第19話 4月8日 開始

長かった春休みはあっという間に終わった。というか。珠弓が俺と一緒に住むことになり。なんかいろいろなことがあったから早かった気がする。うん。珠弓との思い出が多い春休みだった。


そして今日からは俺も2年生の講義が始まる。ちなみに隣にはお人形さんがいる。かなりぴったりと俺の横を歩いている。理由は――。


「珠弓ちゃん!なんでそんなに距離とるんだよー!」


数日前親に怒られていたはずの光一。もう普通。というか。いつもの事というのか。反省とかは一切しない馬鹿である。


「そうだ、珠弓ちゃん今日も集まる予定なんだけど来るでしょ?この前楽しかったでしょ?」

「光一。先に進めないから距離をあけて早く歩け。っか、珠弓が完全行きたくないオーラ出しているのをなぜ気が付かない。この前あれだけ嫌がっていたのに」


俺の隣で珠弓は……二度と行きません。みたいな感じで光一を睨んでいる。が……光一には効果なし。むしろ――。


「いやいや、珠弓ちゃん、そんなに見られたらさすがに照れるわー。もうこの前弥彦に抱きついたのも許せるわ。あっ今日のお昼おごるからさ。終わったら、食堂集合とかどう?」


全力で首を横に振る珠弓。おいおい、首痛めるぞ珠弓。とまあ朝からなんか疲れることをしている俺たち。


そしてそんなやりとりをしつつ。俺と光一。珠弓は大学までやってきた。すると……。


「ちょっと!そこの男2人!珠弓ちゃんから離れなさい!」


俺と光一、珠弓が声の方を振り向く。というか。俺と光一がここに居る時点で、珠弓の事を呼ぶ人って――他に居るのか?もしかしてたまたま同じ名前の人が近くに居る?いや、でも男2人は……俺と光一だけか。って、振り向くともう目の前に声の主はいた。そして、俺の横に居た珠弓の手を掴んで。


「大丈夫?珠弓ちゃん?何?ナンパ?この男達?変な事されてない?」


すっごく元気のいい。女性。見た感じ大学生?うん。多分大学生、まあ大学の敷地に居るのだから大学生とは思うが……っかスタイルがいい人だから……珠弓との身長差がすごいな。そして手を掴まれた珠弓がオロオロ?というかびっくりしている。うん?これは……どういう状況だろうか。と俺が思っていると。


「なんだお前?俺の珠弓ちゃんに何するんだ?」


光一が女子生徒?でいいかな。今俺たちのところにやって来た女性に対して言ったのだが……何かヤバイ気がした。っかなんかバトルが始まる?


光一は女性に威嚇というか。詰め寄った。が、女性の方も負けずに――。


「あなたたちこそ。誰ですか?珠弓ちゃんのなんですか?」

「俺は珠弓ちゃんの彼氏だよ」


それを聞いた珠弓がまた全力で首を横に振る。今日の珠弓は朝から大変そうだ。本当に首痛めるなよ?珠弓よ。


「違うみたいですね。珠弓ちゃんがかわいいからって、もう変なのが付いて回っているんですね。そこどいてください。私たちは失礼します。珠弓ちゃん早く行こう」

「ちょ、待て、そこの女!」


光一が呼び止めると。


「きゃああああ。痴漢!!!」


びっくりするくらい良い声で女性が叫んだ……すっごく響くいい声だったが――ってこれまずくない?


さすがに周りにいた人がこちらを見ている。そしてざわざわしだしたが……あれ?これ真面目にヤバくないか?


俺がそんなことを思っている間に、女性と珠弓は校舎の方へ駆け出していた。というか珠弓は引っ張られているだけだったが……ちょっと俺の方を見ていたが……って待て待て警備員が来たぞ。


「ちょ、そこの女待て!珠弓ちゃんを返せ!!」


光一は2人を追いかけて走り出す。って珠弓が足が速いのは知っていたが。隣にいる女性も早い。光一も全力?で追いかけているが……って、おかしいな。俺の前に警備員が2人居る。


「えっと――無関係です」


まあ、少し事情聴取というのか。お話することとなりました。


2年生初日から何してるんだよ。俺。まあ無実というのがわかったらしくすぐに解放されたが。たまたま近くに居た人が「もう1人居た派手な人と女性が揉めていました」みたいなことを言ってくれたから助かった。


とりあえず、俺は――「まあ講義室に行くか」と移動した。


それから昼休みになるまで俺は1人だった。確か、同じ講義に居るはずの光一はやってくることはなかった。


昼休み。お昼はお弁当である。なので俺は先ほどまで受けていた講義室にそのまま居た。

ちなみにお弁当は俺自分で作っている。これは1年生の時から。なんか大学に進学してから初めてみようと思い。ずっと続けている。なので、実は今日珠弓も同じおかずの入ったお弁当を持っていたりする。まあ、男が作るものなので……おにぎり2つと。後は冷凍食品やらをチンチンと温めただけで完成なのだが。たまに前日の残り物が入ったりもする。あっ、でも卵焼きだけはちゃんと作った。そして隙間にはプチトマトを入れておいた。まあ、そんな感じのお弁当を作っている俺だった。すると。


♪♪


「うん――?おっ珠弓か」


お弁当を食べようとしたら珠弓からメッセージが来た。


「朝はごめんなさい。今どこですか?」


そんなメッセージだったので。


「大講義室わかるか?そこの隅っこに居る」


と返事をしておいてから。おにぎりを一口食べた。するとすぐに近づいてくる影があった。


「朝はごめんなさい!何も知らなくて……」

「—―えっと……まあ、何もなかったから気にしなくても……」


朝珠弓を連れて行った女性と珠弓が俺に向かって頭を下げていた。っかやめて、周りから。あれなんだ?みたいな目線が多数あるから。


「とりあえず、もういいから。周りの視線が痛い」

「本当にごめんなさい。珠弓ちゃんがナンパされているものだと……」


わかっていた人も居るかもしれないが、現在俺の前で話している女性は。桃園桃花。大学1年生。珠弓の友人であった。


ちなみに、珠弓はいつの間にか俺の横に座っていた。


「そういえば、俺は自己紹介してないか。柳弥彦。大学2年生」

「私桃園桃花です。ホントーーごめんなさい」

「いやいや、ホントもう大丈夫だから。っか珠弓本当に友達出来たんだな」

「……」


俺が珠弓を見て言うと頷く珠弓。ってこいつお昼食べようとしていた。この雰囲気の中。そして気が付いたら桃園さんも俺の前の席に座り、パンをカバンから出してこちらを向いた。切り替えが早いというのか……まあいいか。





お人形さんは一時的に連れ去られました。

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