　大学2年生になる頃、年上の彼氏が出来た。バイトの先輩だった。高校の恋愛と何が違ったのか…私は浮かれていた。

2つ歳上の彼はバイトまで車で通っていて、よく助手席に乗せてもらった。車内に流れる音楽を口ずさみ運転する横顔。コンビニで買う缶コーヒー。その香りが残るキス…。彼はとても大人びて見えて、全てにドキドキした。

　接客で焦っていると「変わるよ」と、そっとフォローに入ってくれ、「無理するなよ」と先回りして手を取ってくれるような言葉を彼はよく言った。

　スマートに女の子扱いされる事なんて初めてで、彼に寄りかかって甘えて、浸っていた。あの頃、世界の色が違って見えたし、私の時間は彼を軸に回っていた。

　ところが、付き合って1年を目前にして、突然振られた。「他に好きな人が出来た。別れて」と…。目を背ける事の出来ない現実を突きつけられ、刃はモロに心臓に刺さった。文字通りハートブレイク。よりによって彼の好きになった子は同じバイト先の子。

　彼の好きになった子と自分を比べては自信を失っていった。誰かと自分を比べる時、学歴や資格や面接スキルのせいにできる就活と違って恋愛って何て残酷なんだろう。彼の好きになった、その子になりたかった。

空に虹がかかったこと

ハートの形の岩を見つけたこと

自販機で当たりが出たこと

小さな幸せを、誰に言えば良いんだろう。この感情はどこにもっていけば良いんだろう。行き場を失った喜びが私の胸を締め付ける。年中「ダイエット」と言っていたのに、驚く程に体重は落ちた。

「最近何かあったの？」

夕食のカレーを口に運びながら母さんは私にそっと聞いた。

「振られちゃった」

彼氏がいる事も、それ以前に自分の恋愛の事を母に話す事なんて今まで無かったのに、あっさり告白していた。恥ずかしさにも気が回らない程に弱っている自分に気付く。

「そう。食欲出ないと思うけど、一日三回、何でも良いから口に運びなさい」母さんはそれ以上何も聞かなかった。優しい口調に、涙を必死にこらえる。

「そういえばトシ君家、鈴木写真館、年内でお店畳むんだって」

「えっ？」

自分の口から想像以上に大きな声が出た。

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