俺が引きこもってエロ絵を書いてる間に人類が滅亡した

くねくね

第1話 地球、アパートの一室

 俺が引きこもってエロ絵を描きまくってる間に、どうやら人類は滅亡したらしい。



◆◆◆◆◆



「どうしてお前はこんな事も分からないんだ? 普通言われなくてもこのぐらい常識だろ? お前を育てた親の顔が見てみたいわ」


 ガタンッ!

 鋭い胸の痛いで、ベッドから跳ね起きる。

 ひどい頭痛に荒い呼吸。

 周囲を見渡すと、薄暗く、散らかった部屋。六畳一間のワンルームアパート。俺の自宅だ、職場ではない。

 どうやら今のは夢だったと分かり、俺は心の底から安堵する。


 大学を卒業し就職した職場で、俺は上司から毎日、数々の叱責を受けた。人格否定、両親への中傷、言葉の暴力。毎日繰り返されるそれに、俺の心は完全に砕けてしまった。

 俺は、働くことができなくなったどころか、この部屋から一歩も出ることが出来なくなった。

 収入も無く、失業保険も食い潰し、親からも愛想を尽かされ、一人でもう何年もこのボロアパートに引きこもっている。


 心臓が早鐘を打ち、吐き気が収まらない。夢だと分かっても、職場でのトラウマは今も俺を苛んでいる。

 俺は、もがくようにベッドから転がり落ちると、すぐ近くに置いてあるPCを起動する。

 薄暗く、饐えた臭いがし、散らかり放題のこの部屋で、このPCだけが俺の拠り所だ。

 部屋の中央に、浮かび上がるような四角形の光。これだけが、俺を世界と繋ぎ止めていてくれる。


「描かなきゃ……今日も……描かなきゃ……」


 俺は、粉々にされたアイデンティティをツギハギするために、液タブの上にペンを走らせる。

 俺がこのPCで行っているのは、絵を描くこと。

 俺は、今まで専門の技術を誰かに教わったことはない。一流のイラストレーターやプロのやつらに比べたら、下手もいいところだ。

 だが、俺はプロで活動している人ならまず描かないであろう、ニッチなスケベ絵を描くので、同じような趣味の人から依頼を受け、何とか生活している。


 最近出来た、ネットを介してお題をもらい、それに応えた絵を描くことで収入が振り込まれるというサービスに登録し、依頼を受けている。

 1枚、5千から1万2千円。月の収入にすればたったの6万円ほど。

 俺にはそれで十分だった。やってくる依頼の中で描けそうなものを選び、数日で仕上げる。俺の絵で性欲を満たした人からお金が恵まれる。

 そうすることで、俺はまだ誰かに必要とされていると実感でき、まだ生きていることができる。

 金だけではない。お題を提案してくれた人が気にいる内容なら、追加の金額と共に褒めの言葉ももらえる。

 良かったです。好きです。最高でした。ありがとう。

 これを見るたびに、涙があふれ、胸がいっぱいになる。

 まだ俺は生きている。この世界で、生きている。

 俺は液タブレットに、今日も下劣なエロ絵を描き続ける。

 強い達成感があった。こんな俺を評価してくれる人がいた。その感慨に憑りつかれ、一歩も部屋から出ず絵を描き続けた。


「……ふぅ」


 ようやく息切れも胸の痛みも落ち着いてきた。

 タブレットには、年端も行かない少女が乱暴される、下劣な絵が完成していた。

 俺は、それをサイトに送信する。数日中に見返りのお金が振り込まれ、出来が気に入ればお題の提案者からお礼の言葉や追加の金額ももらえる。

 この行為は逃げだと、ただの誤魔化しにすぎないと俺もわかっている。

 だが、未だにこれ以外で誰かに認めてもらう方法を、俺は思いつかない。


 落ち着いた俺は、いつものようにSNSのTLを眺め、動画配信サービスでアニメをいくつか見て、ウーバーイーツで届けてもらった食事を摂り、ベッドにもぐりこんだ。


 眠りに落ちる瞬間、何か大きな違和感を感じた気がしたが、俺はそれを確かめることも無く意識は沈んでいった。

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