第29話「ハイタワーバーガー」

コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87178757


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>


●1

■トビラ

 午後、日が傾きかけ。16時ごろ? 繁華街を歩いている京子。

 ファイナルファンタジーみたいな髪型や黒づくめのかっこうのホストやスカウトやキャッチの間を通り抜けている。

ホストA「かわいー」「どこ行くのー?」

ホストB「こんなとこ来ちゃダメだよ~」

京子{ルシス王国を旅してるようだ……}

 と京子を見ているホストたちをクールに眺めながら。


●2

 繁華街の外れ、カフェルーズの近く。ご機嫌に歩いてい来る京子。

 カフェルーズの前、置き看板のコードを抜いてしまおうとしているコン。

 店の前、コンのかたわらに立ってメールを打とうとケータイを開いて操作している梨由子を見て、

京子「あれ?」

梨由子「お」「いまメールしようとしてたんだ」

 とケータイをぱたんと閉じる。

京子「コンさん」「もう閉めるの?」


●3

コン「悪いね、オレ夕方からちょっと用があってさ」

コン「その前にハンバーガー屋行くけど、それでよければ二人ともおごるよ」

京子「ハンバーガー?」「いくいく!」

 やったー、みたいな。

梨由子「アタシは店開ける前になんか腹に入れておきたかったけど」「お前、今食べて晩ご飯大丈夫か?」

 と疑わしそうに。

京子「へーきだよ!」

 嬉しそうに胸を張る。

コン「食べ盛りだもんな」

 と笑う。

 繁華街を歩く3人。コンが少し先行して、京子と梨由子が後をついていく。


●4

 歩きながら。

京子「……ねえ」「今日はあたしだけ、なんの呼び出しだったワケ?」

 と梨由子に。梨由子、よそ行きの顔。

 いま歩きながら話をするか、ちょっとためらう梨由子。よそ行きの顔。

■大

 よそ行きの顔のまま、意を決して。

梨由子「……忍の実父方のじいさんが会いたいってまた言ってきてんだ」

■小

京子「……!」

 と梨由子を見て。忍と引き離されそうになった記憶がよみがえる。


●5

■大

梨由子「「忍本人の気持ち次第だと思います」って返事したけど」

梨由子「お前、どう思う?」

 よそ行きのポーカーフェイスで、探る。

■小

京子「…あ」

京子「あの時「忍だけ引き取る」とか……」

 言いよどむ口元。

 嫌なこと哀しいことを思い出して声が震える。

■小

京子「忍、あんなに嫌がってたし」「あたしだって……」

 怒りすらにじみ出る。

■大

梨由子「じいさんな」「お前にも謝りたいそうだ」

 あくまでクールに、少し諭すように。

京子「そんなの……!」

 と顔をあげて梨由子を振り見る。


●6

■大

梨由子「安心しろ」「仮にまたお前らを引き離そうなんて話なら」

梨由子「そんなことアタシがさせねーから」

 不安がる京子の心配をはねのけるように厳しくも頼もしげに。

梨由子「……でも、そうじゃない」「ただ、会いたい、ってだけだ」

 捨てゴマ。

京子「……お母さんが生きてたときは絶縁してたくせに、今さら」

 と納得できない感じ。

梨由子「……だよなー」

 京子の気持ちも理解しているので、よそ行き顔でフッとゆるむ。

梨由子「けど、人は歳とると変わるってこともあるからさ」

 京子、梨由子のあっちの肩を持つような言いようと優しげに諭すような表情を不審げに見る。


●7

梨由子「ちょっと想像してみろよ」「一人息子は早く亡くして」「のこされた孫は忍だけなんだ」

 賑やかな繁華街。通り過ぎる人々。誰もが他人。

梨由子「相手がいなくなっちまってから後悔したことに」「またそうなる前に気がつけたら上等だ」「お互いな」

 梨由子の目。

■大

 想像しているのか、黙っている京子。優しさと賢さゆえに、想像できて、まだうまく自分の感情と折り合いつけられない。

京子「……そのうち、それとなく聞いてみる」

梨由子「アタシが聞くとあいつ委縮するからさ」「頼むよ」

 後ろ姿。


●8

沙織「はー、ちょんわちょんわ~~」「っとくら~~」

 とご機嫌に涼しげな表情で、無造作にハンドバッグのストラップを持ってブンブン振りまわして繁華街を歩いている沙織。

 出勤前にルーズに顔を出すつもり。

 道にたまっているホスト、キャッチ、スカウトを邪魔そうに睨み、

沙織「おら、どけよ」

(ちっ)と舌打ち。

ホストA「あ、沙織さん!」

ホストB「チィース!」

 とモーゼのごとく道が開け、頭を下げるヤカラ。

沙織「ここはルシス王国じゃねーぞ」「もっと隅っこに立ってろ」

 めんどくさそうに通り抜ける沙織。

ホストC「沙織さん!」

 FF7のクラウドみたいな髪型のホストDを連れて挨拶にくる。

ホストC「こいつ新人なんです」「オラ、挨拶」

ホストD「ヤラッシオナッシャース!」

ホストD「ジブン、蔵宇土っていいます!」

 暑苦しくイモっぽい感じの顔を見せて自己紹介する。

沙織「なーにがクラウドか」

沙織「ファイナルにファンタジックなのはツラだけにしろ」

 イラつく沙織。


●9

ホストA「あ、ご苦労さまでーす!」

ホストB「チスッ! チィースッ!」

 と声がする方を振り返る沙織。

コン「ウィーッス」「ウィース」

 沙織と同じようにモーゼがごとく人海を開いてコンを先頭に梨由子、京子が現れる。

 コン、鷹揚に手を挙げて挨拶を適当に返す。梨由子、うるさそう。京子、おっかなびっくり。

 絶え間なく「チス」「チィースッ」と声がかかる。

沙織「おっ」

梨由子「あっ」

 とお互いを見つける。

沙織「なになに?」「え? ハンバーガー?」「おごり?」

 と合流して急に嬉しそうにはしゃぐ沙織。

コン「しょうがねえな」

 と苦笑い。

 ひっそりと隠れ家的に営業しているハンバーガー屋の外観。


●10

 店内。

 バーカウンターに座っている4人。

 並び順、カウンター正面から見た場合、左から京子コン梨由子沙織。

「チーズバーガー」「アタシも」「じゃあそれで」

 と大人組はあっさり注文。

 メニューを手に迷う京子。

京子「迷うなー」

京子「ベーコンとチリソースとチェダーチーズとアボカドと……」

京子「このいっぱい色々挟んであるスペシャルのにしていい?」

 とコンに。

 ニッコリうなずくコン。


●11

■大

マスター「お先にスペシャルからです」

 出されるスペシャル。そびえたっている。

京子「うお!」

京子{予想以上のハイタワーだ}

 とたじろぐ。

京子{うう……}

京子{どうやって食べよう}

京子{そうか}{こういうハンバーガーって、けっきょくバラして食べることになるんだよな……}

 とフォークを手に持って見る。


●12

京子「……攻めあぐねる」「二百三高地だ」

 とフォークを手にウロウロ右や左からハンバーガーを眺める。

コン「それを言うならハンバーガーヒルじゃないの?」

 と笑う。

マスター「チーズバーガーです」

 とカウンターにチーズバーガーの皿が出てくる。

コン「フォークなんか使わないでこのバーガー袋を使いなよ」

 とバーガー袋を手にして開く。

京子「え?」

コン「こうやって袋を開いて……」

コン「上手に入れたら」

 とハンバーガーを袋にインする。

コン「上下からギュッとつぶしながら」

コン「こうやってかぶりつく」

 とおいしそうにかぶりつく。

 京子おそるおそる、袋にハイタワーを入れる。


●13

京子「おお、上手くいった」

 とバーガー袋に入ったハイタワーを持つ。

京子「で、つぶしながら……」

 ぎゅっとつぶして、具材があふれそうになったところに、

京子「あ、あ、ハミ出ちゃう──」

■大

京子{ええい、ままよ!}

 顔から前に出てがぶっとかぶりつく。

京子「──!!」


●14

 恐竜時代の背景? 野生? 野蛮なイメージ。

京子{肉だ!}{口いっぱいに肉のボリューム!}{あふれる肉汁!}{とろけて熱いチーズ!}{シャキシャキのレタス!}{ねっとりしたアボカド!}{ベーコンのカリカリ!)

{いろんな食感がいっぺんに溢れる!}

 ハンバーガーに夢中になってトリップしている京子。セクシーさより面白さ、おいしそう感優先で。


●15

■大

京子{ああ}{あたし}{こんなにハンバーガー食べるのに夢中になったの}{生まれて初めてかも……}

 とウットリ。

京子{……そうか!!}

 とハッと気がつく

京子{ワックスペーパーのバーガー袋は手が汚れないし}{ハミ出した具材は全部袋の中に落ちて残らず溜まって、最後まで余さず味わえる!}

 バーガー袋ごしにハンバーガーを掴んでいる両手。

京子{だから食べることに集中できるんだ!}

京子{いままでハイタワーのハンバーガーを敬遠してたのは}

{手が汚れたり、ハミ出したり、具材が落ちたりして}

{結局食べることに集中できなくて、楽しめなかったからで}

{それで、バラして食べるくらいなら最初からハンバーガーの形で作らなくてもいいよね、って……}

 ハイタワーハンバーガーを取り巻くイメージ。


●16

コン「わはは」「全員が黙々と食ってる」

 と左右を見回して。

コン「おしゃべりな女とデートするときはこういう店に連れてくりゃいいんだな」

梨由子「おしゃべりな女ってアタシに言ってんのかよ?」

 と睨む。

コン「ん? 梨由子とデートするなんて誰も言ってないけど?」

沙織「イチャイチャしてんじゃねえよお前ら」

京子「ごちそうさま!」

コン「お、はや」「ここの美味いだろ?」

京子「うん、食べてるとき、すっごい野蛮な気分になれた!」

 と目を輝かせて。

京子「なんていうか……」

 興奮ぎみに言葉を探す。

京子「そう」「エンジョイ?」「楽しめたよ!」

コン「エンジョイか」「そりゃいいな」

 と笑う。


●17


 帰り道。家の近く。暗くなっている。

京子{ハイタワーのハンバーガーを楽しもうとしたらバーガー袋は必須だなー}

{アレ無しではダメだ}{ストローなしでシェイク飲むようなもんだ}

 あっ、と気がついて。

京子{というか、バーガー袋さえ手に入ったら自分でハイタワーのハンバーガーが作れるのでは?}


 晩御飯後のまったりタイム。居間で寝巻に着替えてパソコンを見ている京子。

京子「ネット書店でも100枚単位でバーガー袋売ってんじゃん」

京子「サイズも22センチとかハイタワーが入る大きさもある」

京子「明日届くぞ」「ポチリ!」

 と嬉しそうに。

忍「なに買ったの?」

 と不審げにのぞきこむ。

京子「ふふふ!」「明日はハンバーガー作るよ」

 と振り返る。


●18

<翌日の夕方>

 アパート外観。

 台所。忍も手伝うつもりでエプロンして控えている。

京子「まずレタス」「使う分だけ洗ってちぎって」「水気を切る」

京子「トマトは厚めにスライス」

京子「アボカドもタネを取ってスライス」「アボカドはレモン汁をかけてラップしとくと変色しない」

 切られたトマトの横でアボカドをスライスしている。

京子「玉ねぎ一個みじん切りにして」「透明になるくらいに炒めたらボウルに取る」

 フライパンからボウルに入れられる炒めあがった玉ねぎ。

京子「パン粉、半カップ、20gくらいかな」「ちょっと牛乳入れてひたしておいたのを玉ねぎのボウルに入れて」

 パン粉とひき肉をボウルに投入。

京子「そこに牛豚合挽き500g投入」

京子「卵1個」「塩コショウ少々」「ナツメグはあってもなくてもいいけどあったから少々入れる」「で、よくこねる!」


●19

京子「こねてるあいだにソースを作って」

 ボウルの中をこねている京子。

忍「うん」

京子「マヨネーズと粒マスタードとケチャップを同じ比率入れて混ぜて」

 器に材料を入れている忍。

京子「ベーコンエッグを先に焼いとく」

京子「ベーコンは半分に切って油をひかずにカリッと焼いて」「卵を投入」

 フライパンの中スライスベーコンを焼いているところに卵が投入される。

京子「ベーコンエッグを皿に取って」

 と皿に移しながら。

京子「いよいよハンバーグを焼きまーす」

京子「フライパンにオリーブ油大さじ2を熱して、平べっために4つにわけたハンバーグのタネを強火で1分焼く」

京子「裏返して、フタをして弱火で5分」

 焼かれるハンバーグ。

京子「っと、パンを焼いとこう」

 と振り返る。

忍「食パン6枚切りでいいんだ?」

 と苦笑いしながらトースターに食パンをしかける。

京子「だっていわゆるハンバーガー用のバンズ、近所のスーパーで売ってないだもん」

京子「そこはハンバーガーの本質ではないから妥協します」

 とすまし顔。


●20

京子「ごくごく軽くトーストしてあればいいから」「暖まったくらいで」

忍「はいはい」

京子「あと1分でハンバーグが焼き上がる、というタイミングでとろけるチーズを乗っける……」

 フライパンの上のハンバーグにとろけるチーズ。

 チーンとトースターの音。

京子「ハンバーグ焼き上がった!」

 とフライパンを手に振り返る京子。

京子「もう食べるよ」「覚悟いい!?」

 と興奮気味に忍に宣言。

忍「え?」「覚悟?」「う、うん」

 なんだかわからない。

京子「上下のパンの内側になるほうにさっき作ったソースをたっぷり塗りましょう」

 スプーンで塗る京子の真似をする忍。


●21

■小

京子「22センチのバーガー袋を開いて、まずパンを入れる」

 以下、京子の手元。

■小

京子「その上に最初にチーズが乗った肉」

■小

京子「ベーコンエッグ」

■小

京子「トマト」

■小

京子「レタス」「アボカド」

■小

京子「またチーズの乗った肉」

京子「トマト」「もいっちょレタス」

忍「こんな高くしたら、た、倒れちゃうよ、わ、わ……」

 と倒すまいと手や菜箸で押さえようと四苦八苦している忍。

京子「最後に一番上にパンを乗せたら──」

 と宝箱を開ける寸前のような京子の表情、手元から完成まぢかで光り輝くハンバーガー。


●22

■大

京子「──一気にバーガー袋で上下から抑え込んで持ち上げる!」

<ハイタワーバーガー>

■小

京子「おっとっと……」

 とこぼしそうになりながらこらえる。

京子「そしてグッと潰しながら、大きなお口で」「いただきまーす!」

忍「わ、わ」「いただきます……!」

 慌てる忍。覚悟できてなかった。

 まだエプロンしたままこぼすまいと中腰で立っている二人。

●23

 がぶりとかぶりつく京子

(がぶりっ)前のコマとまたぎの擬音。

 がぶっとかぶりつく忍。

忍「!」「肉!?」

 立ったまま、がぶり、がぶり、と黙々とかじりつく忍。

京子{忍が肉欲に覚醒したか……}

 ドヤ顔で見ている京子。



●24

■小

 時間経過。皿にバーガー袋。

 食べ終わってお茶を飲んでいる二人。

忍「まだ作っていたと思ったらエプロンとる間もなく立ったまま「いただきます」だったけど」

忍「それもふくめて、食べているあいだ」「なんか、こう、あさましい気持ちになっていくような……」

 とはしたない行動を振り返って、ちょっと恥ずかしそうに。初めての体験を振り返ってうっとり。

京子「ハンバーガーって、立ち食いとか、そういう食べ物でしょ」

 と笑う。「そう、よかったわねウフフ」的な。

忍「でも溢れんばかりの具材を挟んだ贅沢なハンバーガーだったね」

京子「昨日、梨由子叔母さんと行ったお店だと2000円くらいとるよ」

忍「え?」「なにそれ聞いてないけど」

京子「あっ……」

 しまった、というように口をおさえる。

忍「なんで二人で行ったの?」「ずるい」

 と二人のあいだに不穏な空気が。

京子「いや、それはその」「大人同士の話っていうか」「コンさんとかもいたけど」

 へどもどする京子。

忍「コンさん会いたかった……」

 皿洗いをする京子。後ろからお茶を飲みながら怪しんでいる忍。

忍{あやしみ……}

京子{……あの話、切り出しにくいな}

 と苦い顔。



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