第7話
高校生になった夏のある日、トシから告白された。
商店街が見渡せる小高い丘の公園を、私達は“三角公園”と呼んでいる。文字通り三角なのだが、ブランコと砂場、その脇にベンチが二つ並んでいるだけのそこは公園と呼ぶには最小の単位な気がした。
二人でブランコをキーコキーコ鳴らしながら「うちら、おおきくなったね」なんて足の長さを持て余し、笑い合っていると…
「今更だし、分かりきってる事だけど、やっぱり俺は優子の事が好きだ。付き合って欲しい」
と、トシは言った。
「ごめん、トシの事は嫌いじゃないけど…付き合う相手としてはちょっと分かんない」
好きでも、嫌いでもなく、自分の気持ちをそのまま言葉にした返事だった。
「そうだよな。無し無し、今の無し。忘れて♪」そう笑いながら言うとトシは「山崩ししようぜ」と、余韻を残さずに砂場へと移動した。
いつもと変わらないその背中を見つめながら、私は心臓の鼓動が普通の速さに戻るのを待っていた。
トシを恋愛対象として見れるかは分からない。でも、良い奴だという事は分かり切っていて、それだけで高校生の付き合う相手としては十分な気もした。
あの時、トシとの関係が今までと違う物になるのが怖かったのだ。壊れてしまったら、もうこれまでのような関係には戻れない気がしたから…。
高校の三年間、私は驚く程モテた。告白される度、中学のトシによる防御線の威力を思い知った。恋人が出来た事もある。とはいえ、高校生の付き合いは可愛い物で、花火大会や映画をに行って手を繋いでドキドキしはしたが、部活やら受験やらで関係は終わっていった。
変わらず鈴木家には晩御飯をご馳走になりにお邪魔していて、告白された後にトシとの関係が気まずくなる事も無かった。それはきっとトシのおかげだ。バレンタインには毎年恒例の義理チョコを渡し、
「世界で一番有難い義理チョコ!!」
とトシは大袈裟に喜び、その度に「大好きな優子からチョコを貰えて嬉しい」と、トシは5才の頃と同じ事を満面の笑みで言うのだった。
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