第24話 4月15日 着替え

これは少し前のお話。


いつも夕食は家で食べていた俺たち。でもたまには外食でもするか。ということで、今日は珠弓と2人で大学が終わってから出かけていた。いや、まだ出かけてないか。珠弓が寝室から出てきてない。つまりまだ家に居る。


「珠弓?」

「……」


寝室の外からなかなか出てこない珠弓に声をかけるが。返事ない。まあ返事はいつもないか。すると。


♪♪


「あと5分待ってください」


そんなメッセージが来た。いやいや、急いで準備しているのはわかるが。なら声で言ってくれ、絶対言った方が。スマホでメッセージアプリを起動させて文字うっているより早いから。ってもう何度も同じようなことを言っているが……今のところ。珠弓曰く話すことに対しても「準備ができてないらしい」どうなることか。


ってまあ急かすつもりはなかったのでが。あまりに寝室に入ってから出てこないので。とか思っていたら。


――ガチャ。


「おお、珠弓。大丈夫—―って」

「……」


ヤバイ。めっちゃ可愛いお人形さんが居た。あれ?確かこの服って俺と買い物に行った時に選んだやつでは?うん。今日は落ち着いた感じのお人形さんが俺の目の前に立っていた。


「……」


珠弓は俺を見て何かを待っている。


「あっ、悪い。いや、落ち着いた感じの服着た珠弓もめっちゃ似合うなって」

「……」


俺が言うと珠弓は一瞬嬉しそうにしたと思ったら、下を向いて、玄関の方に歩き出した。どうやら早く行こうらしいです。俺。待っていた気がするが……かわいい姿見れたからいいか。


そして玄関を恐る恐る開けている珠弓。そう光一が居るかもしれないという、珠弓の警戒。


「珠弓大丈夫だよ。まだ光一大学に居るはずだから」

「……」


俺がそう言っても珠弓は警戒したまま、外に出た。そして俺も出て鍵を閉め出発。


マンションを離れるまで珠弓は警戒モードだったが。マンションを離れて駅から電車に乗ると。お人形さんオーラ全開の珠弓と座席に座る。電車で近くに居る人がチラチラと珠弓を見ているが……珠弓はまったく気にしてない。そしてスマホをいじっていたので――予想通り。


♪♪


俺のスマホが鳴る。車内なので、マナーに切り替えてからメッセージを見ると、お隣に居るお人形さんから。


「準備に時間がかかってごめんなさい」

「いや気にしてないぞ?っかどこ行こうか?夜ご飯食べに行こう言ったが。場所は決めてないし。とりあえず。市内に向かってるだけだしな」


♪♪


「先輩が良ければですが。駅前にある定食屋さん行きたいです」

「あー、あるな。そこでいいのか?」


♪♪


「はい」

「わかった。って珠弓。電車の中でこのやり取りしてるとやっぱり俺が1人で話しているようになるんだが……そろそろ普通に会話とか無理か?」


♪♪


「ごめんなさい」

「謝られてもな――ってもうすぐ着くな」


駅に着いた後は、珠弓ご希望の定食屋へ。全国チェーンだったか。いろいろな定食があるので俺も何回か来たことがある。焼き魚や揚げ物とかあまり家ではしない物が食べれるので1年の時はそれなりに来た気がする。


お店に入るとそこそこ人が居たが。まだ空きがあったためすぐにテーブルへ案内してもらえた。


珠弓は早速メニューを広げている。うん。かわいい妹と来たみたいです。お子様ランチは頼まないと思うが……。


そして珠弓は――。


「……」


メニューの1カ所を指さしていた。ハンバーグにエビフライが付いたものを。うん。お子様ランチではなかったが。なんかそれに近いものを頼んでいた。かわいい。


「了解。俺はサバの味噌煮かなー」


2人が決まったところで注文。少し待つと料理が出てきた。いやー、美味しそう。そしてご飯おかわり自由がうれしい。


俺の前では手を合わせて、多分いただきますと言っているであろう珠弓。もうすべての行動がかわいいのですが。とか思いつつ俺も一口。


……美味い。家で魚なんて焼いたり煮たりはしないからな。そんなことを思いながら食べていると、珠弓は幸せそうにエビフライを一口。すると、俺が見ているのに気が付いたか。ちょっと恥ずかしそうにしている珠弓だった。悪い悪い。


2人で普段あまり作らない食べない物を満喫。っか珠弓。食べる時はめっちゃ食べる気がする。残すとかなくきれいに食べていた。


「……」


そして食べ終えて現在俺の目の前では珠弓が満足満足という顔をしている。


ちなみに俺はスマホを見ている。なんかもうアホほど光一からメッセージと着信があった。ちらりと見たが――。


「弥彦!どこいるんだ!?なんで2人ともいないんだ!?」


その後に着信が数回。


「弥彦電話出ろ!今どこだ!俺の珠弓ちゃんはどこだ!もしかして桃園が居るのか。居るんだな!」


勝手に桃園さんが居ることになっていたが……俺はスマホから目を離すと、先ほど追加注文した卵焼きが運ばれてきた。ちょっとメニューにあった1品料理が気になり。ついつい頼んでしまった。まず一口。うん。いい味。大根おろしと合う。って目の前から視線が――。


「……」

「珠弓も食べるか?」

「……」


すぐに頷く珠弓。反応がかわいい。が、問題があった。先ほど卵焼きが運ばれてきた時に空いた皿などが回収されてしまったので、珠弓の前には水の入ったコップとおしぼりしかない。つまり――。


「ほら」


なんか申し訳ない気もしたが。俺が使っていた箸と卵焼きを珠弓の前に。珠弓は箸を受け取ると、卵焼きをパクリ。って残り半分全部食べた……まあいいんだが。美味しそうに食べている珠弓。うんうん、食べる子は育つ。だっけか。そんなことを思っている俺だった。


食べ終わると珠弓はぺこりと頭を下げていたので……うん。これでごちそうさまなのだろう。今日は珠弓と外食の日だった。





今日のお人形さんは、パクパク食べていました。 

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