第25話 4月24日 猛ダッシュ

珠弓が大学の行事で1泊2日中。現在はその2日目中かと思う。確か夕方ごろには大学へ帰って来るスケジュールだった。


ちなみに一応というか昨日の夜。珠弓からメッセージが届いていた。


♪♪


「思っていたより楽しいです。桃園さんがずっと隣に居てくれています」


そんなメッセージだった。どうなることかと思っていたが。同級生と過ごしている珠弓。いい傾向ではないだろうか。そんなことを思っていた俺。ちなみに珠弓の後には……。


♪♪


「柳先輩!珠弓ちゃんが先輩が居ないから寂しい。とずっと言っていますよ。あっ。正確には心の中で叫んでますね」


という桃園さんからのメッセージが来たりもしたので。桃園さんのメッセージをそのまま珠弓に確認がてら送ってみると……2人からの返信はそれ以降なかった。


そして確か寝る前くらいだったかな。うん。そうだ。23時過ぎになってやっと桃園さんから返事が来たんだ。


♪♪


「珠弓ちゃんにボコボコにされました。とっても幸せでした。あっ、でも珠弓ちゃんちゃんと他の人とも行動していましたよ!戸惑ってはいましたが、いつもの国宝級の力でみんなを従えてました!」

「……」


その文面を見てとりあえずフリーズした俺。うーん、珠弓の周りは変わった人が多いというのか。珠弓のオーラがなんかまた周りをまたおかしくしている気がする……大学でもなのかー。と、そんなことを思っていると、またメッセージが来た。今度は珠弓からだった。


♪♪


「こっちはもう寝る時間になりました。おやすみなさい」


どうやら……平和そうだ。うん。そう思っておこう。その時の俺は「おやすみ」とだけ返事をしておいた。


そして現在。そろそろ珠弓たちは帰って来る頃。とか思っていたのだが……ちょっと気になることもあった。今日は朝から光一が静かなのだ。つまりは留守という事。


今日は講義が休みなので俺は家に居たのだが――俺より受けている講義が少ないはずの光一が朝からずっと留守というのはなんか気になる。


そして1時間もしないうちに俺の嫌な予感は――当たった。


♪♪


寝室でくつろいでいるとスマホが鳴った。画面を見てみると……桃園さんだった。


「珠弓ちゃんが逃走しました!」

「……」


そして俺が画面を見て何があった?と思っていると。すぐにスマホが鳴る。


♪♪~


「……もしもし?」

「あっ、柳先輩。大変です。珠弓ちゃんが逃走しました」

「うん、今メッセージ見たが――何があった?」

「先ほど大学に帰ってきて解散になったんですが。私がお手洗いに行っていたら、その間に外で待っていた珠弓ちゃんに黄金先輩が接触したみたいで。私がお手洗いから出てきた時には。珠弓ちゃんが全速力で逃げるところでした。そして黄金先輩が追いかけていきました」

「……ホントなにしてるんだか」

「一応私もすぐに追いかけたんですが。黄金先輩にしか追いつかなくて」

「……あっ光一は捕まったのか」

「今踏んでます」

「—―はい?」


うん。踏んでいるってなんだろうと。想像していると――。


「地面に黄金先輩が寝転んでいるので、黄金先輩が動かないように私が踏んでます」

「……桃園さん。周りの状況大丈夫?」


うん。桃園さんの現場を想像すると――騒動になっている雰囲気しか俺にはないのだが……大丈夫だろうか。ちなみに、光一の心配はしていない。当たり前だがな。


「えっと、なんか結構、周りから視線がありますが。大丈夫です」

「それは大丈夫では、ない気がするんだが……」

「大丈夫です。ここは何とかしておきます。でも珠弓ちゃんがどこに行ったのか」

「そのうち家に帰って来る気がするんだが……」


――ガチャ。


するとナイスタイミングというか。玄関の鍵が開く音がした。俺は電話をしたまま玄関に行ってみると……。


「……はぁ……はぁ……はぁ……」


めっちゃ息切れしている珠弓が居た。元気だなこいつ。2日間大学の行事に参加していたはずなのに。と思いつつ。


「—―珠弓。おかえり」

「えっ?珠弓ちゃん居ます?」

「ああ、今帰って来た。めっちゃ息切らして目の前に立っている」

「それは良かったです」

「ああ、桃園さんも問題が起こる前に、何とかそれ。終わらせた方がいいぞ」

「わかりました。上手に処理します」


そこで 桃園との電話は終了。光一。大丈夫か?と一瞬だけ思った俺だが。すぐにそれは忘れて。玄関に座り込んでいる珠弓のところへ。


「珠弓。大丈夫か?」

「……」


珠弓と目が合うと……なんか珠弓の奴すごくいい笑顔していた。逃げてくるのが楽しかったのだろうか。そして。


「—―ただいま」

「ああ、おかえり。で、逃げてきたのか?桃園さんから聞いた」

「、、、」


何度も頷く珠弓だった。よく見ると汗かいてますね珠弓さん。本当にずっと走って来たのだろうか……電車は……使いましたよね?まさか――ね。


「まあ、落ち着け。飲み物でも入れてやるから。着替えやら洗濯機まわしとけ。あと、着替えてこい」

「……」


再度頷いた珠弓は寝室へと入っていった。





今日のお人形さんは無事に帰宅しました。 

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