第16話 4月1日 大学生

本日は4月1日。

お昼過ぎ――まあエイプリルフール。でもあるが――。

そんなことはすっかり忘れていて、朝からちょっとバタバタ。今日は珠弓の入学式である。まあ本人が行くだけなのだが。珠弓は見た目を気にしているのか服装やらでちょっとバタバタしている。


入学式はお昼からなので先ほど早めにお昼ご飯を食べて、現在準備をしている珠弓だが……鏡の前ですでに数十分何かしている。


「珠弓。大丈夫か?」

「……」


俺が声をかけるが――まあいつもの通りだが返事はなく。こちらをチラリと見て頷く珠弓。そしてまた鏡を見ていた。忙しそうだ。ってやっぱり気になるんだよね。変なところはないかとか。すごく気にしている珠弓。なので、先ほどそんな姿の珠弓をこっそり隠し撮りさせてもらった。いや、変な意味ではないぞ?すでにその写真は、珠弓の親へを送り。俺のスマホからは削除した。ちょっと消すのは……もったいない気もしたが。もしも珠弓が俺のスマホを見たら……というのもあるので――。

そして珠弓の親からは……あれは何というのだろうか。喜び?歓喜?なんかわからないが。とりあえず、拍手しているスタンプが大量に送られてきた。なお連続でスタンプはやめてください。未読がすごい件数になっていて……ってマジですごい数なんだけど!?と一瞬焦った。


まあそんなこんなで、少しして珠弓は準備ができたみたいで出発。バタバタしているとは言っても、実は予定していた電車より2つも前に乗ろうと珠弓はしている。これは本人の希望。余裕をもって大学行きたいと。っか結局バタバタしていた気がするが……まあかわいいからよし。


そして玄関で1枚写真を撮らせてもらった。本当は大学で撮るのが普通かもしれないが。最近はね。なんかいろいろあるのか立ち入りが厳しくてね。とりあえず今から入学式行ってきます。という感じの珠弓を撮影して、珠弓が確認してからそれを珠弓の親に再度送った。大量のスタンプのおかげで先ほど送った写真が消えていたのでよかった。うん。珠弓の親ナイスである。先ほどはやめてくれと思ったが訂正。感謝。


「じゃ、気を付けて、後、友達作れよちゃんと挨拶して」

「……行ってきます」

「おお」


今日のお人形さん。すんなり?ではないが。行ってきますをちゃんと言ってくれた。うんうん。最近なんかいい感じな気がする。


そして珠弓が玄関のドアを開けると……。


「おー、来た来た珠弓ちゃ――」


バタン。


珠弓……おかえり。玄関のドアを開けたら最速で閉めた珠弓でした。


ピンポンピンポンピンポン。


インターホンが連続でなる。だから、壊れるからやめろ。っか壊れてもいいわ。静かになるなら。


「珠弓ちゃん!入学式行くんでしょ?ちょっとー」

「…・・・」


珠弓が……うん。怖い怖い。すごい目線で俺を見てきている。

そりゃね、ドア開けて光一が居たら……そうなるか。俺はため息を吐いてから。ドアを開けて。


「光一。珠弓が入学式遅れるから、どけ」

「いやいや、一緒に行くから」


俺は光一と話しつつ。後ろに居た珠弓に手で合図。気が付くかな?珠弓気が付いてほしいのだが――そんな事を思いつつ俺は光一と話を続ける。


「待て待て在校生も入れないぞ式には」

「大丈夫だ。俺は入れる」

「—―はい?」


なんか自信満々に言っている光一だが……確か入学式は新入生と先生。後は関係者の一部の人しか入れないはず。そして、親は中継?今どきというかネット上で見るようになっているはずだが……まあその中継も誰でも。というわけではない。なのに光一が?と思っていると。


「俺、関係者になったからな!」

「—―さらにはい?」

「珠弓ちゃんの入学式見たくてよ。なんか入学式の準備やらやらの設営?まあそんなんに入った」

「……光一。お前、珠弓が関係すると。すごいな。拍手だわ。でも珠弓は一緒には行きたくないみたいだから。気を付けろよ珠弓ー」

「なに!?」


俺はすでにそっと抜けていった珠弓がエレベーターに乗るのを確認してから手を振っておく。上手くいくとは思っていなかったが……珠弓小さいから俺が上手に隠したら抜けていったという――いいプレーだった気がする。うん。


「珠弓ちゃん!!」


光一は珠弓を追いかけるが。エレベーターはすでに居なかった様子。まあ駅で追いつかれるかもだが……何とかするだろう。と思いつつ……って、光一は非常階段向かったか……って戻って来たところを見ると開かなかったな。なんかここのマンション非常時になると自動でロックが外れる?みたいで通常時は施錠されているらしい。まあ非常時に開かなかったらかなり焦るが……今は正常に作動していてくれて助かった。


結局、光一は俺が見ている限り3分ほどエレベーターの前でうろうろしていた。どうやら珠弓がエレベーターのドアを長く開いているように、延長ボタンでも押したか。偶然誰かがどこかに乗り降りしているのだろう。延長ボタンだと他の人にも迷惑がかかったかもしれないが……まあ、今だけは許してあげて欲しい。


そして光一が完全に見えなくなった頃だった。


♪♪~


俺のスマホが鳴った。画面を見ると、珠弓。ではなく。珠弓父だった。


「もしもし」

「おー、弥彦くん写真ありがとう。元気そうで安心したよ」

「いや、はい。何とかやってます」

「私たちは今からインターネットで確認するんだが、もう珠弓は出かけたか?」

「あ、はい少し前に余裕をもって出ていきました」

「そうかそうか。あと、準備の珠弓の写真。感謝する」

「あ、ありがとうございます」

「これからも珠弓が迷惑をかけるとは思うが、頼んだよ弥彦く……っておいおい。お前。急になんだ」


電話口の声が変わった。


「弥彦くん久しぶりね」

「あ、どうもお久しぶりです」

「珠弓はどう?恥ずかしがって話さないから大変でしょ?」

「恥ずかしがっている……のかはわからないのですが、挨拶は最近してくれてますよ」

「あら!あなた。珠弓挨拶してるんですって」


すると電話口から「なんだと!?」となんかあり得ないくらいびっくりしている声が聞こえたが……。本当に珠弓は家でも話していなかったのだろうか……。


「次帰って来るときが楽しみねー、あっ弥彦くんとラブラブになっていても全く問題ないわよー。むしろ大歓迎よー!」

「……ははは……あ、あの、そろそろ入学式配信されるのでは……」

「あら。そうね。じゃ、弥彦くん珠弓の事お願いね。あっ、そうそう言うこと聞かなかったら。襲っちゃっていいからねー」


そんなことを言いながら珠弓夫婦の電話は切れていった。


「……もしかして珠弓。家では結構大変な思いをしているのだろうか――」


俺はそんなことを思いつつ。掃除でもするか。と動きだした。


そして珠弓から連絡が来たのはちょうど式が終わった頃だった。


♪♪


「今終わりました。もう少ししたら帰ります」


無事に入学式は終わった様子。俺はおやつでも準備して待っているか。とか考えていた。それから1時間。2時間。


「—―うん?遅くないか?」


入学式の流れは去年経験しているので、俺は知っている。確か。お昼に始まって2時間もしないうちに解散していたような……。


俺はスマホを見てみるが。珠弓からは連絡なし。一応メッセージは入れたが。今のところ返事もなく。見ていない様子。まあ、新しい友人作りでもしてるのか?と思ったが……うーん。あまりイメージができない。珠弓が誰かと話している姿を――


「……大丈夫だとは思うが」


珠弓は――うん。見た目はめっちゃ可愛いし。絶対注目されているだろうとは思ったが……もしかして中学とかの時みたいに、囲まれている?まさか。とかいろいろ考えていると――。


「もしかして――光一か?」


俺はその可能性が一番高い気がして……とりあえず電話をかけてみたのだった。






今日のお人形さんは入学式に行きました。そして帰ってきません。

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