の気持ちも新たになっているようだ。


「チビ、本当にでかくなったよな!」

「そうね」

「あぁして見ると、やっぱり龍だったんだわ」


 緑色の龍が上空を飛んでいる道を、三人は口々にチビのことを思いながら話して歩いていた。

 そしてベルの家へとたどり着いた時、三人はいつもの場所に鞄を置くと家の裏にある森へと足を向ける。


「チビー! 帰ったよー!」


 ベルの言葉に、森の中の茂みが動いた。そして奥の方から大きな体躯のチビが姿を現す。


「チビ!」


 三人はその姿に駆け寄ると、おのおのチビの身体へと触れた。


「ただいま、チビ」

「いいこにしてたか?」

「これからまた、毎日みんなで練習するの。チビも家の横においで」


 ベルの言葉にチビは、くっくっ、と鳴いた。どうやらチビも三人の魔法の練習を見学したいようだ。

 そのまま三人とチビはいつも練習をしている家の前へと移動する。チビは家の横で身体を丸めながら三人の練習の様子を見守るつもりのようだ。三人はそれを認めると、おのおのの場所へと行き練習を開始するのだった。




 チビの二回目の脱皮から一週間ほどが経った頃、突然ヴァンじいさんが三人の魔法のテストを行うと言ってきた。


「テストと言っても、お主らの力量がどのように成長しているのかを見たいだけじゃ。気負わず、やってみるんじゃ」


 そう言うヴァンじいさんの言葉に、ヴィンダーはなんだか自信満々の様子だ。


「じゃあ、まずは俺からだな!」


 そう言うと、ヴィンダーは意気揚々と大木の前に立つ。そして胸の前で八の字を作ると大きな声で呪文を唱えた。


「グリンゲ・デ・ウェントゥス!」


 ヴィンダーの呪文に乗って、ヴァンじいさんが巻き起こした時と同様の突風が吹き荒れる。そして、八の字にした手のひらから風が舞い、刃となって大木へと向かっていった。その刃はあっと言う間に大木の表皮を削ってしまう。


 威力だけを見たら、それはヴァンじいさんが見せてくれたものと対等かもしれない。それを指輪なしの九歳の男の子がやってみせたのだ。ヴァンじいさんはパチパチとヴィンダーに拍手を送った。


「素晴らしいぞ、ヴィンダー! これは、将来有望じゃな!」


 嬉しそうなヴァンじいさんの言葉に、ヴィンダーは誇らしそうにしている。シャルロットとベルはヴィンダーがいつの間にこんな強い魔力を得たのか不思議に思ってしまう。

 ずっと一緒に練習していたはずだったが、きっとヴィンダーも家でも練習をこっそりしていたのだろう。


「ヴィンダーや。このまま頑張れば、あっと言う間に大木を切り倒すことも可能になるじゃろうな」


 ヴァンじいさんの言葉に、まだまだ伸びしろがあると思ったヴィンダーも嬉しそうに笑った。

 続いてヴァンじいさんのテストを受けたのはシャルロットの土の魔法だった。シャルロットは少し自信がなさそうにしている。


「大丈夫よ、シャルロット! 毎日一緒に練習してきたじゃない!」


 シャルロットはベルの言葉に後押しされるように、怖ず怖ずと前に出た。そして両手を地面の上に置くと、すっと息を吸う。そして真っ直ぐに地面を見つめ、


「ソイルミュール!」


 気合いを込めて唱えた呪文に答えるように、シャルロットの目の前にある地面が隆起する。その幅はゆうに三人の魔法使いたちの並んだ幅を超えていた。ただし、高さがあまりない。三人の身長よりも少しだけ高いその土の壁は、ヴァンじいさんの予想を超えた大きさだったようだ。

 ヴァンじいさんはシャルロットへと拍手を送る。


「これはこれは。シャルロットや、よく頑張っておるの。これだけ広く展開できれば、皆を守ることが出来るじゃろう。今後も練習を続けることで、この壁は高さを持ち、巨大な防護壁になるぞ」


 嬉しそうなヴァンじいさんの様子に、シャルロットはほっとしているようだ。


「合格……?」

「もちろんじゃ」


 シャルロットの言葉に、ヴァンじいさんは即答した。

 そして最後はベルの霧魔法の番だった。


「ベル、頑張って!」

「うん!」


 ベルはシャルロットの言葉に頷くと、前へと出た。

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