おかわり第5話「番外編・藤そば店舗限定メニュー」

コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87180595


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>


・藤そばの店長

40歳くらい。元イタリアンレストランのシェフ。人の良さそうな感じ。客あしらいに苦労する。



●1

■タイトルこのページ適当に

 深夜、仕事あがって、ホステスたちと分かれる梨由子。

ホステス達「梨由子ママおやすみなさーい」

梨由子「気をつけて帰んなよ」

 沙織はお休みなので梨由子一人。

■大 ぶちぬき

 夜の街をスタスタ歩く梨由子。イイ女が堂々、颯爽と歩いている。パッと髪を後ろに払って澄ましている。

 酔っ払いのおじさんたちも、毅然とした梨由子には一目置くだろう! という感じ。ここではモブは梨由子を見てない。

(かっかっかっか…)

 「名代藤そば」の看板が梨由子の目に入る。

 今日も来てしまった。


●2

 自動ドアがひらいて入ってくる梨由子の脚。

(がー)(ピロリンピロリン)

 酔客が入り口を何気なくちらりと梨由子をみる。藤そば呑み。ビール飲んでる。

(かっかっかっ)

 券売機に向かって歩いてくる梨由子。

 3人ほどのバラバラの酔客。

 箸をとめて場違いな梨由子の美貌にハッとしたりオッと目をやったりしている。

 西部劇っぽいカット構成。

 券売機の前で立ち止まる梨由子。

 特もりそば(うどん)500円のボタンを押す梨由子の指。

(ばちっ)(びー)


●3

(かっかっかっ)

 カウンターに向かって歩く梨由子。

 見守る酔客たち。

 近づく梨由子にちょっと緊張する店長。

梨由子「おそばで」

 と券を差し出す。

店長「は、はい」「今から茹でますので半券持って5分ほどお待ちください」

 席に腰掛けて水を飲みながら文庫本を読んで待ってる梨由子。

店長「81番、特もりそばでお待ちのお客様」

 トレイを受け取る梨由子。

 その後でそばを手繰りながら梨由子をチラッと見ている酔客。


●4

■小

 刻みネギを蕎麦猪口に全部入れて

■小

 箸の先にワサビをつまんで

■小

 蕎麦を手繰って

(矢印の動き)

■小

 そばつゆにちょこっとつけて

(矢印の動き)

■大

(ぞっ!)

 と大きな音を立ててそばをすする梨由子。

■小

(ぞぞっ!)(ぞっ!)

 その食いっぷりに目を見張る酔客。いなせな姉ちゃんだ…。


●5

■小

 そばを飲みこみながらまた手繰る梨由子。

■小

 カウンターから少し乗り出す店長。その食べっぷりについ引き込まれるように。

(ぞっ! ぞぞっ!)

■小

(ぞっ! ぞっ…!)

 とあっというまに手繰って食い終わる梨由子

 見惚れる酔客と店長。

 ポットから蕎麦湯を蕎麦猪口のそばつゆに足す梨由子。

 ショットグラスのようにぐっと飲み干す。

梨由子「ごちそうさま」

 (たん)

 と蕎麦猪口をおきながらカバンを持って立ち上がる。


●6

■大

 と同時に酔客と店長から拍手と歓声。

(おおーっ)(ぱちぱちぱちぱち)

 えっ? と目を丸くする梨由子。

 梨由子を見送る店長と酔客。

 ちょっとテレ気味に手を振り返して出て行く梨由子。またな! みたいな。


●7

 全く別の日、出勤前。午後の繁華街。

 コンさんの店・ルーズ。外観

 沙織と三人でカウンターでだべってる。服と髪型違う。

沙織「梨由子って藤そば行かない日が無くない?」

梨由子「そうでもないけど…」

 と考えるように。

梨由子「でもルーズ(ここ)でモーニング食って、一日の〆は藤そばってルーチンになってるかもな」

コン「モーニングって午後にここ来てトーストとかサンドイッチ食くうこと言ってんの?」「つかウチはモーニングやってねえし」

沙織「アバ女時代もよく行ったよね~、藤そば」


●8

梨由子「生徒会メンバーでたまり場にしてたな」

 回想イメージ。この辺のキャラはデザイン渡してると思うので探してみてください。

コン「生徒会て名ばかりの番長グループだろ?」

梨由子「沙織は、蕎麦湯ばっかりバカバカ飲んでポット1本カラにしてたよな」

沙織「好きな飲み物はルチン」

コン「お前らそんなにそばが好きなの?」

梨由子「コンさん、ルーズでもそばメニュー作ったら?」

コン「やだよ」

コン「俺がそば打ちするような男に見えるか? 見くびるなよ」

沙織「そば打ちするような男ってどんなんだ?」

 いつものシレっとテキトーな事を言い合う雑談。

梨由子「まあ、素人なら9割方ふだん自分で飯作らない男だな」

コン「つかさ、女子高校生が放課後に藤そばに入り浸るかねえ?」

梨由子「藤そばとマックと何が違うんだよ」

沙織「蕎麦湯飲み放題はむしろJK好みでは?」



●9

<そのころの現役女子高生>

 そのころ藤そば。梨由子のいきつけの店。

 京子とセクシーとクリ子とボウヤが藤そばに入り浸ってた。

 注文ができるのを4人席に座って待ってる。

セクシー「なんでわざわざ電車乗ってこんなとこの藤そばまで来たの」

京子「いや、ここの藤そばはなぜか他のとこと違って特別で…」

 といいかけてかぶって、


店長「127番、カレーカツ丼のお客様」

 とカウンターから。

ボウヤ「はーい」

 と返事がいい。

店長「次いでカツ丼、3つ上がりました」

 ガタガタと立ち上がる4人。

クリ子「うちらだ」


●10

■大

ボウヤ「あれ!?」「カツカレーじゃないぞこれ」

 カツカレー丼ではないカレーカツ丼

<カレーカツ丼>

京子「ああ、ソレ初めてだとビックリするよね」「藤そばのカレーカツ丼は、「カツカレーの丼」ではなくて、「カレー」がかかっている「カツ丼」なんだよ」

セクシー「おお」「カレーのバリエーションじゃなくてカツ丼のバリエーションなのか……!」

クリ子「確かに「カレー・カツ丼」だ」「そのまんま嘘のない名前だな」


●11

ボウヤ「うーん」

セクシー「どうだ?」

ボウヤ「いや、卵でとじたカツとタレがかかった丼にカレーがあいがけされてる、見たまんま」

ボウヤ「1+1=2じゃなくて1+1は1+1のまま、って感じ」

京子「あたしは好きだけどなー」

京子「でも、ここのカツ丼の卵の半熟具合って絶品じゃね?」

セクシー「おお、うんうん!」

ボウヤ「確かに」

クリ子「トロトロふわふわだ」

京子「この店が特別だって、梨由子叔母さんに教わったんだ」


●12

 また別の日の深夜

 梨由子と沙織が藤そばに来る。服と髪型違う。

 店内、飲み会のあとにダラダラしている学生の客4人(男女半々)、カウンターの前に立って店長に何か話しかけている50近い酔ったサラリーマン客A。

(がやがや)

 賑やかな雰囲気。

沙織「この時間の藤そばの繁盛のしかた、あんま好きじゃない」

 それほど嫌悪してる風でもなく。

梨由子「ふふ」

 軽口っぽいやりとり。

 梨由子と沙織が券売機で買ってると、飲み会のあとにダラダラしていた学生客が口々に何か言いながら酔っぱらって出て行く。

学生「あいつ、ふざけてるよ」「いっつもそう!」

(わいわい)

 券を買った梨由子がふとテーブル席を見る。

梨由子「ん」


●13

 学生客が座っていたテーブル席、トレイが4つ下げないまま放置されている。

梨由子「今の学生は立ち食いそば屋のルールも知らんか」

沙織「食い終わったら返却カウンターに下げろや」

 (ちっ)と舌打ち。

沙織「アバ女の1年生のほうが行儀知っとるな」

 テーブルから食い散らかしたトレイを二つずつ取る梨由子と沙織。

 カウンターの返却口まで持ってくる梨由子たち。

 カウンターで店長に話しかけている客Aにつきあって相槌をうっている店長。

客A「んで、そろそろ貯金もできたしラーメン屋でも始めようかと思ってんのよ」

店長「ああ、いいですねえ」

 あっと気が付く店長。

店長「ああっ!」

客A「店出すならやっぱ駅前でさあ…」

店長「すいません、ありがとうございます!」

 大声でさり気なく客の話を打ち切るように梨由子たちに。

梨由子「いやいや」

 と穏やかによそ行きの顔で。


●14

梨由子「深夜は色々大変ですよねー」

沙織「一人勤務で回しきれないことあるでしょ」

店長「いやあ、恐れ入ります」

 と恐縮して苦笑い。

店長「えと、こちらは天玉ですね」

梨由子「そばで温玉」

沙織「あたしもそばでね」


 カウンターを後にする二人に、

店長「いま茹でますので5分くらいお待ちください」

客A「でね、値段はなるべく安くしてさあ」

 とまだ話しかける。

客A「藤そばと同じくらいの値段ならどうかなーって」

客A「あ、こんなこと言っちゃ悪いか」

(ははは)

 水を取る梨由子と沙織。なんとはなしに客Aと店長の会話が耳に入ってくる。

客A「店長はずっと藤そばに勤めてんの?」

 テーブル席に座る梨由子と沙織。


●15

客A「独立して自分の店持とうとか思わない?」

 テーブルを台布巾で拭く梨由子。

 ケータイをいじり出す沙織。

店長「いやあ、わたしは──」


店長「元々は20年くらいイタリアンレストランのシェフやってたんですけど」

 わずかにハッとする梨由子と沙織。

 チラリとカウンターのほうを見ると、苦笑しながら客と話している店長。

店長「二代目のオーナーとソリが合わなくて辞めちゃって」「それで半年くらい前からここでやってます」

客A「えー」「自分の店とか考えなかったの?」

店長「いやあ、経営は大変ですよ」「料理作ってるだけのほうが自分には合ってるんで……」

客A「いやいや、チャレンジすればいいじゃない」

 聞いてるのか聞いてないのか沙織はケータイでゲームやってる。

 人生いろいろだなとか考えながら無表情に水を飲む梨由子。


●16

梨由子「あんた何にしたの?」

沙織「新メニュー、ポテそば」

 とケータイいじりながら壁のポスターを指さす。

 ポテそば450円のポスター。

梨由子「店舗限定メニューか」「相変わらずイカレてるな」「メニュー考えた奴もそれ注文する奴も」

沙織「かかってるのがクレイジーソルトだけに」

梨由子「かけ300円、フライドポテト200円、それを合わせたら450円」「得といえいば得だけど同じ価格帯の他のメニューと比べると……」

(天玉そば470円だぞ…)

沙織「好奇心が勝っちゃったんだよね」

梨由子「つくづく破滅型だな」


●17

 まだわいわい客Aが話しかけている。

 声を潜めて、

梨由子「聞く気はなかったけどあの店長、イタリアンのシェフだったって」

沙織「うん」

梨由子「あの店長が作るカツ丼の卵の火の入れ具合が絶妙なの納得だわ」「藤そばクオリティのアベレージを一人で押し上げてるぞ」

沙織「人を見くびってはイカんな」

沙織「もしかしてポテそばもあの店長考案かもよ」「見くびらずに期待しよう」

店長「天玉そばとポテそばでお待ちのお客様ー」

(ガタガタ)と立ち上がる2人。

店長「さっきはすいません」

 と恐縮するように。

梨由子「どういたしまして」

 ニッコリ愛想よく外向きの笑顔でそばを受け取ろうとする。


●18

店長「あの、差しでがましいんですが、おふたりともそば大盛りにしましたんで」

 と小声で片目をつぶって、ウィンクというより恐縮しながら小手を上げる。

梨由子「あっ、ありがとうございますぅ」

 とちょっと驚いて。

■大

店長「もしスープ足りなかったら言ってください、またつぎ足しますから」

 そばを受け取りながらその言葉に目を丸くする梨由子。

 席でそばを食べている二人。なにか心無い感じの梨由子。

(ぞぞっ…)


●19

 ポテそば。

<ポテそば>

沙織「これ、想像以上に想像通りだった」

沙織「1+1が2じゃなくて1+1のままって感じ」

 と無表情にすすってる。

 それにリアクションせず、黙って目を伏せるようにそばを食べている梨由子。

梨由子「……」

(ずるずるっ…)

 店を出る二人。なぜか物憂げに見える梨由子の表情。

 後ろから、

店長「ありがとうございましたー」

(がー)(ピロリンピロリン)


●20

 車が行きかう夜の街を歩く女二人。テールランプの残像。

(パッパー ブロロロー…)など深夜街の喧噪

梨由子「……」

梨由子「アタシはそばつゆをおかわりするようなオンナだと見くびられてたのか……」

 自嘲気味の顔。ぽつりと。

沙織「つか、「そばつゆ」のこと「スープ」って言ってたぞ」「あの店長、まだイタリア気分が抜けてねえのかな?」

 並んで歩く二人の後ろ姿。

 夜の女の哀愁っぽく。

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