第5章 チビと三人の魔法使い③

「チビに変化はないか?」

「もう、始まったりしてないわよね?」


 二人を部屋の中へと迎え入れていると、唐突にヴィンダーとシャルロットがベルに声をかけてくる。

 ベルはその言葉に、


「大丈夫よ。まだいつものチビだわ」


 そう返すのだった。

 荷物を置いた二人もチビの周りに集まり、チビに話しかける。


「お前、どれくらい大きくなるんだろうな?」


 ヴィンダーの言葉に、チビはきゅる? と不思議そうな声を上げた。


「お前にも分からないのか」


 ヴィンダーはチビの背中を撫でながら言う。


「きっと凄く大きくなるわ。だって、チビは龍だもの」


 シャルロットはそう言うと、同意を求めるようにチビの胸に顔をうずめた。ベルはチビの首を抱きしめながら、


「立派に育っていってね、チビ」


 そう言ってチビの頭を撫でるのだった。

 そうして時間を過ごしているうちに、夜も更けてきて三人がウトウトとし始めた。その時だった。


「みんな、始まるようじゃよ」


 ヴァンじいさんの言葉に三人の魔法使いたちは目をこすりながらチビを見る。


「あっ! チビの尻尾が!」

「本当だ!」


 シャルロットが目ざとくチビの尻尾が光っているのを見つけ、ヴィンダーがそこへ視線を向ける。

 チビの光はどんどんと尻尾から全身に向かって広がっていく。


「みんな、二回目の脱皮は家の中ではちと狭かろう。チビと一緒に外へ出るんじゃ」


 ヴァンじいさんの言葉に三人とチビは扉から外へと出る。

 外は新月で真っ暗だったが、その暗闇を照らしているのはチビ自身の身体から放たれている光だった。

 チビと一緒に家の前まで来た三人にヴァンじいさんが言う。


「もうそろそろじゃよ」


 三人は眠気も忘れてチビの様子に釘付けになっていた。

 チビはと言うと、そろそろ全身に光をまとおうとしている。


「凄い、綺麗……」


 あまりの光に、シャルロットが思わず呟いた。ヴィンダーは声も出ない様子で、じっとチビを見つめている。

 ベルは二回目と言うこともあり、チビから少し離れて脱皮の様子を見守っていた。


「チビ、大丈夫?」


 シャルロットの問いかけに、チビはシャルロットたちへと首を向ける。

 そして、




 きゅる!




 そう一鳴きしたあと、チビの身体を中心にまばゆい光が周囲を照らした。


「うおっ! なんだ?」


 ヴィンダーが驚いて手を顔の前にやる。シャルロットとベルも耐えきれずに手で目を覆っていた。

 そして光が収束を見せた頃、ゆっくりと三人は目の前の手を下ろして行く。

 目の前には家の高さの、半分の大きさに成長した龍の姿があった。


「チビ、なの……?」


 あまりの龍の迫力に、ベルが恐る恐る声をかける。その龍のかたわらには小さなウロコを纏った抜け殻がある。

 声をかけられた龍は少し低い声で、




 くぅ……




 そう喉を鳴らし、顔をベルへと近づける。

 その顔の大きさは、もうベルの身長の半分くらいだ。


「すっげぇや……。これじゃあもう、『チビ』じゃないな!」


 ヴィンダーはチビを見上げながら声を上げた。


「かっこよくなったわね、チビ」


 ベルの言葉にチビは低く、くぅくぅ、と喉を鳴らした。

 シャルロットもチビの元へとやって来ると、その大きな体躯を見上げて、


「すっかり大きくなってしまったのね……」


 呆然と声を上げるのだった。

 三人はそれぞれチビへと手を伸ばすと、その肌に触れた。ぬくもりがあり、三人に触られて気持ちよさそうに喉を鳴らすチビの姿は自分たちの知っているあの白龍だった。


「でもおじいちゃん。このままじゃチビ、もう家の中には入れないわ。どうするの?」


 ベルの疑問を受けたヴァンじいさんが、顎に手を当ててから答える。


「家の裏にある森に、チビを隠そうかの」


 そう言うと、ヴァンじいさんは明かりを灯してチビを連れて歩き出した。その後ろを三人もついて歩いて行く。

 ベルの家の裏手には森が広がっていた。ヴァンじいさんはその森の中の少し開けた場所に、チビを連れて行く。


「ここなら、誰にも見つからずに済むじゃろう」


 ヴァンじいさんの連れてきた場所は確かに周囲を木々に囲まれている場所で、薬草も生えていないためめったなことでは他の村人たちに見つかる心配はない。

 何よりも、ヴァンじいさんの家の裏手だ。村人たちはその森には近づいてこない。

 その場所を見た三人はチビにそれぞれ挨拶をした。


「チビ、明日また来るから」

「寂しくないように毎日顔を見せに来るわ」

「他の奴らに見つからないように、おとなしくしていろよ」


 そうして三人とヴァンじいさんは家の中へと戻っていく。その後ろ姿を、チビはじっと見つめているのだった。




 家の前まで戻ってきた三人は、チビの脱皮後の抜け殻を見ながらウロコで何か作れないかを思案していた。


「ベルは一回目の脱皮で何か作ったの?」


 尋ねられたベルは首から小さなネックレスを取り出すと、シャルロットとヴィンダーに見せた。


「これを作ったの」


 それは小さなウロコで出来ているネックレスだった。二人はそれを見て、そうだ! と手を叩いた。


「ネックレスを作ったのなら、次は三人でおそろいのブレスレットを作りましょう!」

「シャルロットにしては名案だ!」

「私にしては、って何よ」


 ヴィンダーの言葉にシャルロットは少しむっとした様子だった。

 とにかく三人は今回、チビの脱皮後のウロコでブレスレットを作ることに決めたようだ。


「今日はもう遅い。作るなら明日、魔導院から帰ってからにしなさい」


 ヴァンじいさんに言われ、三人はそれぞれチビのウロコを手に入れると素直に家の中へと入った。




 そうして翌日。


「いってきまーす!」

「ヴァンじいさん、いってきます!」


 ベルとシャルロット、ヴィンダーは少し早い時間に家を出た。まずは朝からチビの様子を見に行きたかったのだ。

 三人は裏手の森にやってくると、改めてチビの大きさに驚いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る