第26話 4月26日 風邪

もうすぐゴールデンウィークがやってくる。連休には一度、珠弓とともに実家に帰った方がいいかな。とか俺は考えていた。が。今はそんな事を考えている場合ではないみたいだ。


俺は朝から違和感を感じていた。まず朝起きてからの事を知ってほしいので数時間に時間を戻そうと思う。


今日の朝。いつものように俺が起きる。いつもならこのあたりで仕切りの向こうでもゴソゴソしている音が聞こえてくる。そして今日もいつもと同じく仕切りの方から音がして……いや、待て音がしているが。なんかもう――と俺が思った時。着替え終わった珠弓が仕切りの向こうから出てきた。今までにはないパターン。とか思っているとさらに予想外の事が。


「……おはよう。先輩」


珠弓と目が合うと俺からではなく。珠弓から挨拶をしてきた。


「……あ……ああ、おはよう珠弓」

「—―どうしたの?先輩」

「い、いや、なんでもない」

「……?あっ洗面所。先に使うね」

「……ああ。どうぞ」


えっと、夢でも見ているのだろうか?俺は着替える事を忘れてフリーズ。うん?いつもは俺が着替えやら準備を終わらせると。待っていたかのように寝室から出てくるはずの珠弓が今日は先に洗面所へ行った……ではなく。ってそれもあるが。


「……普通に話していた」


それだった。メッセージが来た。とかではない。うん?何が起こった?と朝から混乱する俺。まあとりあえず大学もあるので俺は着替えて、寝室を出ると。ちょうど珠弓が洗面所から出てきた――ってうん?


「……」


珠弓は再度寝室へ入っていたが……何か。今はぼーっとしていた気がする。もしかして、俺が夢を見ていた?とか思いながら。洗面所へ。そして準備終わらしてをしてリビングへ。いつものように朝食の準備をしていると準備終えた珠弓がリビングにやって来た。


「ほい。珠弓」


俺がトーストとかが乗った皿を珠弓の前に置く。


「……ありがとう。先輩」


普段はありえない。と言ってはいけない気がするが。実際今まではなかったことなので……かなり驚いた俺。いやね。珠弓がこんなに話してくれるということに。いつもならニコッと目が合うくらいなんだが――。


「……珠弓?」

「—―うん?なに?」

「いや……なんでもない……食べるか」

「—―うん。いただきます」

「……」


なんかおかしい。珠弓が……普通に話している。でもなんか照れているのか。顔が赤い気がする。もしかして、何かの準備やらが出来て。今日からちゃんと話してくれるのだろうか?とか思いながら俺もトーストを一口。


「ごちそうさまでした」


しばらくして食べ終えた珠弓はそう言い立ち上がる。そしてお皿を流しに持って行く。行動はいつも通り。流れはいつも通りか。おかしいと言えば。今日は朝からの1、2時間で十数年分の珠弓の声を聞いた気がする。


はい、現在。


「……どういうことだ……?」


俺は違和感を感じているが。珠弓は……見た感じ普通に見える。けれど、やっぱり照れているのか。普段しないことをしているからか。恥ずかしそうな表情は見えるが……まあ。話す気になったのなら。それはとっても良いこと。それに、これだけ珠弓の声が聴けると……すごく幸せな感じがした。


まあ話しだしたのに、何か俺が言ってまた元に戻るとなので、俺は何も言わずに自分の皿を片付ける。そして大学へ行くため、カバンを取りに寝室へ。珠弓も今日は一緒に行く日なので出かける準備をしている。


「……ふー」


すると仕切りの向こうでそんな声が聞こえた気がした「珠弓よ。もう話すの疲れたのか」とか俺は一瞬思ったが……その時。ある可能性が浮かんだ。


「—―待て待て……慣れない生活。新しい環境……数日前までは――泊りで大学の行事。その帰りは全力ダッシュ――まさかな」




お人形さんは朝からたくさん話してくれました。

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