第9話

「商店街のお店も次々閉まって、シャッター通りでしょ?写真をお店で現像する人も減ったし。若い人は皆、ショッピングセンターに入ってる写真スタジオに行くからって…。」

感情を込めるのを、あえて避けるように、母は淡々と言った。


 どれも分かり切っていた事だ。数年前から鈴木写真館へ来るのは、昔からのなじみのお客さんだけだったから。それでも、私は鈴木写真館が無くなる事などないと思っていた。きっと、無意識に現実から目を逸らせていたのだ…。


失恋の話の時には耐えられた涙が、ポロポロと溢れ出す。止める事など出来なかった。


「多分ね、夫婦二人だけだったら、お客さんが減っても今更、何も考えずにお店を続けると思うの。もうトシちゃんにかかる学費もあと一年だしね。それでも畳む事にしたのは、お店があり続けると、トシちゃんが写真館を残したいって考えてしまうからじゃないかしら…」

母の予想はきっと当たっている。

和子さんは分かっているのだ。

このままだとトシが「店を継ぎたい」と言い出す事を。そしてそれは当然、明るい未来では無いという事も…。


 トシの兄であるヨウ兄は東京の大学へ進学した。それからのトシは地元から通える距離の大学を探して今の大学に入った。きっと「自分が継ぐ」という思いがあったのだ。そのトシの思いを感じて、おじちゃんとおばちゃんは就活が本格化する前のこのタイミングで店を閉める事にしたのだろう。


「寂しいけど、和子さんやトシちゃんに余計な事言っちゃダメだよ」

「そんなこと、分かってるよ」


 涙でグシャグシャになった私を包むように、母さんは私の頭を撫でた。まるで小さな頃に戻ったようで、またさらに涙が出る。


“夕方、三角公園集合で!”

とトシからLINEがきたのは、それから一週間後のことだった。

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