第30話「タンドリーチキン」

コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87178983


未公開エピソードです。


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>


●1

■トビラ

 夏休み前。

 高校の美術室でイーゼルとキャンバスの前に座っている京子とセクシー。描きかけの自画像。

 仏像展のチラシ(阿修羅像)を広げてみせている美術教師の話をきいて、顔を見合わせている。

 どうする? みたいな。

美術教師「選択美術はテストもレポートもありません」「その代わりにこの博物館の仏像展を観てくること」「チケットの半券提出」


●2

 その日の夕方。

 家のダイニングキッチンで仏像展のチラシを前に手鏡を見ている京子。制服のまま。

京子「明日デートだから」「お昼いらないかも」

 と鏡を見ている。

 冷蔵庫を開けて買い物するものを考えていた忍、背中でそれを聞いて一瞬ポカンとしている。

忍「えっ!?」

 ギョッとして振り返る。

京子「セクシーと博物館行ってくる」

 声だけ。


●3

忍「……ふ、ふーん?」

 と、焦りを悟られまいと素知らぬ顔をとりつくろう。

 京子、われ関せずシレーっと鏡を見てイーとか表情を変えている。

(カッ)

京子「むっ!」

 阿修羅像のように眉根を寄せて、目を大きく見開いてまっすぐ正面を見据え、少年のような少女のような憂いをふくんだ眼差しで忍を振り返る。

https://www.google.co.jp/search?q=%E9%98%BF%E4%BF%AE%E7%BE%85%E5%83%8F&num=50&lr=lang_ja&hl=ja&tbs=lr:lang_1ja&prmd=ivns&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwjX7OPNscfTAhXDppQKHW0NBhwQ_AUIBQ

京子「阿修羅像の顔マネ」「似てる?」

忍「う、似てる……」

 呆れつつ。

京子「けっこう好きな顔なんだよねー」「明日会える」

 と仏像展のチラシを眺める。

忍「……それよりさー」

「このプレーンヨーグルトもう昨日で賞味期限切れちゃったよ」

 と冷蔵庫を閉めながら、ヨーグルトを見せて。

(ばたん)

「朝バタバタして全然食べないんだからもう買うのやめたら?」


●4

京子「だってテレビで美容にいいって……」

 と言い訳するように。

忍「もう捨てるよ」

 と決断を迫る。

京子「うーん」「なんかもったいないからもう少し冷蔵庫に置いといてちゃんと腐ってから捨てようよ」

 と決断できず忍の顔色をうかがう。

忍「結局捨てるならいま捨てようよ……」

 呆れ気味。

忍「ん?」(インド……?)

 と仏像展のチラシにある「インド・ガンダーラから仏像が来た道」という文字が目に入る。

忍「ちょっと待ってね」

 と何か思い出して、付箋を貼った料理本を手に取る。

忍「ふんふん」

 と料理本を読みながらうなずく。

 玄関。

忍「そのヨーグルト捨てないでね」「夕飯の買い物行ってくる」

 と靴を履きながら京子に。

京子「?」

 と見送る。


●5

 夕方。

 台所に立つ忍。後にまだ制服姿の京子がうろついて忍が何を作るのか見ている。

忍「鶏もも肉500g」「フォークでプスプス刺して穴だらけにする」

(プスプスプス)

忍「食べやすい大きさに切って塩、粗びき黒こしょうをふってすり込む」

「下味強めに……」

忍「ボウルにプレーンヨーグルト400g、使い切っちゃえ」

 とボウルにヨーグルトのパッケージからドバっと投入。

忍「にんにくのすりおろし1かけ分」

「しょうがのすりおろし1かけ分」

「トマトケチャップ、オリーブオイルそれぞれ各大さじ8」

「カレー粉、大さじ4」「塩小さじ1、粗びき黒こしょう少々」

「よく混ぜて」

忍「これに鶏もも肉を入れて」

「手でよく揉みこむ」

「で、1時間放置と」

 覗き込む京子。


●6

忍「そのあいだに「柔らかくなーれ」と祈りながら踊ります」

 とインドをイメージした踊り。ヨガっぽい?

京子「なにそれ、かわいい」

 と見ている。

京子「忍、これできる?」

 合掌して首を左右に動かす。インドっぽさ。

忍「う、う?」「できてる?」

 ぎこちなくマネする。

京子「できてない」

 と笑う。

 居間。

 二人でヨガに挑戦している。

 身体柔らかい二人。意外とできる。


●7

忍「あ、そろそろいいか」

 時計見て。

 再び台所。

忍「つけあわせのトマトはへたを取って8等分のくし形に切って」

「きゅうりは斜め薄切りにする」

忍「余裕があるときは一晩漬けるって書いてあったけど、十分漬かったね」

「漬けダレたっぷりすぎたかな……」

 とボウルの中の鶏肉を菜箸で探る。

忍「フライパンにオリーブオイル大さじ1を中火で熱して」

「タレから出して汁気を軽く切った鶏肉を並べて、両面をこんがり焼く」

(じゅ~~)

忍「焼き色がついたらフライパンにふたをして」

「弱火でさらに4分くらい蒸し焼きにする」

 ふたを開けて鶏肉のまわりで煮えている漬けダレを見て、

忍{ん? あれ?}{もしかして……}


●8

忍「お皿に盛って、粗びき黒こしょうちょっとふって……と」

忍「はい、できました」

<タンドリーチキン>

<定番・ワカメの味噌汁>

 とごはんが並ぶ食卓。

忍「お好みでレモン汁を使ってください」

京子「おおー」「だからインド人みたいに踊ってたのか」


●9

京子「お、柔らかいしけっこう辛い」

京子「タンドリーチキンてヨーグルトで漬けダレ作るんだねー」

 と満足げに味わう京子。

 いっぽう、立ち上がってガスレンジの前でご飯茶わんを手に、煮えた漬けダレをフランパンからスプーンで少し掬ってかけている忍。

忍「……」

京子「?」「どうしたの?」「おいしいよ?」

忍「んー」「うん、上手くいった」

 とまだ自分の発見に確信が持てず煮えた漬けダレを口に入れつつ味を確かめるように。

忍{うーん}{料理本には特に書いてなかったけどつまりこれってやっぱり……?}

 と流し台の上に置いてある漬けダレのボウルを意識しながらご飯を食べている。

 食事のあと。

忍{明日使う予定だった豚バラ肉薄切り200gを切って塩コショウで下味つけて}

{余ったこの漬けダレに揉みこんで漬けておこう}

 とボウルを冷蔵庫に入れる。


●10

 翌日。昼前。

 仏像展を見て博物館のエントランスから出てきた京子とセクシー。私服。

 二人とも何か思い入れているように感嘆のため息をついたように無言。

 京子、パンフレットを開いて。

京子「良かったね」

セクシー「壮観だった」

京子「ではここで──」

●11

京子「頓智クーイズ!」

 とセクシーの不意を衝いて指さす。

 ギクっとするセクシー。

京子「そもさん!」

 とスペシュウム光線の構え。

セクシー「せっぱ!」

 とウルトラバリアーのポーズ。バリア見える。

京子「仏像5分類といえば!」「如来像、菩薩像、天部像、羅漢・高僧像、あと一つはなに?」

 とパンフレットを見ながら。


●12

セクシー「えーと、明王像!」

京子「正解!」

 二人を振り返って見ているサラリーマン。

京子「つか「如来」がパラレルワールドごとに一人づついる最高に悟っちゃっている仏さまっていう設定さ」

「ラノベみたくね?」

セクシー「東方浄瑠璃世界とか西方極楽浄土とか」「それぞれの世界に悟りのチャンピオンがいるわけだ」

 と何事もなかったようにまた歩き出して。

 呆気にとられてるサラリーマン。

セクシー「インドから日本に至るまでいろいろ変化したんだろうけどさ」

セクシー「こう、ぐるっとヒマラヤ山脈を西から回り込んで」

セクシー「ガンダーラからシルクロード、中国、朝鮮半島、日本へ」

 駅のホームで電車を待つ二人。

セクシー「遠路はるばる仏教文化とともに仏像が到来したって」「改めて考えるととてつもないな」


●13

 電車のイスに座って話している

京子「それもだけど北欧でバイキングの街跡の遺跡から5世紀インドの仏像が出土したってのがワンダーだよ」

京子「こう手とか指とか色っぽかったよね」

セクシー「作り手にフェティッシュなこだわりがあるんじゃない?」

京子「そうだね」

「やっぱ素人でも目につくポイントだから力入るんじゃないかな?」

 電車下りて改札出て

セクシー「仏像のこの手つき、ヨガとかだとムドラーっていって」

「手の表情とか意識みたいな意味があるって聞いたことある」

 とムドラーをやって見せる。

京子「ジェスチャーなのかー」


●14

<とまれ>

<スナイパーだ>

<しゃがめ>

 やってみせる京子。

セクシー「それは特殊部隊のハンドサインな」

<コレがコレなんで>

<ドロンします>

 さらにボケる京子。

セクシー「そんな仏像やだな」

セクシー「どうする? まだ昼前だけど」

 と喫茶店を指さす。

京子「んー、ウチで忍が昼ごはん作ってるかも」


●15

忍「セクシー姉ちゃんも?」「うん大丈夫だよ」

 と家電で応答している。

忍{じゃあもう作り始めようかな}

 と冷蔵庫からボウルを取り出す。

忍{玉ねぎ1個をみじん切りにして器に入れて水大さじ1をかけて}

{器をラップして電子レンジで4分加熱}

忍{これをフライパンで炒める}{強火!}

{で、水250ccの水を用意しておいて……}

忍{平らになるように馴染ませながら、焦がさないように水分を飛ばしつつ時々混ぜる}

(じゃあっ)



●16

忍{水分が無くなってフライパンの底に玉ねぎが貼りつき出したら}

{水を15~25cc入れて、張りついた玉ねぎを削り落とす感じでヘラで混ぜる}

(じゅわわわ~~)

忍{馴染んできて水分が減って、また玉ねぎが貼りつきはじめたら同じように水を足して混ぜる}

{これを強火のまま繰り返していくと、だんだん水を入れたときに茶色になって飴色に仕上がる……}

京子「ただいまー」

セクシー「おじゃましまーす」

忍「いらっしゃい」


●17

京子「なに作ってるの?」

忍「昨日のタンドリーチキンの漬けダレを使った料理だよ」

 すまし顔で玉ねぎを炒めている。

忍{ペースト状になった!}

忍{玉ねぎをいったん取り出して……}

{フライパンにオリーブオイルを大さじ2熱して}

忍{中火にして昨日のボウルの漬けダレと肉を全部投入!}

(じゅあっ)

忍{玉ねぎも再投入!}


●18

忍「♪ふんふーん」「♪やわらかーくなったかなー?」

 とフライパンをヘラでかき混ぜている。

セクシー{なにそれ、かわいい……}

忍「♪あははーん」「♪やわらかーくなったでしょー?」

 とお尻を振ってる

 それを後から椅子に座って無言で見ているセクシー。

セクシー{………}

(むらむらっ……)

 不透過メガネで表情は読めないが忍の愛らしい後ろ姿に何かを感じとり欲情してしまうセクシー。


●19

 いつのまにかセクシーの背後に立って不動明王?の顔とポーズで見ている京子。バックに迦楼羅焔を背負ってる。

https://www.google.co.jp/search?q=%E4%B8%8D%E5%8B%95%E6%98%8E%E7%8E%8B&num=50&lr=lang_ja&hl=ja&tbs=lr:lang_1ja&prmd=ivns&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwj_sceXs8fTAhVLKZQKHSUsAkkQ_AUIBQ

京子「どこかで淫気が立っておる……」

 ハッとするセクシー。

セクシー「いやいや!」「ロッコンショージョ―!」「煩悩退散!」

 と椅子の上で座禅を組んで(ちゃんと胡坐かけない)両手でムドラーを作って煩悩を振り払う。

 目を伏せて禅僧の姿になって後ろから警策でセクシーの右肩を叩く京子。

京子「まだまだ修行が足りませんね……」

(ぱんぱんっ)


●20

忍{肉に火が通ったら完成!}

忍「はいどうぞ」

<なんちゃってインド風ポークカレー>


●21

京子「あ、これ商店街のネパール人のインドカレー屋さんの奴とそっくりだ」

忍「でしょ!?」

忍「昨日タンドリーチキン焼いたとき漬けダレがカレーそのものだったから」「もしかしてって思って」

 京子とセクシー、おおーっと感心しながら食べている。

忍「小麦粉使わないインドカレーでドロッとしてるのは、ヨーグルトベースなんだって」

セクシー「うん、うまい」

セクシー「こういうヨーグルトの酸味があるのは東インドのカレーって聞いたことあるな」

京子「あとは辛味とかスパイスを適当に足せばもっと本格的になるかも」

セクシー「カレーもまた仏教と同じく、インドからはるばる到来して、日本で研究されているわけだ」

京子「おー」「つまりこれは忍が悟りを開いて作ったカレーだね」


●22

京子「カレー(漢字)世界の悟りのチャンピオン」「カレー(漢字)如来だ!」

 悟ったように目を伏せた忍の如来顔。

 食後、居間でヨガをやっている京子とセクシー。この辺わりとサービスカット。

京子「セクシーほんと身体硬いな」

セクシー「ぐうっ」「あだだ」

京子「こうだよこう!」

(ぐい)

 とやってみせる。

セクシー「タコ人間か」


●23

セクシー「私、ちゃんとした胡坐すら組めないんだよね……」

セクシー(結跏趺坐てやつ)

 けっかふざ

忍「僕できるよ」

 と手を挙げて。

忍「ほら」

 とやって見せて、おお、となるセクシー。

忍「このままジャンプもできるよ」

(ぴょんぴょん)(どすどす)

セクシー「スゲー!」

(カシャー)(カシャー)

 とスマホで撮影。

●24

 クリ子の家でゲームしているクリ子とボウヤ。モンハンかスマッシュブラザーズ

(ピロン)

 LINEの音に置いてあるスマホを見るクリ子。

クリ子「ちょ、ボウヤ、見て!」

 とスマホの画面を見て。ん? と振り返るボウヤ。

クリ子「空中浮遊してる……!」

 スマホ画面。セクシーからLINEで送られてきた、如来のような顔とポーズの忍が、胡坐組んだまま浮いている瞬間の写真。

 生き仏のように後光が差している。

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