おかわり第8話「フライパンハンバーグ」

コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87181837


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>



・佐々木美貴

 佐々木くんの母。割と若いシングルマザー。美容師。チェーンの美容院の雇われ店長。仕事熱心。おもしろおばさん。たぶんモテる。佐々木くんを産んだ時期以外ずっと働いていた。4、5年前に離婚。息子がモテたいという下心に離婚経験がある母として母なりに理解をしめしつつアドバイスをしたりしなかったり見守っている。39歳。


・青春監督

 仮名。熱い。島本和彦みたいな。


・キャプテン他野球プレイヤー

 軒並み坊主頭。貫井高校と貫井北高校ユニフォーム前シリーズ19話

 



●1

■大 タイトル。

佐々木{あのカントク練習後のミィーティングなげーよ}

佐々木「はらへったー」

 家に帰ってくる。

 キッチン。

 冷蔵庫から牛乳出して飲む佐々木。

美貴「材料そろってるから今日あんた作ってー」

 スマホいじってる佐々木母・美貴。

佐々木「えーっ? またかよー」

 不満げに美貴を見る。

美貴「作り方教えるし」「フライパンハンバーグ好きでしょ」

佐々木「え、アレ俺でも作れるの?」

美貴「もちろん」「料理できるとモテるよ」「あんたの野球でモテようって目論みよりは確実に」

 ニヤリと笑う。


●2

美貴「玉ねぎ半分みじん切りにして、丼に入れて油を混ぜて、ラップをせずに電子レンジに3分かける」

「出したらまた混ぜて、ほっといて冷ます」

 電子レンジの前の佐々木。

美貴「ボウルにひき肉400g、卵1つ、トマトケチャップ大さじ1と1/2、ウスターソース大さじ1、牛乳大さじ1、しょうゆ小さじ1/4、塩小さじ1/3、こしょう少々、おろしにんにく小さじ1/4、パン粉1カップ」

「レンチンした玉ねぎを入れて、粘りが出るまで手で混ぜる」

 混ぜる佐々木。

美貴「肉だねをたたきつけて空気を抜く」

(ばんっ! ばんっ!)

 佐々木、床にボウルを置いて。

美貴「ナイスミート!」「ヘイ、ナイスミート!」

 野球部員を真似するようにコールする。

(ばんっ! ばんっ!)

佐々木「うっせーわ」

 母の冗談にうんざり。

美貴「トマトは1個縦半分に切って縦5mm幅に切る」

 包丁つかう佐々木。


●3

美貴「フライパンにペーパータオルで油を適量塗って、強めの中火で熱する」

美貴「温まったら火を止めて」「止めないとヤケドするよ」「肉だねを入れて広げてまわりをヘラで整える」

 肉だねをととのえる。

佐々木「うお、すでにデカい肉の塊でうまそう」

美貴「強めの中火にかけて2分くらい焼いて火を止める」

美貴「いったん皿に移すよ」

 と皿にのせかえて。

美貴「気をつけて」「皿を手に持って滑らせて移して……」

美貴「こんどはフライパンをかぶせて」


●4

美貴「皿ごと返す!」「OK!」

美貴「ナイスフリップ!」

 またコール。

佐々木「うっせーて」

 うるさそうにうんざり。

美貴「肉だねの縁を2cmくらいあけてトマトを放射状に並べて」

美貴「ピザ用チーズをふって」

美貴「水大さじ2くらいまわりから入れる」「ふたをして強火にかける」「煮立ったら弱火にして15分蒸し焼き」

美貴「ほい、できたね」

 フライパンいっぱいハンバーグ。

美貴「フライパンの中で4等分に切り分けて」

 ヘラで切り分ける。

美貴「器に盛って肉汁をかける」


●5

■大

 どんぶりめしとフライパンハンバーグ、味噌汁。

佐々木「いただきまーす!」

<フライパンハンバーグ>

佐々木「うめー!」「最初から肉に味付いててソースいらずなのにジューシーだ」

 ほおばる佐々木。

美貴「しかしこの暑いのにあんたぜんぜん食欲落ちないねー」

 と自分も食べながら感心する。

佐々木「夏はまだまだ始まったばかりだぜ!」

「明日練習試合だし、しっかり食わねえと」

 がつがつとどんぶりめしをかきこむ。

美貴{ベンチウォーマーなのに}{健気な子}

 ジッと見る。


●6

 日曜日午前9時。

 朝市で買い物した忍と京子とセクシー。

忍「朝市ってお祭りみたいだったね」

 きゅうりとトマトの袋を持ってる。

京子「甘夏と野菜安かった」

 甘夏がたくさん入った袋を持ってる。

セクシー「おせんべの大袋買ってしまった」

セクシー「さて早朝からイベントをこなしてしまったが、日曜はこれからだ」「どうする?」

京子「んー」

 と持て余した日曜の予定を相談する二人。

忍「あ、ゆみみちゃん」

 とバッタリであう。

ゆみみ「おはよう!」


●7

忍「どこいくの?」

ゆみみ「すぐそこで野球の試合なの」

忍「へえ」

京子「!」

 それだ!と気付く。

京子「みんなで野球見に行こうよ」

 と提案。

セクシー「あんた野球よく知らんだろ?」(私もだけど)

京子「その試合、大谷翔平出る?」

ゆみみ「貫井北高には大谷は来ないと思う……」

 苦笑い。

 道すがら。

ゆみみ「今日本当はお兄ちゃん引っ張り出そうと思ったんだけど結局起きなくて」

ゆみみ「もう試合始まっちゃう」

 貫井北高に入っていく。

セクシー「高校野球が好きなの?」

 そんな小学生いるんだ、と信じられない。

ゆみみ「うん!」「あっ、やってる」

 グラウンドを指さして。

ゆみみ「お兄ちゃんが卒業してから北高に入ってきたピッチャーの黒木君がすごいんだよ」

 ごくわずかだが練習試合を見ている観客(父兄? 関係者? 近所の野球好きおじさん? 水島御大?)がいる。


●8

(スイッ)

 黒木、マウンドで投球、踏み出し

(ザッ)

 振られる腕。

(ヒュッ)

 身構えるバッター貫井高校野球部A、キャッチャー貫井北高野球部、主審

(パシィッ)

 ミットに飛び込むボール。

 バッター見送る。

審判「トーライ!」「バッターアウッ!」

野球部A「だめだ、手が出ません」

 ベンチに戻ってくる。

青春監督「あの変化球はなんだ?」

野球部A「たぶんスクリューかなんかっス」

野球部A「しかもカーブと織り交ぜてきます」

 と監督に。


●9

青春監督{バント!}

(ぱ)(ぱ)

 ブロックサイン。

 しかしスリーバント失敗。

審判「アウッ!」「ッチェンジッッ」

 グラウンド脇外野の少し高く盛った校舎側の土手の芝生に座る4人。

セクシー「打たないなー」

京子「ホームランが見たいね」

忍「うん」

ゆみみ「黒木君、お兄ちゃん以来のエースって言われてんだから」「きっと打たれないよ」「今年こそ北高は甲子園行けるよ」

 夢中で見てる。

セクシー「忍、おせんべ食べる?」

 観戦体勢をつくる。

京子「ちょっとトイレ」

 と離れていく。

 ベンチ。守備なので補欠と監督だけがベンチにいる。

野球部補欠B「ん」


●10

野球部員補欠B「あそこにいるの、ウチの女子じゃね?」

 と指さす。

野球部補欠C「お、知ってる」「胸と脚がすごい女」

 と言われて見る佐々木。

佐々木「う、高木陽子…」「なんで……」

 うえ、と驚く。

野球部補欠B「おい、知りあいか?」

佐々木「同じクラス……」「ってか俺、小学校のときは剣道やっててあいつと同じ道場だった」

 苦い顔。

野球部補欠C「今度紹介しろよ」

佐々木「いや、4年くらい口利いてないし、嫌いだし」

野球部補欠B「なんだそりゃ?」

佐々木{あいつから一本も取れたことねーんだ……}

 と嫌な事を思い出して。

野球部補欠C「もう1人いる」「あれメチャかわいいんで有名な子じゃん」

 トイレから帰ってきた京子。

佐々木「うわ、市川京子…!」

 オフで驚く。


●11

セクシー「あれ? あそこなんて書いてる?」

 バックネット近くのスコアボード。

セクシー「相手って貫井高校(ウチ)の野球部?」

 とスコアボードを目を細めて見ようとする。

ゆみみ「貫井高校」「万年一回戦敗退の弱小校」

 淡々と。

セクシー「……我が校そんなに弱いの」

 あまりの言われ様にひきつって。

ゆみみ「確か28年前に一回戦勝ったのが唯一で」

 思い出すように。

ゆみみ「今年は一年生が1人しか入らなくて部員数14人」「ベンチ定員すら満たせず部の存続も危ぶまれてるって」

京子「くわしい」

セクシー「私らも知らないことを……」

 ゆみみ以外三人苦笑い。

京子「んじゃ、あの中にウチのクラスの佐々木くんがいるかもね」

 佐々木の存在を思い出して。

セクシー「佐々木? あいつ試合出られるのか? 補欠じゃね?」

京子「みんな同じかっこで坊主だから見分けがつかない」

セクシー「私も目が悪いからよくわからない」

 プレイ中の同じようなかっこの選手たち。


●12

佐々木{なんであいつら応援しに来てんだ……?}{練習試合なのに}

 京子とセクシーを見ながら。

<野球部あるある「試合見てる=応援だと思い込んでしまう」>

佐々木{……俺のことを?}

 ハッとして確信をふかめてしまう。

佐々木{いやまさか}{いや、でも、だって野球部に俺しか知りあいいないだろ……}

<佐々木の心に小さな火が点った>

<いっぽう未だ佐々木を認識できない人たち>

京子「ウチがいま打ってるほう?」

セクシー「さあ?」

 おせんべをバリバリ食べながら。

ゆみみ「守ってる方だよ」

京子「守ってる方って投げてる方?」

ゆみみ{高校生なのに何も知らないのか……}

 呆れて半ば無視を決め込む。

京子「ホームランが見たいよね」

忍「そうそう出ないんじゃないの」

<北高の黒木の決め球スクリューに手が出ない貫井高校ナインは>

 投げる黒木。

<見送られるスクリューを軸にカウントを整えられて凡退を繰り返し>

<一方で北高も塁には出るものの得点に繋げず>

 塁に出る北高選手。汗をかく貫井高校キャプテン(ピッチャー)。

<7回表まで試合は無得点でもつれた>

<が、ついにワンナウトから貫井高校8番ライト小垣のバントが成功する>

 小垣のバント。


●13

セクシー「あのチョンってやるやつさあ、あんなことしていいの?」

 不審げに。

ゆみみ「いいのっ!」

 さすがにイライラしはじめる。

京子「どういうことあれ」「ウチが勝ったのー?」

 と甘夏を剥きながら。

忍「えーと」

 どう説明しようか困る。

青春監督「代打!」

青春監督「9番ピッチャー川田に代えて佐々木」

佐々木「は、はいっ!」

 立ち上がる。

野球部A「佐々木! ボール見てけ!」「スクリュー、ストライク入らなくなってきてるぞ」

 と囁く。

佐々木「うす!」

 佐々木、バッターボックスに入って挨拶する。。

佐々木「あーす!」

(ちらっ)

 と京子たちを見る。

佐々木{見てるか……}

 ボンヤリ見てる京子たち。甘夏をわけあっている。

黒木{高め内(なか)}

 キャッチャーのサインを確認して、


●14

(スアッ)

 と踏み出す。

(バシッ)

(ブウン)

 釣られて空振りする佐々木。

佐々木{くそっ、見え見えの球に……!}

佐々木{でも振り遅れてないぞ}

ゆみみ「でもいま京子ちゃんたちの学校チャンスなんだよ」(送って1番に繋げば…)

 と京子を振り返って。

忍「あの人がホームラン打てば2点入るよね」

 とゆみみに。

ゆみみ「う、うーん、まあそうだね」

ゆみみ{打てそうもないけど}

セクシー「へー」

 関心なさげに。

京子「じゃあ応援するか」

 ノリで。

青春監督{送りバントだ}

(ぱ) (ぱ)

 ブロックサイン


●15

佐々木{バント……}

 サインを見て。

佐々木{そうだよな}{冷静に当てて……}

 とピッチャーを見て。

■小のせごま

京子「せーの…」

 口元。

■大

京子セクシー忍「ホームラーン!」

 と声援をおくる。

■小

(ぴくん)

 それを聞いて、目を見開く佐々木。

■小

(わはは)(くすくす)

 練習試合ににつかわしくない声援に笑ってなごむ他の観客。


●16

(ザンッ)

 マウンドの黒木、踏み出して振られる腕。

 ホームに迫るボール。構えている佐々木、キャッチャー、主審。

佐々木{カーブ!}

佐々木{──っ}{の!}

(ブンッ)

 スイング

 ミートする。

(カッキィッ)

ベンチ「打ったあ!?」

 驚く監督キャプテンら。


●17

 ゴロを捕えるショート

ショート「セカン!」

 セカンドに投げる。

 間に合わない1塁ランナー。

貫北セカンド「ファースト!」

 2塁から1塁へ

 佐々木、1塁に間に合わない。

塁審「アウッ!」

セクシー「あれ、あれ、どうなったの」

ゆみみ「ダブルプレー」「チャンスダメにしちゃった」

京子「あははは、ダメだったかあ」


●18

忍「なんかもめてるよ」

 と不穏に気がつき心配そうに。

セクシー「お? 乱闘か?」「やれやれ!」

 面白がる。

野球部員A「おま、なにやってんだよ!」

キャプテン「ふざけんな! なんでサイン無視した!」

 佐々木に詰め寄って囲む貫井高校ナイン。

佐々木「すみません!」

 目を強くつぶって頭を下げる。

 頭を下げたまま指をさして。

佐々木「俺の好きな子があそこで応援してくれて……」

佐々木「いいとこ見せたかった……っっっ」

 振り絞るようにして、涙ぐんでいる佐々木の顔。


●19

 佐々木の言葉に無言になるナイン。

 ごん、おまえだったのか。戦争がこんな犠牲で成り立ってたなんて、ちっとも知らなかった。知らなかったんだ…!

キャプテン「無罪だ」「俺は佐々木を責められない」

 俯いて呟くように。泪を見せないように。

青春監督「うむ」

 それを受けて背を向けながらうなずく。

青春監督「昔からこう言われている…」

■大

青春監督「「好きな女子が応援してるときは送りバントのサインは無視してよし」……!」

 ナインに背を向けて。昼前なのにすでに夕闇が迫るような雰囲気。

佐々木「カントク……!」

野球部員「カントクー!」

 泣く一同。本人たちシリアス、でも全体ギャグっぽく。


●20

<結局この裏に> <四球で出塁したランナーを送りバントとスクイズで1点もぎ取った北高が>

 スクイズでランナーが戻るホーム。喜ぶ貫井北ナイン。

<最後までリードを守り抜いて勝敗は決した>

ゆみみ「ね?」「北高の黒木君てすごいピッチャーだったでしょ?」

 と目をキラキラさせて笑顔で振り返る。

セクシー「うーん、よくわかんないけど、全然打たない試合で面白くなかったな」

 甘夏をかじりながら。

京子「え? じゃあウチが勝ったの?」

 わかってない。

 うんざりするゆみみ。

ゆみみ「そっちは負けたの!」オフで。

 しょんぼりして挨拶してる佐々木ら野球部「ありゃっしたー!」

<佐々木の夏は始まったばかりだが、わりと既に終了ムードであった>

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姉のおなかをふくらませるのは僕 坂井音太 @hadaka

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