第27話 4月26日 2 風邪
「珠弓」
「は、はい!?」
俺が急に話しかけたからか。仕切りの向こうからはびっくりした。が伝わってくる。珠弓の声がした。というか。これだけ珠弓の声を聞くと、ホント逆に不安になってきていた俺。
「珠弓。そっち行っても大丈夫か?」
「え?う、うん。大丈夫」
姿は見えないが話している感じでは、普通な気がする。
俺は一息吐いてから。珠弓のスペースへ。まあ掃除で入っているから硬くなることはないのだが……まあやっぱり、掃除ではなく用事でこうやって珠弓が居る状態で入ることはなかったのでちょっと緊張。
珠弓ゾーン。仕切りの向こう側に行くと。珠弓は準備中か。スマホを充電しつつ。ベッドに腰かけてカバンの中身を確認していた。
「……」
「—―どうしたの先輩?」
まあ俺が来て何も言わないし行動もしないので珠弓は不思議そうな顔をしていた。
「……珠弓。気のせいかもしれないんだけどさ。おでこ出してみ」
「—―え?」
俺は珠弓に近づき隣に座る。珠弓は「何?何?」という顔をしていたが。拒絶とか言うのはなかったので、そのまま珠弓のおでこをとりあえず手で触ってみた。
「—―熱っ」
「……」
珠弓さん。あなたのおでこは常時沸騰しているのですか?とか俺がちょっと思いつつ。手を離そうとすると。小さな声が聞こえた。
「……冷たくて気持ちいい」
おいおい、そんなこと言われたら離せなくなるじゃないか。だが、状況を正確に確認する為。一度珠弓から離れる。
「珠弓。ちょっとこのまま待ってろよ」
「……」
珠弓は小さく頷いた。
それから俺はリビングに向かい。めったに使わないから、もういらないのではないかと思っていた体温計を探した。
「確かこのあたりに……あったあった」
ほぼ新品の体温計。まさか活躍の場が来るとは――まあ買っておいてよかったか。俺は体温計を持って寝室に戻る。珠弓は大人しくベッドに座って待っていた。
「ほら、体温測る」
「……」
頷きながら受け取る珠弓。しばらくそのまま待機。
ピピッピピッ。
珠弓の方から音がした。そして珠弓は体温計を確認。そして俺に渡してきたので俺も確認すると……。
「……マジか。39.5度。めっちゃ高いじゃん。えっ?珠弓。ホント大丈夫か?」
「……」
先ほどまで普通に過ごしていた?のか無理していたのか。それとも高熱でわけわからない状態だったのかは知らないが……今の珠弓は完全にぼーっとしていた。
「珠弓?」
「……」
俺が話しかけると珠弓はこちらを見ることはできる。
「とりあえず、大学は休め。そしてまず着替えろ。いいな」
「 ……」
頷く珠弓。ちょうどベッドの近くに珠弓が着ているパジャマが置いてあったので、それをとりあえず着るように言って俺は一時寝室から退室。
リビングに行き。冷蔵庫の中などを確認。とりあえず飲み物を出す。するとそこで俺のポケットに入っていたスマホが鳴る。
♪♪
「着替えました」
珠弓からだった。俺は飲み物を持って再度寝室へ。
「珠弓入るぞ」
「……」
仕切りの珠弓ゾーンに入る前に一声かけてから入る。珠弓はちゃんと着替えて座っていた。何だろう。こんな時に不謹慎かもしれないが。ぼーっと座っている珠弓が本当にお人形さんに見えた。ほっぺがホントのお人形さんみたいに赤いので。いつも以上にお人形さんに見えました。はい。こんな時に無駄な時間を使って悪い。
「とりあえず、飲み物な。気分は悪くないのか?って今どんな状態?」
「……眠い」
「なら寝ろ」
俺がそう言うと、珠弓はそのまま横になる。って待て待て。
「珠弓。寝るならちゃんと布団に入れ」
「……」
俺はそう言いながら珠弓をちょっと動かし。布団をめくり。珠弓を寝かして布団をかける。なんか急に珠弓が甘えているみたいな感じになったが。本当はかなりだるいのだろうと思っていたら。
――ピンポン。
インターホンが鳴る「あー、そろそろ行く時間か」と俺は誰が鳴らしたのか声が聞こえてくる前にわかった。
「……光一か」
「珠弓ちゃん!起きてる?大学行こう!」
うるさいのが来てしまった。
「珠弓。大人しくしてろよ」
俺はそう珠弓に言ってから。玄関へ。
「朝からうるさいな」
「おー。弥彦!珠弓ちゃんは?って、弥彦ももう大学行くよな」
「ああ。っか珠弓ならもう行ったぞ。今日は桃園さんと――とか言ってたっけか?」
「なに!?いつだいつ出ていったんだ!珠弓ちゃん!」
「……」
馬鹿で助かった。光一はそのままエレベーターに全速力で走っていったので俺はドアを閉めた。
時間的にはそろそろ俺も出発しないとなのだが……珠弓を1人にしていいものか……と悩んでいると――。
♪♪
俺のスマホが鳴る。
「うん?誰だ――?って珠弓か」
「先輩は大学行ってください。1人で大丈夫です」
そんなメッセージが来た。
「うーん。まあ今日は午前中だけだからな……」
俺は少し考えてから、もう一度寝室へ。
「珠弓。入るぞ」
「……」
仕切りの向こうを覗いてみると。スマホを枕元に置いて、大人しく横になっている珠弓と目が合った。
「本当に大丈夫か?」
「……」
小さく頷く珠弓。
「わかった。昼には帰って来るから。ドラッグストアでも寄って帰って来るよ。もしなんかあったらすぐ連絡しろよ?」
「……」
再度頷いた珠弓を見てから俺は荷物を持ち大学へ。まあ、講義を受けに行くというのと、助っ人を呼びに行くというために。とりあえず、ちょっと出発が遅れたので光一ほどではないが、急いで大学へ向かった俺だった。
お人形さんが風邪をひきました。
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