第2話 宇宙、銀河の果て

 "我々"は、進化しすぎた。


 我々は、宇宙の果てにある銀河で生まれた知的生命体だ。

 今やその影響力は銀河系を遥かに超え、多数の惑星や人工的なコロニーを生息圏としている。

 高度に細分化された思考能力、発達した科学力。

 空間を自由に飛び越え、重力を自在に操り、量子をコントロールする。


 だがそれと引き換えに、我々は物語を生み出す力を失った。性的に興奮するという悦びを見失った。


 生み出せないのだ。新たな物語。新たな興奮。新たな劣情。

 生殖とは、生きることと同義だろう。我々は、高い知性と引き換えに、自我を薄く希釈されてしまった。

 もう何千年も、強い刺激を得ていない。あるのは、我々の中から無理やり搾り出した、薄めた水のような物語や、猥談だけだ。


 我々は、エロを欲していた。


 そんなある日、我々が見つけたのが『地球』と呼ばれる惑星だった。

 そこには、我々ほどではないにしろ、近いレベルで文明を築いた知的生命体がいた。

 まだ、物語を紡ぎ、下劣な劣情を抱き、毎日毎日、強い刺激のフィクション猥褻を生み出し続けていた。


 我々は、とても羨ましく、宝石を見つけたような気持ちだった。


 彼らの生み出す物語やエロを盗み見ては歓喜し、興奮し、涙を流した。

 我々は、千年ぶりに感動を思い出した。夢中になったのだ。


 だが、その矢先。

 地球人の一部、なんとも愚かなものたちが、自らその文明を崩壊させようとしていた。

 地球の知的生命体同士の戦争。惑星上の生物一切を死滅させるほどの、愚かな兵器。

 我々は焦った。どうにかして、この宝石を守らなければならない。

 だが、それは間に合わなかった。遠く離れた銀河のことだ。我々に干渉できることなど、たかが知れていた。


 そうして、人類は地球ごと消滅した。


 我々が地球の中で残すことが出来たのは、たったの3.31065平方メートル。

 そのときの我々の落胆と失望を言葉で表すことは難しい。


 だが、奇跡的が起きた。

 その3.31065平方メートルに住んでいた地球人は、なんということだろう。物語を紡ぎ、下劣な絵を生み出す能力を有していたのだ!


 我々は、彼を丁重に保護し、彼の生み出す作品を、また涙を流して喜んだ。

 彼がこの、下劣で最低な作品を生み出し続けられるよう、出来るだけ環境を変えずに、彼を保護しなければならない。

 我々は、彼の周囲の環境を可能な限り保護しなければならない。


 これは、我々の種族の存続をかけたプロジェクトだ。







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