第3話

 トシは幼い頃から、おばちゃんに瓜二つだ。写真館へ来るお客さんからも「本当にトシちゃんは和子さんソックリだね」と言われる事が多く、その度におばちゃんが「アメーバみたいにトシは私が分裂して出来た子だからね」と答えていた。

 幼い頃、おばちゃんが分裂してトシが出来る夢を私は何度も見たものだった。無茶苦茶な話だが、何となくおばちゃんになら出来そうな気がする。

 そんな訳で、おばちゃんのオモシロ遺伝子を存分に引き継いだトシは小学校に入ると、クラスのムードメーカー的な存在になった。トシの周りにはいつも自然と人が集まり、女の子からもモテていた。

 ただ…、「トシ君って面白いよね」は認めるにしても、それが派生して「トシ君って格好良いよね」と女子の間で話題になると「いやいや、あなた達、冷静になって彼の顔をよく見てごらん」と私はいつだって思うのだった。


 迷惑だったのはトシの事を好きだと言う女子が口々に「トシ君には優子ちゃんがいるもんね」と言い始めた事だ。トシの物になった覚えは全くない私は、その言葉を聞く度に強く否定していた。それでも何度も同じような事を言って来る女子が絶えないので不思議に思っていると…「だってトシ君がいつも、そうやって言ってるよ。」と。

 どうやらトシは女子に“好き”と告白される度に「申し訳ないけど俺には優子がいるから…」と言っているらしい。何とも迷惑な話である。


「トシ、あのさ、あちらこちらで私の事を好きって言いふらすの辞めてくれない?」

下校中、トシの家に向かって歩きながら私は言った。

「へ?なんで?本当の事じゃん」

トシは何が悪いのかサッパリ分からないと言う表情だった。

「とにかく、トシと噂になるのは嫌なの。これから私の知らない所でそんな風に言うのは絶対辞めてね」

「分かったよ。優子のいない所で名前を出すのは辞めるよ」

あからさまに少し寂しそうな表情でトシは言った。


その横顔を見たら、何だか可哀想になって自分の口から出た強めの言葉を少し後悔した。


 しかし、それから半年後、この時の後悔を思いっきり吹き飛ばす事件が起きることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る