第23話「チンジャオステーキ」

コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87176799


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>


●1

■大

 初夏午後4時ごろ、まだ明るい。

 学校帰りのモリモン。あいかわらず化粧バッチリ。大きく胸はだけて暑そう。

モリモン「ちぇー」「結局みんなダメかー」「しょうがねえ大人しく帰るか」

 スマホ見ながら。

 家の前の公園を通り抜けようとするモリモン。

(ワイワイ)(きゃっきゃっ)

モリモン「んだよ」「ガキどもうるせーなー」

 と公園でワイワイ遊んでいる忍たちを睨む。

(わー)

(すっげー)

(みしてみしてー)

 忍、中津、ロングキスグッドナイト、ゆみみ、友達A~Fくらい。対戦したり交換したりしている。

■小

モリモン「ん?」

 と目を細めて顔を突き出して忍たちを確かめるように見る。


●2

中津「いーじゃんかよー」

忍「今日はまだ交換しないよ」「よくカードのルール見て考えてから」

 と交換を迫る中津といやがってカードを抱える忍。

モリモン「忍!」

 とその声に振り返る忍。

モリモン「おす」

 ニッと笑いかける。

忍「モリモンだ」

 とパッと目を輝かせる。

モリモン「うりうり」

 親しげに忍の頭をクシャクシャにするモリモン。犬あつかいみたいな。

 目をつぶってくすぐったそうにする忍。

ロングキスグッドナイト「誰?」

 とちょっと睨んで忍に。

忍「京子の友達だよ」

 とロングキスグッドナイトに。

モリモン「ああ……」

 ちょっとバツが悪そうに。

モリモン「スリキンか?」

 と対戦で盛り上がっている小学生たちを見回して。

忍「今日、新しいエキスパンションの発売で」「みんなでパック開けてたんだ」


●3

モリモン「ふーん、あたしも昔はよくやったなー」

 と京子と遊んだことを思い出して。

 イメージの中のモリモン(アンタップアップキープドロー魔力を3使って奴隷軍団召喚魔力1で万力台の生贄発動して魔力抽出……)と呪文を唱えるように。

友達Aの声「そんなのダメだねーっ!」

友達Bの声「できますぅ!」

 と争う声のほうを見るモリモン

 忍とゆみみとロングキスグッドナイト、中津が言い合いを心配そうに見守っている。

友達A「ちげえよ、蘇生できるのは通常クリーチャーだけだから」「レジェンドの「アフューグッドマン」はダメだよ」

友達B「このカードに書いてある「通常クリーチャー」は「特殊召喚クリーチャー」じゃないって意味だから」「「アフューグッドマン」は「通常クリーチャー」なんですぅ」

友達A「そんな事どこにも書いてないぞ!」

友達B「普通に考えてそうだろ!」「バーカ!」

 ハラハラするゆみみと忍。

友達A「なんだとー!」

 しょうがねえな、みたいな顔で苦笑いしているモリモン。


●4

 掴みかからんとしているところに

モリモン「待て待ておまえら」

 と割って入る。

モリモン「そのカード見せてみろ」「ジャッジしてやる」

 と手を出す。

モリモン「「墓あばき」ね」「新しいカードか」「……ふんふん」

 カードを読みながら。

モリモン「まず「通常クリーチャー」の定義はおまえの解釈が正しい」

 と友達Bを指して。

友達A「ええーっ!?」

 そんなっと不満そうに。

友達B「ホラ見ろー!」

 と得意げに。

モリモン「特殊召喚クリーチャーじゃないクリーチャーなら」「レジェンドだろうがなんだろうが通常クリーチャーだ」

 とベンチに腰掛けてむっちりした脚を組む。

モリモン「……でもアフューグッドマンにはタフネス値がない」「ということはクリーチャーじゃないんだなー」

 とアフューグッドマンのカードを示す。

モリモン「だからクリーチャーに影響を与える呪文や能力の影響を受けない」

友達B「えっ?」

 と目を丸くする。


●5

モリモン「つまりこの「墓あばき」で蘇生できるのは通常クリーチャーだけだから、アフューグッドマンは蘇生できない」

 と暑そうにシャツをパタパタさせる。派手なブラがチラチラする。

小学生(スゲー!)

(どよどよ)とどよめく小学生。驚異の目で見られてもすまし顔のモリモン。

中津「この姉ちゃん詳しい……!」

モリモン「昔から新しいエキスパンションが出るたびにこういうルール解釈でよく揉めたなあ」

中津「俺の新しいカードも見てくれ!」

 とカードを何枚か突き出して。

モリモン「んー?」

 と見る。

モリモン「ほほー、この「黄泉の顕現」って呪文カードは強力だぞ」

 といくつかカードを見ながら。

モリモン「コスト黒魔力1、黒魔力を使用して召喚するクリーチャーを好きなだけ生贄にして墓場に送ることができる。生贄にしたクリーチャーの召喚に必要な魔力1ごとに黒魔力2を得る」

 墓場からゲートが開いているイラストのカード。

中津「こんなのがー?」「せっかく召喚した自分のクリーチャーが死んじゃうじゃん」

 と納得いかないという顔。


●6

モリモン「コレはウチらの頃に制限カードになった「魔界転生」をマイルドにしたやつだ」「アレで京子にやりたい放題にやられたっけなー」

(ちっ)

 と思い出して舌打ち。

モリモン「コレの価値がわかんないか?」「じゃあ黒デッキ組んで見せてやんよ」

 とカードを選り分けて並べだす。行儀悪くベンチに立膝ついて褐色の太ももがあらわに。パンツ見えそう。

モリモン「1ターン目で土地出して1魔力のクリーチャー召喚」「2ターン目でまた土地出して2魔力のクリーチャー召喚」

 中津と向かい合ってゲームをやって見せる。周りを小学生たちが囲んでみている。

モリモン「ほらな? これなら3ターン目で土地出してこの呪文使えば黒魔力8使えるだろ?」

 とカードの出ている場を見ながら。

モリモン「弱いクリーチャーを2体生贄にして強力なクリーチャー召喚もできるわけだ」

 と顔を上げて中津を見る。

中津「黒魔力8ってエンシェントダークドラゴンナイト出してもお釣りがあるじゃん!」

 びっくりしている中津。

友達A「すげー!」「3ターンでそんなことされたら何もできねー!」

モリモン「そんなことねえよ」

 とニッと笑って。


●7

モリモン「そういうのにはこの「墓守の王」でカウンターか「変化」で色を変えたりして時間稼ぎながら体勢を整えて……」

 とモリモンを囲んで講義に夢中な小学生たち。

モリモン「な?」

小学生たち「すげー!」「何者だこの姉ちゃん?」

忍「京子の友達なんだけど」

 と苦笑いする忍。

■大

中津「えっ!?」「かつて黄金姫(プリンセスゴールド)と呼ばれたあの魔王のライバル!?」

小学生たち「今まさに伝説的(レジェンダリー)で叙事詩的(エピック)な存在が俺たちの前に降臨している」

 小学生たちの背後に京子の魔王イメージと相対するモリモンのダークエルフクイーンイメージが立ち上る。

小学生たち「……ダークエルフ」「うん、そうだ」「きっとダークエルフの女王だ……!」

(ざわざわ)とざわつく。

モリモン「「森(ウッド)エルフの小公女(プリンセス)」だったんだけどなー」

 と苦笑い。


●8

 再びワイワイとそれぞれゲームやって盛り上がる小学生たち。

 様子を見て回りながら何か声をかけているモリモン。ほほえましげ。

 ゲームをしているのをぴょこぴょこあっちこっちで見ているゆみみ。

 ゆみみと目があうモリモン。

 ゆみみの横に立って、

モリモン「あんたさっきから見てるだけだけど」

モリモン「やんないの?」

ゆみみ「うーん」

 と曖昧に笑う。

モリモン「つか、カードそれしか持ってないの?」

 とゆみみの手に持っている60枚の束を見て。

 大事そうに持っているカードの束。

ゆみみ「うん」

ゆみみ「みんなみたいに新しいカード買うおこづかいないから」「持ってるカード全部入れてるんだ」


●9

ゆみみ「あ、でもロングキスグッドナイトがカード貸してくれるから」「二人で共同みたいにしてるんだ」

モリモン(ロングキスグッドナイト……?)

 は? と怪訝な顔。

ゆみみ(あの子)

 とロングキスグッドナイトを指さす。

(負けたー)と悔しそうにしているロングキスグッドナイト。

ゆみみ「それでも全然勝てないけど」

モリモン「そっかー」「けど勝てないと面白くなくない?」

ゆみみ「わたしはみんなと遊べるだけでいいんだけど」

ゆみみ「でもわたし弱すぎるから、みんなわたしに勝ってもつまんないみたい」

 とちょっと寂しそうに笑う。

モリモン「ふーん……」

 とゆみみの顔を見ながら昔のことを思い出す。


●10

 何か考えるモリモンの顔。

モリモン「ちょっと来なよ」

 と立ち上がる。見上げるゆみみ。

モリモン「あんたも」

 とロングキスグッドナイトに声かける。

 え、わたし? というように顔をあげるロングキスグッドナイト。

忍「どこ行くの?」

 とモリモンに。

モリモン「忍も来る?」

モリモン「ウチすぐそこなんだ」

 と振り返りつつ家を示す。


●11

 モリモンの家外観。

 真矢子の部屋、というかわいいボードがぶら下がっている自室のドア。

 ギャル趣味全開の部屋。黒とピンク、みたいな。

モリモン「お」「あったあった」

モリモン「ナツいー」

 とクローゼットの引き出しからクリアボックスを取り出す。

 後ろで見ている忍ロングキスグッドナイト。キョロキョロしているゆみみ。

モリモン「ジャジャーン」

 とデッキケースとカードアルバムを見せる。

ロングキスグッドナイト「わっ、すごい」

ゆみみ「キチーっとわけて整理されてる!」

モリモン「宝物だったからね」

モリモン「うっは、小学生のあたしヤバイ」「デッキに名前つけてある……!」

モリモン(「閃光の突撃流血騎士団」って……)

 と個別のデッキケースを手にしてネームシールが貼ってあるを見ている。


●12

ゆみみ「さすがダークエルフの女王、いっぱいもってるねー」

モリモン「あたしもこづかい貯めてコツコツ集めたんだ」「カードの手持ちが少なくって勝てない切なさ、わかるよ」


モリモン「だからこのカード全部」「あんたたち二人にあげる」

 と差し出す。

ゆみみロングキスグッドナイト「えっ!?」

ゆみみ「宝物なんでしょ?」

 なんで? いいの? もらったら悪いよ。みたいな。

モリモン「あたしはもういいんだ」

モリモン「さんざん遊んで友達と楽しんだから」

 と京子と仲良かったときのことを思い出して。

モリモン「あたしの代わりに遊んでやって」

モリモン「その代わり二人共同で使うんだよ」

 お互い見るゆみみとロングキスグッドナイト。


●13

モリモン「そのうちわかると思うけど」「女子はいつのまにかこういうゲームで遊ばなくなるんだ」「自分がまだ遊びたくってもね」

 モリモンの部屋。カードゲームからほど遠くなった趣味。化粧品とかアクセサリーとか。

モリモン「だからあんたたちも遠慮しないで今のうちに悔いが残らないようにいっぱい遊びな」

モリモン「もしゲームやらなくなっても、いっぱい一緒に遊んだ子とはずっと友達でいられるかもしれないじゃん」

 モリモンの話を聞いているゆみみとロングキスグッドナイトと忍。

モリモン「これはダークエルフの女王の遺産(レガシー)」

 ニッと笑って差し出すモリモン。


●14

 スーパーで買い物する忍。

忍{今日はなんかごちそうにしたい気分……}

 家の台所

忍{キャベツ半分を太めの千切りにして}

 キャベツを切る忍。

忍{ボウルの中で塩小さじ1ふって軽くもむようにして混ぜ合わせる}

忍{しばらくおいて後で水けを絞る}

 ボウルの千切りキャベツをまぜる手。

忍{玉ねぎ4分の1を薄切りにして水に5分さらして、これも水けを切る}

忍{青じそ1束を千切り}

 ボウルの中で水にさらされる玉ねぎ。青じそを切る手。

忍{ボウルにオリーブオイル大さじ4、ワインビネガー小さじ2、塩コショウ少々入れてかき混ぜる}{これにキャベツと玉ねぎと青じそを入れてよく和える}

忍{これで一品}

 手を洗う忍。

忍{味噌汁はキャベツとワカメでいいな}


●15

忍{牛肉はステーキ用300g}

忍{ふんぱつしてちょっといいお肉を買いました}

 肉をまな板に載せてウキウキしている忍。

忍{脂身を取り除いて、縦に人差し指大の棒状に切る}

 肉を切りながら脂身をよける。

忍{肉をボウルに入れて酒大さじ1をよく揉みこむ}{それから片栗粉大さじ2を加えて揉みこんでサラダ油大さじ2をかける}

忍{こうすると口当たり柔らかくなってパサつかない}

 ボウルの肉をもんでいる手。

忍{ニンニク2かけをすりおろして入れて}{紹興酒とオイスターソースをそれぞれ大さじ2}{醤油と砂糖を小さじ1ずつ入れて混ぜる}

 ボウルに入る調味料。

忍{ピーマン4個はヘタと種を取って1センチ幅で縦に切る}

忍{たけのこの水煮150gは牛肉と同じ大きさに切って醤油小さじ2をまぶす}


●16

忍{中華鍋でごま油大さじ2を熱してピーマンとたけのこを炒める}{たけのこに焼き色がついたら水小さじ2を加えて}

忍{汁気を飛ばしていったんお皿に取る}{途中で水分を入れると短時間で火が通るんだ}

忍{中華鍋に牛肉を汁ごと入れて強めの中火で炒める}

忍{……ドロドログツグツしてもうおいしそう}

忍{火が通ったらたけのことピーマンを戻して炒め合わせる}

忍{火を通しすぎると肉が硬くなるのでほどほどで……}

 と中華鍋から大皿に盛る。


●17

<チンジャオステーキ>


<青じそのコールスローサラダ>


<ワカメとキャベツの味噌汁>

二人「いただきまーす」

京子「ごちそうだー」

忍「シュバルツシュメルツを拝借しました」

 真ん中の大皿に箸を伸ばすふたり。


●18

 目を伏せてもぐもぐ食べる京子。

京子「お」「肉やらか~い」

 シャリシャリとピーマンを噛む忍。

忍「ピーマンもたけのこもちょうどよく火が通ってシャキシャキにできた」

京子「コールスローも青じそが香って食欲を煽られる」「夏っぽくて爽やかだね」

忍「たくさん作ったから明日も食べよう」「一晩置いてしんなりするとさらにおいしいよ」

忍「そうそう」「あのねー」

 食べながら。

忍「今日モリモンと遊んだんだよ」

京子「……えっ?」

 意外そうに目を丸くする。


●19

 台所で洗い物している京子。

 食卓で見ている忍。

京子{……ふーん}{そんなこと言ってたんだ}

京子「モリモン、ふとっぱらだねー」

忍「うん」

京子「でもあたしはカード手放さないよ」「あたしはまだまだ忍と遊ぶもん」

京子「それに」「それこそカードゲームの遊び方を教えてくれたお父さんのレガシーだからね」

■小

 にっこり笑う忍。

忍「うん!」


●20

 休み時間、小学校の教室。ゲームをやっている中津とゆみみを囲んでいる忍たち。

中津「うっ」

中津「ライフゼロ……!」

 とガックリとカードを置く。

ゆみみ「え」

ゆみみ「初めて中津君に勝てた!」

 とロングキスグッドナイトと抱き合う。

ロングキスグッドナイト「やったなゆみみ!」

友達A「ランキングが塗り替えられたぞ……」「ダークエルフの女王の後継者が現れてからというもの」「乱世だな」

ロングキスグッドナイト(また勝ったー!)

 と快勝しているロングキスグッドナイトを離れたところでうかがっている友達AとB。

 高校、廊下ですれ違った京子たちとモリモンたち。

京子「森(ウッド)エルフの小公女(プリンセス)は悪堕ちしてダークエルフの女王になって、隠棲したらしいね」

モリモン「黄金姫(プリンセスゴールド)は魔王を僭称して恐れられているって噂を聞いたよ」

 と二人ともニヤニヤ笑って。

 二人以外「???」みたいな顔。

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