第25話「鶏のスッパ煮」

コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87177271


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>


●1

■タイトル

 お盆のころ。午後、暑い日差し。

 アパートから近い住宅街の道。

京子「ほら、忍、ちゃんと帽子かぶって」

 と帽子を忍にかぶせながらすぐ後ろを追いかける。

忍「急がないと遅刻しちゃうよ」

 と京子を振り返りつつ走り出している。

 池袋とかターミナル駅のホームに滑り込んでくる山手線。

(ぎちっ)

 満員電車の車内。

 ドア近くに立つ二人。忍がドアにくっついて京子がそれを覆うように立っている。




●2

(ぎゅう ぎゅう)

京子「うわ、今日めちゃ混んでるね」「暑い日なのに……」

 と京子のお尻が忍のお腹辺りにあたってくっついている。

 京子の胸が腕に当たっていることを意識している男。

 顔を赤らめつつそらしている。

忍{はっ}

 とそれを見て気づく。

忍「僕と場所かわろ」

 ともぞもぞ動いて立っている場所を入れ替わろうとする。

京子「ん? 潰れちゃうよ?」

忍「いいから!」

 と強引に京子をドア側に立たせて向かい合う形にする。

(がっくん)

忍「うわっ」

 と揺れて京子のほうに倒れ込む忍。


●3

忍「あっ……」

京子「おっと」

 と京子の胸をつかんでしまう。

 じんわり汗。

京子「ふふん」

 と汗をかきながらいたずらっぽく笑う。

 ぎゅっと忍を抱きしめる京子。

京子「忍、フラフラしないようにつかまえておいたげる」

忍「……」

 と抵抗をあきらめた顔。

 じっとり汗ばむ二人の肌。

 待ち合わせの駅改札を出たところ。

 待っている梨由子。

京子「おまたせしましたー」

忍「こんにちは」

 と小走りでくる二人。

梨由子「うし」「暑いし、さっさと済ませるぞ」



●4~8(恩田さん)

 郊外の寺の墓地。墓参りに来た三人。

 先頭に立って煙を立てる線香の束を持つ梨由子。墓の位置を探している。

 桶とひしゃくを運ぶ京子。

 箒をもつ忍。

京子「ふーっ……」

 暑さにため息をついて汗をぬぐう。

 後から京子を見る忍。


 髪をくくった京子のうなじを伝う汗。

 見惚れる忍。

京子「あたしも帽子かぶってくればよかったな」

 と忍を振り返って微笑む。

 レンズフレア? シャイニー的な?


 墓石のまわりに箒をかける忍。

 墓石に水をかける京子。

 目をつぶって拝む梨由子。

 拝んでいる三人。

 たなびく線香の煙。

梨由子「さ、帰るか」

 とバッグを肩にかけ直す。


●9

京子「え、これで終わり?」

京子「あっさりしてるね」

 と拍子抜けみたいな。

梨由子「あ?」「他に何があんだよ?」

 と振り返って。

京子「お盆だし、お坊さん呼ぶとかなんかそういう……」

梨由子「ウチはそんなことしたことないね」

 薄笑い。坊主なんて、みたいな。

■大

梨由子「昔っからお兄ちゃんとアタシは」「ここに来て掃除して拝んだら、さっさと帰ったよ」

梨由子「「死んだもんの事はこうやってときどき思い出しに来ればいいんだ」ってね」

 と思い出すように。

梨由子「「ちゃんと暮らしてます」って報告して」「それで十分」

 それを聞いている忍。


●10

梨由子「ま、思い出すっていっても母さんはアタシを産んだとき死んでるし」「父さんが死んだ時も小さすぎて顔もあんまり憶えてなかったんだけど」

 墓。

梨由子「けどこうやって少しはマシに生活できてるのは」「ときどきでもここに来て」「そうしてきたからだと思うよ」

 梨由子の目。

梨由子「つまり、自分のためにやってんだな……」

 と目を伏せてうなずく。

京子「自分のため」

梨由子「そうだよ」

 と京子に。


●11

梨由子「もしおまえらが死んだあと」「誰も自分の事を思い出してくれなかったら」「ちょっと寂しいだろ?」

 墓地の並び。他の墓参りしている人たち。

梨由子「けど、こうやって時々自分を思い出してくれる誰かがいる限り、その人のここにいるんだ」

 とニッと笑って京子の胸をつつく。

梨由子「生きていたときの姿でな」

梨由子「だからいつもシャンと背筋伸ばして恥ずかしくないように生きろ」「ってお兄ちゃんが言ってたよ」

 と微笑している。

 京子、真面目な顔でうなずく。

 忍、自分が最初の父をほとんど憶えてない事を考えている。


●12

梨由子「さ、行くぞ」

 と歩き出す。

 忍をふりかえる京子。

 物思いの忍。

京子「忍」

 と手を引く。

 顔を上げてついていく忍。

 ターミナル駅の構内を歩く3人。



●13

梨由子「夏はこれ飲むのがいいんだ」

 とジュースバーに立ち寄ろうと指さす。見る京子と忍。

京子「お酢のジュースだって」

 グラスに入ったきれいな飲み物。

梨由子「疲労回復には酢だよ」

梨由子「甘酸っぱくて元気出るな」

 店の前のスタンドテーブルで。

忍「おいしー」

 と飲む。

京子「これ、家でも作れるね」

 と唇を舐めながら上を見てレシピを想像している。

梨由子「そういうこと店の前で言うなよ」

 嫌そうに。

京子「お酢って夏に必須だよね」「冷やし中華とか南蛮漬けとか」

 と料理イメージ背負って。

京子「今日の晩御飯、鶏のスッパ煮にしない?」

梨由子「スッパ煮ってなんだ?」

忍「僕たちのお母さんが得意だった料理だよ」


●14

 二人の部屋に帰ってきて。台所。

梨由子「忍が作るのか」

忍「待ってて」

 エプロンをつけて。

梨由子「手伝う」

梨由子「危ないから包丁で切るのアタシがやろうか?」

京子{過保護だ……}

忍「僕、子どもじゃないもん」

忍「まず茹で卵を作る」

忍「水から卵を入れて火にかける」

忍「沸騰して6分くらいかな」

忍「流水で冷やしたら剥く」「じゃあ梨由子姉ちゃん剥いて」

梨由子「まかせとけ」

忍「チンゲンサイを洗って」


●15

忍「鍋の水を火にかけて塩大さじ1」

忍「沸騰したらチンゲンサイを根元から入れて2分くらいゆがく」

忍「水にさらして根元を切って捨てて」

忍「半分くらいに切って器に盛りつける」

忍「大きめの鍋でみりん100ml」「酢100ml」「醤油100ml」「醤油少なめ酢多めでもいいけど……」

梨由子「水使わないのか」

忍「鶏手羽元」「三人だから12本ね」「これを鍋に入れたら中火」

忍「焦がさないように気をつけて」「落としぶたをする」

梨由子「この落としぶたかわいい」


●16

忍「沸騰したらちょっと火を弱めて鍋に蓋をする」「ぶくぶく泡立ってこんな感じの火加減がポイントだよ」

忍「10分経ったら茹で卵を入れて」

忍「さらに10分煮る」

忍「盛りつけて…」

忍「できあがり!」

<鳥のスッパ煮>

梨由子「煮卵と鶏で親子か」


●17

忍「僕がお母さんに最初に教わった料理なんだよ」

忍「これ、骨入れね」

 とからっぽの器を出す。

梨由子「サッパリして美味いな」

 とハシで食べている。

京子「手でつかんでむしゃぶりついた方が食べやすいよ」

 と手づかみでかじっている京子。

梨由子「美味いけど食ってるところ他人には見せられない系だな」

 京子にならって手づかみでかぶりつく。

梨由子「卵にもっと味を滲みさせたり、骨まで食えるくらい煮込むとかすればいいかも」

 卵を食べる忍、うなずいて。

梨由子「んー骨まで愛してるぜ」

(ちゅぱっ)

 っと骨をしゃぶる。

京子「あははは」

 と笑う。


●18

 しばらくして。

 トイレから戻ってくる梨由子。ワイン飲んで酔っ払っている。

(じゃー)(ばたん)

梨由子「忍もう寝たのか」

京子「夏休みの宿題の絵日記書くって言ってたよ」

 流しで洗物しながら。

忍<今日はりゆこおばさんと京子と三人で> <去年死んだお父さんとお母さんのおはかまいりにいきました>

 居間の勉強机で絵日記を書いている忍。

忍<死んだ人のことをときどき思い出すためにおはかまいりするのだと> <りゆこおばさんがいいました>

 忍の絵日記の絵。


●19

忍<お父さんとお母さんのことを思い出すと>

忍<以前は泣いてしまいましたが>

 忍の淡々とした目。

忍<最近はもう子どもじゃないので泣きません> 

忍<今日も泣きませんでした>

忍<今日気がついたことがあります>

忍<りゆこおばさんと同じで> <ぼくの最初のお父さんはうんと小さいときに死んだので全然おぼえてません>

 真っ黒。

●20

忍<だから最初のお父さんだけ誰にも思い出してもらえないとかわいそうなので> <これからはときどき思い出すようにしたいです>

 顔が分からない父のシルエット。

忍<でも全然おぼえてないので> <どんな人だったのかそうぞうしています>

 机に突っ伏してうたた寝している忍。

京子「忍、汗かいたのにお風呂入ってない」

 忍をひきずっている京子。

 風呂上り、下着姿で窓際で窓枠にもたれて手に灰皿を持って外を見てタバコを吸っている梨由子。

梨由子「寝かしといてやれよ」

梨由子{お兄ちゃん、義姉さん}{こいつらは大丈夫}{しっかり暮らしているよ}

 と夜空を見上げている梨由子。



年齢対照表

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忍                      0歳  2歳  3歳  4歳  6歳 10歳

京子                 0歳  6歳  8歳  9歳 10歳 12歳 16歳

梨由子    0歳  4歳  7歳  9歳 15歳 17歳 18歳 19歳 21歳 25歳

コヤジュン      2歳  5歳  7歳 13歳 15歳 16歳 17歳 19歳 23歳

京子父   16歳 20歳 23歳 25歳 31歳 33歳 34歳 35歳 37歳 41歳

忍母     5歳  9歳 12歳 14歳 20歳 22歳 23歳 24歳 26歳 30歳

忍母弟        3歳  6歳  8歳 14歳 16歳 17歳 18歳 20歳 24歳

京子母は京子父と同齢

忍父は忍母の20歳年上


・梨由子母死

・梨由子父死

・京子父結婚

・京子誕生

・忍誕生 忍祖母死

・忍父死

・京子母離婚

・京子父と忍母再婚

・梨由子大学正月話 忍祖父死

・物語スタート



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