第21話 4月10日 昼休み
珠弓が大学へ入学してから数日。なんというか半分予想通り。半分予想外の日常となっていた。
予想通りなのは、珠弓の行動。やっぱり大学でもほぼ無言を貫いていた「そんなことを貫くなよ」などと何度か言ったのだが――メッセージでのお返事では「まだ準備できてない」などと返って来たが。準備に何年かかるのだろうか。心配。本当に……。
そして、予想外だったのは、あっという間に友人が出来たこと。それも珠弓のスーパー理解者?の友人が新たにできた。そのため大学生活には全く今のところは困っていないという事。桃園桃花。本当に桃が好きなのかは……まだ聞いていないのでわからないが。そのうち聞いてみようか。って、そういう事じゃなくて。この桃園桃花。本当に珠弓の事に関してはすごかった。桃園さん曰く「まだ珠弓ちゃんの声は聞いたことありません。でもそれが良いんです。国宝です。それに珠弓ちゃんは見ていたら何を求めているかなどは全部わかります」とか言っていた。そしてこの桃園さん本当に珠弓の事はわかっていた。
例えば、お昼休みになると俺、珠弓、桃園さんの3人でお昼を食べるようになったのだが……。
珠弓はいつも通り俺の横で静かにお弁当を食べている。そして、俺は桃園さんと話したりする。珠弓を何とか会話に入れたいので、俺は珠弓に話しかけたりとしているのだが。珠弓は頷いたり。こちらを見る。という事ばかりなのだが……桃園さんはそれを見て――。
「珠弓。ちょうどお弁当の話が出たからだが、リクエストあったら、言ってくれよ」
「……」
俺が珠弓に話を振ると、いつものように頷く珠弓。多分この反応は、そのうちメッセージで言ってくるパターンだろうな。とは思いつつももしかしたら……があるので俺は話しかけているのだが。俺の正面に居た桃園さんはそんな俺たちのやり取りを見ていて……。
「珠弓ちゃんはハンバーグが欲しいみたいですね。あと、野菜は多くても問題ないみたいですよ」
「……」
桃園さんが話すと珠弓はなんで「わかるの!?」という顔をしていた。まあ、そうだろう、今頷く以外何も珠弓はしていない。さらに他にも……。
「そうだ珠弓、今日は俺、珠弓たちより2時間以上終わるの遅いから先に家帰ってろよ?待ってるのはさすがに大変だろうから」
「、、、」
そんな感じに俺が言うと頷く珠弓。まあいつも通りだ。でも……正面に居た桃園さんから――。
「先輩、珠弓ちゃんは2時間くらいなら待つのに……ダメなのかな?待ってちゃダメ?とか思ってますよ?」
「……」
桃園さんが話している間に、珠弓は急いで立ち上がって、桃園さんの口をふさごうとしているが――うん。届いていない。というか……あたりなのかよ、珠弓と思っている俺だった。
そんな感じで、頷いたりするだけの珠弓を見て、桃園さんは的確に?だと思うが珠弓が考えて居る事言い当てている。当てている。というのか。見えているというのか。とりあえず、桃園さんは不思議な力があると勝手に思っている俺だった。なお、その能力は俺の事になると。
「……全くわかりません。柳先輩は――わかりませんね。何も見えません」
らしい。一応俺が試しに「今俺が考えている事言ってみて?」とか聞いて「午後の講義だるいな」みたいなことを思いつつ返事を待っていると……うん。全く違う事言っていたから。本当に珠弓だけというか。自分が気になるものだけに特化しているらしい。
ちなみにこの時桃園さんは「珠弓ちゃんを抱きしめたい」とか言っていた。それはない。ないからな?珠弓って何故か珠弓の方が恥ずかしそうに下を向いていた。
まあそんなこんなで、俺は桃園さん経由で珠弓がその時思っていることを聞けるようになったので、ちょっと助かっている。のだが。珠弓から見れば、考えていることが口にせずとも他人からばらされるので……それはもう、止めたくて必死だったが。結局いつも桃園さんにかわいがられて終わる。という繰り返しだった。見ているこっちは……めっちゃ癒される。うん。お人形さんがわたわたしているのはとっても癒される光景だった。
「そういえば。桃園さん」
「なんですか?先輩」
「光一と接触したんだっけ?」
「あー、はい。昨日無事に沈めました」
「……怖いから」
それは昨日の事。光一がボロボロになっていた。まあボロボロと言っても大喧嘩とかではなく。言葉による罵倒とでもいうのか。大学に居る時。珠弓が1人で居たところを光一が突撃とでもいうのか。猪突猛進か。まあとりあえず珠弓に光一が接近した。そしてすぐに桃園さんに見つかり――。
「弥彦!あの桃園とか言う奴は危険すぎる。今すぐに珠弓ちゃんから離した方がいい!断言する!危険だ!あいつは危険すぎる!」
そんな事を昨日の夜電話でギャーギャー言ってきたが。俺はちゃんと聞くこともなく電話をすぐ切った。眠かったし。ちなみにしばらく着信があったが、まあスマホの電源を切る。という対応をしましたとさ。
「結局……俺は光一から何があったかは聞いてないけど、桃園さんは光一に何言ったんだ?」
「その目は犯罪者。近寄るなクズ。珠弓ちゃんに今後近づくことの無いように。最低でも100メートルは距離をとること。とか言っただけですよ?」
一瞬だけ光一かわいそうだなとか思ったが――すぐに忘れた。
「一応先輩なんだが……まあなんというか……」
「国宝を守るためには必要な事ですよ」
「……そうなのか……って珠弓国宝言われてるが。どうなんだ?」
「……」
珠弓は俺の方を見て小さく首を横に振っていたので……まあ嫌という事か。国宝と言われるのは。
すると、その様子を見た桃園さんは――。
「珠弓ちゃんは困るけど。ちょっとはうれしい。でもやっぱりそう言われるのは恥ずかしいみたいですね。あっ、あと先輩に大切に……ちょ、珠弓ちゃん見えない前が見えないから!」
「……」
桃園さんが話している途中。珠弓は高速移動した。そして持っていたカバンで桃園さん顔面を押さえつけている。仲いいな、この2人。って今の珠弓ちょっと首を振っただけなんだが……そんなにいろいろな事思っていたのか?って……必死で桃園さんが話すのを阻止しているから……当たりなのか。
まあ、ちょっとにぎやかというか、珠弓は大変そうだが、新しいお友達ができたのは良いことでしょう。
今日のお人形さんは、よくわたわたしていました。
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