第2話

 トシのお母さん和子さんは豪快に笑う人で、太陽のように底抜けに明るい。小学生の頃トシの家に遊びに行くと、

「トシ、あんた、ゆうちゃんに嫌な事したら承知せんでね」

と右手のゲンコツを振りかざし、

「だから、いつも言ってるけど、大好きな優子にそんな事する訳ないだろ」

とトシが言って、

「トシなんかに好かれて、ゆうちゃんもいい迷惑よねぇ」

とガハハハッと笑うのが、お決まりのパターンになっていた。


 おばちゃんは、料理が物凄く上手い。豪快な性格ながら、繊細な味の和食を作る。

「作り過ぎちゃった。良かったら貰ってくれる?」

とトシの家に私を迎えに来た母の晩御飯まで持たせてくれた。

 そんなおばちゃんの性格とは逆に、おじちゃんは物凄く静かな人だ。たまに話す時も、ポツリ・ポツリと独特の間で会話を展開していく。だから、おばちゃんとおじちゃんが会話すると徐々に話のスピードにズレが生じて、必ず途中からおばちゃんの勢いの良い独り言になってしまう。

 でも、おじちゃんはそれをどこか楽しんでいるようだった。一人で喋り続けるおばちゃんを愛おしそうに見つめ、静かに微笑むおじちゃんは、いつもとても幸せそうだ。


 そんな二人が営む“鈴木写真館”は町の商店街の一角にある。小さなお店ながら、記念写真や証明写真を撮影しに来たり、フィルムを現像しに来る地元のお客さんで賑わっていた。特に入学式や七五三のシーズンになると、おじちゃんとおばちゃんは大忙しだった。私とトシは学校から帰ってくるとよく、写真館で撮影する二人の様子を後ろからそっと覗いていた。

「笑って笑ってー。そんな、取って付けたような笑顔しないで。ほら、ハッケヨイ・ノコッタ!!」

いつも変わらず、おばちゃんはおしゃべりで、何故か決まって掛け声は「ハッケヨイ・ノコッタ」。

お客さん達はおばちゃんのキャラクターと底抜けの明るさに思わず笑ってしまうのだ。そして、その一瞬の自然な笑顔を逃さず、おじちゃんが静かに、それでいて絶妙のタイミングでシャッターをきる。


 そんな二人の撮影した写真は、自然体でぬくもり溢れていて、必ずと言って良い程、お客さん達はリピーターになってしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る