おかわり第1話「ニンニクの芽と豚肉炒め」

コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87179343

(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>


●1

 初夏。7月ごろ。霧雨がふっている中、

 学校帰りで制服の京子が濡れて大手を振って歩いている。

忍<僕の大好きな京子が大変だ──>

 京子の美しさ、傘もささずにさっそうと歩いている姿に目を奪われる男たち。

 つんとすました退屈そうなよそ行きの顔だが、どこ楽しそうな京子の顔。

■小

 信号待ちの車の運転手、目の前を横切る京子にハッと見惚れる。

忍<──ということに気がついたのはいつからだったろうか>

 はねながら水たまりをよけて横断歩道を駆けわたる京子。伸びやかな長い脚、そのしなやかな肢体!

 すれちがい、思わず振り返る傘をさした男子中学生。


●2ー3

■見開き扉


●4

 小雨があがる。

 暗渠の遊歩道を傘をさして歩いている忍。

 手を出して空を見上げ、雨が止んだことを確認する。

 忍、傘を畳みながら前に京子がいることに気がつく。

 忍の視線の先に京子。

忍<京子は>

忍<6年前ぼくの母と再婚した父の娘>

忍<つまり姉だ>

 小雨に降られて濡れている京子。よそ行きの顔。ツンとしてけだるげな色気。垂れるしずく。

 雨に濡れてる事を気にもしないでしゃがみこんで地面を見ている。無造作に地面にべたっとつけたカカト、開いた膝。スカートからのびてる太もも。


●5

忍「京子」「傘持って行かなかったの?」

 心配げに駆け寄って。

京子「お、忍」

忍「夕方雨降るよ、って教えたのに!」

 ちょっと不満げに。

京子「霧雨じゃん」

■大ぶちぬき

京子「もうやんだし」「濡れて歩くの好きなんだよね」

 立ち上がって。髪や制服から滴り落ちるしずく。


●6

 忍、諦め感。あーあ。

忍「なに見てたの?」

京子「カナヘビ」

 と再び地面を見て。

京子「あ、どっか行っちゃった」

忍「へ、へびっ…?」

 ちょっとびくっとする。

京子「ちっこくてかわいいトカゲだよ」

京子「買い物?」「いっしょに行こう」

 微笑む。と忍に素顔の表情をあらわにする。ここらへんからたまにこどもっぽい顔をみせていく。


●7

 遊歩道を並んで歩く二人。

京子「おっ」

 と下を見ながら振り返る。

京子「今のミミズ見た?」

 と嬉しそうに。

忍「うん……」

 なんで嬉しそうなんだというように。

京子「ちょう長くてキモくなかった?」

 楽しそうに振り返ったりしながら忍に同意をもとめる。

京子「ちょっともう一回見よう」

 と忍の手を引いて戻ろうとする。

忍「見ないよお」

 抵抗して前に引っ張ろうとする。

京子「大丈夫だよお、怖くないって」

 京子、ふふふ。忍は怖がりだな、みたいないたずらっぽい表情。

忍「怖いんじゃないってば」「アルスの特売終わっちゃうかもだから……」

 とかわいく困る。


●8

 再び歩き始めて。

京子「むかしさあ」「ミミズを瓶にいっぱい集めてたことあるよ」

 と得意げに。

忍「あっそう」

 と想像したくもない。

 ピンとくる京子。立ち止まる。

京子「まって」

忍「え、また?」

 と振り返る。

京子「しーっ……」

 と唇に指をあてて、しゃがんで、石がゴロゴロした植え込みの前にしゃがむ。

 そーっと石に手を伸ばす。


●9

 ごろん、と石をどける。

京子「カエル!」

 大きなガマガエルがジッとしている。

京子「いると思った!」

 いひひ! と笑う。

忍「うわ、でっかい!」

 目を丸くしておどろく。

忍「よくわかったね」

 とちょっと尊敬するように。

京子「ふふーん。昔からここはあたしのカエルの狩場なんだ」「いるかどうかすぐピンとくる」

 得意げ。


●10

忍「なんでこんなとこにいるの?」

京子「この遊歩道の下に水路が通ってるからかな」

 暗渠の遊歩道。

 ジッとしているガマガエル。汗。

忍「全然動かない」

京子「動いてもノソノソなんだ」「でもちょっと目を離すといつのまにかいなくなってる」

 嬉しそうにガマガエルを掴んで持ち上げる京子。バタバタもがくガマガエル。

忍「放してあげなよ」「かわいそうだよー」


●11

京子「もしカエルを捕まえて賞金がもらえるならさあ」「あたしこの特技で大金持ちになれると思わない?」

忍「……そういう仕事あるといいね」

 二人、を歩きながら。

忍<小雨に濡れながら歩くの好きで──>

忍<カエルを捕まえて得意になる女子高生>

忍<それが京子だ>

忍<つまりすごく変な……> <大変なのだ>

京子「またふってきた」

 と手を雨にさらして空を見る。

忍「うん」「まって、傘さすよ」

忍<心配でほっとけない> <僕がちゃんと守らないと──>


●12

 忍が立ち止まって傘を広げようとする。そのすぐ横に塀からノウゼンカズラの花が垂れて咲いている。

京子「あっ」

京子「忍、こっち来て!」

忍「?」

京子「その花から離れて!」

 京子、忍をぐいっと身体ごと抱き寄せる。

京子「危ないよっ」

忍「ど、どうしたの?」

 と京子の濡れた制服の胸がぎゅっとおしつけられてとまどう。


●13

京子「そのオレンジ色の朝顔みたいな花、近寄っちゃダメだからね」

 ノウゼンカズラのきれいな花。

忍「あの花?」「きれいなのに」

京子「垂れてくる花の蜜に毒があって、「目がかすむ」って、梨由子叔母さんが言ってた」

 と忍に言い聞かせるように。

忍「う、うん」

 その話が疑わしいと思いつつも素直にうなずく。

 ふたたび相合傘で歩く二人。京子が傘を持っている。

京子「忍濡れてない?」

忍「だいじょうぶ」

 忍、もうなんでもなくご機嫌な京子の顔を見上げるように覗き見る。僕が守るはずなんだけど…。

忍<僕がちゃんと> <京子を守るんだ……>



●14

 スーパーの売り場。

 つーんとすまし顔でスタスタ歩く京子。後から買い物カゴを持ってついていく忍。

 京子を振り返る男の店員。客のおじいさん。目を奪われる。男たちの京子への視線が気になる忍。

 濡れた制服のシャツに透けそうな下着の線、上に向かってとんがったおっぱい。

 跳ね上がった尻と太もも。

 頬を染めるおじいさん。

おじいさん{……いい}

 それに気がついて嫌そうな忍。

 お菓子の特売コーナー。

京子「しのぶー」「このお菓子買っていい?」

 と媚びるように笑って。

忍「特売確認してからだよ」

 とちょっと不機嫌。



●15

 肉売り場。買い物かごを持つ忍。京子と什器を覗き込む。

忍「豚肉の特売まだあった」

忍「あとはニンニクの芽と……」

 と野菜売り場へ戻ろうとする。

京子「えーっ」

 とあからさまに不平を唱える。

京子「ニンニクは匂いが気になるんだよー」

忍「うん」「でも明日学校お休みだからいいでしょ?」

京子「そうか金曜だったっけ!」

京子「じゃあモリモリ食べちゃおうっと」

 忍、現金な京子を見る。


●16

 アパート外観。

 炊飯中のジャー。

(ガチャ)(バタン)

 帰ってきた二人の音。

京子「あ」

京子「あ、もうごはん炊いてる」

 カギを手にして玄関から台所から立っている湯気の匂いをかぐ京子。

忍「うん、セットしてから出てきた」

京子「じゃあお風呂入れるね」

 二人、靴を脱いで上がる。

忍「雨に濡れたんだから早く着替えたほうがいいよ」

京子「んー」

 風呂の蛇口を開けて湯を張る京子。横着して濡れた風呂場床を踏むのを嫌って、入口のヘリに立って上半身だけ伸ばしている。左手は折り畳み戸を掴んでいる。

 居間。二人が暮らしている小さな部屋の様子。

 濡れた制服を脱いで髪をタオルで拭いている京子。小さくクシャミ。


●17

忍{しまった。乾燥ワカメを切らしていた……}

 と冷蔵庫の野菜室を開けて。

忍{しょうがない、味噌汁の具は長ネギだけだ}

 と長ネギを手にまな板を用意する。

忍{長ネギは斜め切り}{2人分で2分の1本も使えば十分具だくさんだよね}

 包丁で刻む。

忍{ナベにお湯を沸かしたら、顆粒の出汁を入れて、ネギ投入}

 沸騰した鍋にネギを入れる。

忍{ネギ入れてから再沸騰したら火をとめて}

 味噌のパックからお玉で掬う。

忍{お玉半分くらいの味噌を、お玉ごとナベに入れてフタして放置}


●18

忍{後で食べる直前に味噌を溶くとき、ほどよく溶けやすくなる}{……京子式味噌汁手抜き術、楽でいいな}

 鍋にカポっとフタをする

忍{味噌が自然に溶けだすあいだにメインディッシュを作る}{まずニンニク1片みじん切り}

 ニンニクを刻む。

忍{豚肉の切り落とし200gと一緒にボウルに入れて}

忍{酒大さじ2、オイスターソース大さじ2をまぜて}{よく揉みこむ}

 ボウルに入れた肉を手で揉みこむ。

忍{ニンニクの芽は4センチくらいの長さに切って}

 ニンニクの芽を切る。


●19

忍{フライパンにゴマ油を少々}{よく熱して}

忍{ニンニクの芽をサッと炒める}

 フライパンで炒める。

忍{つけこんだ豚肉を加えて色が変わるまで炒めて}

 肉をボウルから菜箸で投入。

忍{火をとめたら}

 フライパンに投入したバターがとける。

忍{バター10gを入れて溶かしながら混ぜて……}

忍「できあがり!」

 忍の達成感!


●20

■大

<ニンニクの芽と豚肉炒め>

<ネギの味噌汁>

 食卓に並ぶ料理。ごはんと漬物の器も。

京子「おっといい匂い」

 立ち上る料理の湯気をくんくんと嗅ぐように。

京子「お父さんとお母さんにもね」

 と仏壇をしめす。仏壇に二人の写真。顔は見えない。

忍「はい」

 と仏飯器に盛ったごはんを手渡す。

(ちーん)

 リンを鳴らす京子の手。


●21

二人「いただきまーす」

 ふーふーする京子の口元。

 あー、と口を開いて箸を運んで、

 ん、と食べる京子。

京子「お、これは新しいパターンだね」

 と笑顔になる。

忍「バター使ってみたの」

 と京子の食べっぷりを見ている忍。

忍<京子がごはん食べているところを見るのが好きだ>


●22

京子「なるほどまろやかなコク」「ボーノボーノ」

 と満足げ。

忍「肉と野菜の炒め物は、肉の種類と野菜の種類の組み合わせと」「タレのバリエーションが変わるだけで」「いくらでもアレンジ増えるし」

「楽ちんで飽きないからいいよね」

 二人の箸がのびる食卓。

忍「ん?」「あれ?」

 と風呂のほうの気配に気が付く。

忍「……お風呂のお湯とめた?」

 と恐る恐る。

京子「あっ!」

 と立ち上がる。


●23

 風呂場のトビラを開けて、ヘリに足をかけて(風呂の床がお湯であふれているため)上半身だけ中に入れている京子、

京子「わっわっ!」

(どぼどぼどぼどぼ……)だんだん小さく

(きゅっきゅっ)

忍「お風呂あふれさせたの?」フキダシに怒り漫符

 と戻ってきた京子に非難する目。

京子「うううーん」

 と曖昧に目をそらす京子。

忍「どっち」

 となお厳しく追求。

京子「……だ、大丈夫だったよ」

 と誤魔化しながら味噌汁を飲む。

忍「「わっわっ」て言ってたけど?」フキダシに怒り漫符

京子「……「わっわっ風呂」※になったの」「今日は特別に「わっわっ風呂」を入れました」

 苦しい言い訳。

忍{それがいいわけのつもりなんだ……?}

 と呆れて目を伏せながらご飯を口に運ぶ。


※わっわっ風呂=京子命名お湯があふれこぼれた状態の風呂。


忍「……食べ終わったら先にお風呂入っちゃいなよ」「今日は洗い物僕やるから」

 とすまし顔で保護者ぶる。

京子「ごめん。明日あたしが代わりにやるね!」

 と申し訳なさそうに笑う。


●24

■大

京子「ナイアガラの滝ー!」

(ざばー!)

 と勢いよく入って風呂をあふれさせる京子。嬉しそう。

京子「忍、豊富な湯量だよー」「一緒に入らない?」

 とはしゃいで風呂場のドアから顔だけだす。

忍{こういうときに「豊富な湯量」って違う気がする……}

 と洗い物しながら。

忍「やだよ」「ぼくもう子どもじゃないし」

■大

忍「それより、お風呂あふれさせすぎると」「水道料金チェックされたとき梨由子叔母さんにトチリカウントされるよ」

 と恐ろしい預言を告げるようにふりむいて。

■小

京子「こどものくせに」

 顔半分を沈めながらぶくぶくと湯の中でつぶやく。

■小

忍{ぼくがしっかりしないと}

 洗い物を終わらせてタオルで手を拭きながら決意するように。

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