悲観主義の人間たちと到着列車

冬迷硝子

悲観主義の人間たちと到着列車


ある少年が電車を待っていた。

学校の帰り道、寄り道したら遅くなった。

10分経ったところで電車が来るベルがなる。


『2番線ホームに入ります列車は、ただいま事故が発生し到着が遅れています。今しばらくお待ちください』


アナウンスがそう告げた。

事故?

浮かぶ言葉はどれも現実味を帯びていた。

一つ、消しては、また一つと。

次第に聞こえてきた声にその言葉が含まれていた。


『ねぇ、今の事故。飛び降り自殺らしいよ』


飛び降り自殺。

自ら身体を投げ捨てる行為。

誰だって知っている。

少年は、ただただ電車が来るのを待っていた。


『なんでも受験生らしくって、勉強が嫌になったらしい』


勉強一つで命を捨てる。

本来あってはならない行動。

馬鹿らしいと口を尖らせる暇もなく話は続いた。


『それが塾の教師に楯突いたらしくって喧嘩になって『死んでやる』って言ったらしいの。それでね、教師がこう言ったらしい『死ねるものなら死んでみろ』って』


人は、何故こうも赤の他人の話が好きなのか理解できない。

いちいち干渉して何に為るというのか。

それも死んだ人間の話を。

人間はいつ何に走るか分かったものじゃない。

周りの環境が良ければ良いほどに自分は狂う。

悪ければ悪いほどに壊れていく。

どちらも正解ではない。


『怖いよね。わたしらと同じ歳なんだって』


自殺に年齢は関係ない。

死ぬのに誰もが老けていくわけではないように

誰もが生きる意味を見つけられるわけではない。


『でさ、その死んでみろって言った教師が捕まったみたい。』


自殺に加害者も被害者もない。

死体が出るだけだ。


『この子、寂しかったんじゃない?』

『どういう意味?』

『わかんないけど、可哀想』


少年は耳にヘッドホンを付けた。

周りの声が聞こえないように。

それからは音楽に集中した。

そして光が見えたとき、

少年は黄色い線を跨ぎ、

ホームから足を落とした。


―――――――――――――――


ある少女が電車を待っていた。

学校の帰り道、寄り道して遅くなった。

5分待ったところでベルがなる。


『2番線ホームに入ります列車は、ただいま事故が発生し到着が遅れています。今しばらくお待ちください』


ホームにはアナウンスが流れた。

事故。

よくあることだ。

電車でも車でも飛行機でも必ずといっていい。

人を巻き込む災害。


『なぁ、今のアナウンス聞いたか?事故ってやつ。あれ飛び降りだったらしい』


飛び降り?

巡る言葉はただ一つ。


『どうやら恋人にフラれたらしい』


よくある展開。

好きになった相手が自分を裏切る。

そんなの誰にだってある。


『嫌だよな。振った相手にこんなことされたら。それにその子何人かに告ってそれでも駄目で一番好きだった相手にもう一度いったらしい。それで案の定。それでもその子は諦めなかった。意地張ってたんだろうな。断られるのはわかってて』


未練たらたら。

そんなのでよくやっていけたものだ。

恋の道は一本じゃない。

それほど好きだったんだろう。


『その相手が言ったらしいんだ。『どれだけ好きなのか、その身体で表して』って』


死ぬほど愛してる。

愛の最終形態。


『本気で死んで欲しくて言ったわけじゃないんだろうけど。やりすぎだよな?』

『いや、その子はただその好きだった子と話したかっただけじゃないのか?』

『でもそれだけで死ぬか普通』

『普通じゃなかったんだ。その子が』


少女は耳にヘッドホンを付けた。

周りの声が聞こえないように。

それからは音楽に集中した。

そして光が見えたとき、

少女は黄色い線を跨ぎ、

ホームから足を落とした。


―――――――――――――――


ある少年が、電車を待っていた。

学校の帰り道、寄り道したら遅くなった。

1分待ったところでベルがなる。


『2番線ホームに入ります列車は、ただいま事故が発生し到着が遅れています。今しばらくお待ちください』


アナウンスがそう告げた。

事故。

そんなのどうだっていい。

他人なんて知るものか。


『ねぇ、今の聞いた?あれね、飛び降り自殺だったみたい。その子、高校までずっと一人で孤独だったみたい』


居るよな、そういうやつ。

クラスに一人は。

ああいうのは見てて笑える。


『でも大学に上がってからは恋人もできて友達もたくさんできて。憧れのキャンパスライフができたみたい』

『それのどこに飛び降りなんて結びつくの?』

『分からない。でもきっとね、幸せだったんじゃないかな。永遠の幸せみたいに』


少年は耳にヘッドホンを付けた。

周りの声が聞こえないように。

それからは音楽に集中した。

そして光が見えたとき、

少年は黄色い線を跨ぎ、

ホームから足を落とした。



ある少女が、電車を待っていた。

学校の帰り道、寄り道したら遅くなった。

ホームに上ったところでベルがなる。


『2番線ホームに入ります列車は、予定通りの時刻で到着します。黄色い線の内側にお下がりください』


アナウンスが告げた。

少女は耳にヘッドホンを付けた。

周りの声が聞こえないように。

それからは音楽に集中した。

そして光が見えたとき、

少女は黄色い線を跨ぎ―――。



※この物語はフィクションです。

実在の人物や団体、法律などとは関係ありません。

自殺を助長または教唆きょうさものでありません。

法律、法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

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