第22話「ノットロールキャベツ」

コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87176645


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>


お父さん(児島俊二)38歳 自動車販売営業 火曜休み。妻・奈央、娘・千夏の三人家族。昔はモテた。普段あまり高校生くらいの女子に興味がない。


千夏(ちか)(児島千夏)5歳 幼稚園児 パパ大好き。



●1


●2

■小

 ミスド店内。

■小

お父さん「千夏どれがいい?」

千夏「んーと」「んーと」

 迷っている娘の千夏の目線にあわせてかがんでいるお父さん。

■小

 ふと横に太ももが見えて思わず顔を上げる。

■大

京子「もうボウヤが先に席取ってるって」

 ツンとしたよそ行き顔。LINE見ながら。トングとトレイを片手に持ってる。

セクシー「喫煙席、クサいからヤだな」

 同じくツンとしながらトレイを手にトングをカチカチさせている。

(カチカチ)


●3

■大

 京子に見とれてしまうお父さん。ドーナツを物色する京子。

お父さん{……きれいなコだ}

 上体を伸ばしてお父さんの前の棚からドーナッツを取ろうとする京子。

 お父さんハッとして。

お父さん「おっと、ごめんなさい」

お父さん「ほら、千夏ちょっとどいて」「お姉ちゃんが取りたいって」

 と千夏を抱えるように後ろに下がらせる。


●4

■大

京子「あ」「すみませーん」

 とうって変わってニッコリ。

■小

 ドキッとするお父さん。

京子「ありがとうねー」

 と千夏に。

千夏「どーいたしましたー」

 と笑う。

■小

 会計に向かう京子の後ろ姿、お尻

■小

 ふともも。

■小

 鼻の下を伸ばして見送るお父さん。

お父さん{……いい}


●5

 京子の後ろ姿を遮るように京子の後に続き、振り返りつつお父さんを冷たく睨むセクシー。

 威嚇するようにトングを鳴らす。

(カチカチ)

 その蔑んだような視線にゾクゾクっとするお父さん。ちょっと息をのむ。

千夏「きれいなお姉ちゃんだねー」

 と無邪気に笑って父に同意を求めるように見上げる。

■小

 ハッとするお父さん。

■小

お父さん「あ、ああ」

 焦る。

■小

 ちょっと自己嫌悪。

お父さん{二人とも大人っぽい子だったからつい見てしまった……}

千夏「?」


●6

 ミスド店内のテーブル席。ドーナツを食べている4人。

ボウヤ「食事の最初にサラダとか野菜を先に食べたほうが血糖値上がらないらしい」

京子「血糖値が上がらないとなにがいいの?」

ボウヤ「健康にいいんだろ」「あと太らない」

セクシー「ドーナツ食べながら太るとか太らないみたいな話するのどうなの」

京子「ちゅうか、食べたら結局お腹の中でいっしょなんだから」「先に食べても後で食べても変わらないんじゃない?」

セクシー「どうだろ?」

クリ子「健康の事とかあんまりピンとこないな」

 関心なさそうに。


●7

クリ子「健康ポークを使ったカレーの店っていうのがあったけど」

クリ子(もうつぶれた)

クリ子「結局食われちゃう豚からすれば健康とかどうでもよくない?」

京子「クリ子が豚ならどうでもいいかもしれない」

クリ子「え」「いまあんたあたしのこと豚って言った?」

 と聞き捨てならない!というようにキッと。

セクシー「健康に育った豚だからおいしいってアピってんだろ」

ボウヤ「そういやさー」

ボウヤ「これはアニキの先輩が友達から聞いた話なんだけど」

セクシー「まて怖い話ならやめろ」

 怖い話の前振りに敏感。


●8

ボウヤ「イベリコ豚っているじゃん」

クリ子「あー、ドングリ食べてるおいしい豚」

ボウヤ「あれって普段は普通の飼料食べさせておいて」

■大

ボウヤ「殺す前にちょっとドングリ食べさせたらそれでイベリコ豚って事にしていいらしいよ」

 豚にドングリを食べさせ「はい食べたねもうイベリコねー」と言っている飼育員のイメージ。

クリ子「まじか!?」

京子「そんなんで肉の味が変わるの?」

セクシー「その話本当かあ?」

 怪しむ二人。

■大

クリ子「ドングリ食べさせて殺した豚とか」「リンゴ食べさせて殺した牛とか」「ビール飲ませて殺した牛とか」「全部そうなのかな?」

 指折り数える。

セクシー「その言いかただと食い物が死因みたいだぞ」


●9

京子「豚とか牛がさ」

牛「あれー? 今日なんか珍しいもの食わせてくれるなー?」

牛「あっ、もしかしてオレ今日殺られる?」

京子「ってそれで察っせられる」

 リンゴを食べさせられてハッと何かに勘づく牛のイメージ。

クリ子「なんか一家心中の前にみんなでご馳走食べて」「それで子供が「おかしい」って勘づくみたいな」

 昭和の借金苦家族が最後のご馳走イメージ。

ボウヤ「じゃあ死期を察して血中を流れるアドレナリン的なもので肉のうまみ成分を増すのでは?」

京子「科学的だ」

クリ子「説得力あるな」

セクシー「そうかあ?」


●10

 トイレから出てきたお父さん。

 京子たちが話している席に気が付く。

お父さん{さっきの子たちだ……}

お父さん{千夏もすぐにこのくらいになって大人になっちゃうんだろうな……}

 と通り過ぎるために近くにくる。

京子「滋養豚ってのもあるんだよ」

ボウヤ「滋養って栄養が良いってこと?」

京子「滋賀県で養っているっていう意味らしい」

クリ子「滋賀県てどこだよ?」

ボウヤ「琵琶湖があるとこ。全国で一番城が多い県」

京子「滋養豚は和菓子を食べさせているんだと」

京子「珍しいもの食わせて殺した牛とか豚がおいしい事になってるけどさ」

セクシー「だから「食わせて殺した」とかいうなよ」

お父さん{なんの話だ……?}

 といぶかしみながら通り過ぎる。

京子「きわめつけはさー」


●11

■大

京子「ミルク豚っつーのがあって」「牛乳で育てた豚なんだってさ」

クリ子・ボウヤ「はあー?」

クリ子「豚を牛乳で育てるとかおかしいだろ!」

ボウヤ「本当なら豚乳?」

京子「豚乳って聞いたことない」

セクシー「なー、それを言ったら人間だって牛乳で育ってるよ」

クリ子「え」「じゃああたしらミルク人間か?」「おいしく育ってるのか?」

セクシー「……」

京子「ミルク牛は?」

ボウヤ「それ普通なんじゃ」


●12

京子「あれ?」「もしかして牛ってお母さん牛のおっぱい飲ませてもらえないんじゃね?」

 と気がつく。

京子「牛乳は人間に飲ませるために生産してるからさー」

クリ子「えー?」

クリ子「もしそうならおかしくね? 本来飲むべき子牛が飲めないとかスジが通らないぞ」

 義憤に駆られる。

ボウヤ「人間のおこぼれでちょっとくらいは飲ませてもらえるんじゃない?」

 真面目に考えてる。

セクシー「なー、結局、野菜を最初に食べると太らないって話はどうなんだ」

 どうでもよさげに。

クリ子「「殺す前に珍しいもの食べさせると肉がおいしくなる方式」が効果あるっていうのなら」「同じ理屈で効果あるんじゃない?」

 離れた席から耳をそばだてるお父さん。汗。

お父さん{興味深い議論だ……}

 ご機嫌にドーナツを食べている千夏。



●13

京子「……いや」

 と物憂げな顔を上げる。

 家の台所。

京子「よく考えたら理屈になってないぞ……?」

 とまな板の上で玉ねぎを半分に切る。

(たん)

京子「あたしは「その食事中にいっしょに食べちゃえばおんなじ」説だよ」

 (しょりしょり)

 と芯を抜いている。

忍「え?」

 とエプロンをつけようとしている忍が振り返る。

忍「なんの話?」

京子「なんでもなーい」

 ととぼけたように笑う。

京子「ということで今日は「いっしょに食べちゃえばおんなじ」料理です」

 と振り返る。


●14

 テーブルの上にひき肉のパック。

京子「ひき肉牛豚合挽き300gに」「塩小さじ2分の1コショウ少々かけて」

京子「軽く混ぜてまとめてね」

忍「こねなくていいの?」

 忍、ひき肉パックの上でビニール袋を手袋にしてまぜる。

京子「あんまり頑張んなくていいよ」「塩コショウが混ざれば十分」

 と玉ねぎを切る。

京子「玉ねぎは半個。縦に薄切り」

 薄切りにした玉ねぎ。

京子「トマトケチャップ大さじ2中濃ソース大さじ1をまぜる」

 と小さい器に菜箸でかきまぜる。

(かっかっか)

忍「ハンバーグだ?」

 とがんばってひき肉をまぜてる。

京子「ちがいまーす」

 ととぼける。

京子「小さめのキャベツ半玉をざく切りにして」

京子「軽く茹でてザルに上げる」

 茹で上げてザルにあけられたキャベツ。

(ざあっ)


●15

京子「フライパンに玉ねぎと水大さじ2を入れて中火で炒める」

 フライパン。

(じゅ~)

京子「水けがなくなったらひき肉を入れる」

京子「ひき肉をひと口大にほぐしながらゴロゴロ焼いて、ケチャップソースを入れて混ぜて味つけ」

(じゃあああっ)(ごろごろ)

忍「これにフタして火が通るまで蒸し焼きにすればハンバーグだけど……」

 と首をかしげる。

京子「ここで茹でたキャベツ、トマトの水煮カットタイプを一缶、水1カップ、醤油小さじ2を入れる」

 次々に材料が投入される。

(じゅわわわわ…)

京子「あとはフタをして10分煮る」

 とフライパンに蓋をする。


●16

京子「ん、塩コショウもう少しだけするか……」

 と蓋をあけてオタマで味見。

<ノットロールキャベツ>

 とごはん。

忍「巻いてないロールキャベツ?」

京子「そ」

京子「「いっしょに食べちゃえばおんなじ」説によって本日はキャベツを巻かないロールキャベツ」



●17

忍「ふー」「ふー」

 と口に運びながら冷ます。

忍「あひっ」「はふっ」

 笑いながら食べる。

京子「ん~~~」

 と目をつぶって味わう。

(もぐもぐ)

京子「やっぱり口の中に入ればおんなじだなー」

 とおいしそうに笑う。

 忍が目を細めて笑いながらモグモグ。


●18

忍「でも巻いてないから見た目はトマト煮込みハンバーグに限りなく近い」

忍(オイシー)

京子「おんなじだねー」

京子(ごはんにあう)

 うれしそう。

忍「ひき肉って牛豚合挽きのほうが味がいいと思う」

 味わいつつ。

京子「そうだね」「絶対牛100%より合挽きがいい」

 ふーふーして。

京子「おっと」「温泉卵のパック買ってきたんだった」

 と立ち上がって冷蔵庫を開ける。

京子「ロールキャベツおかわりしたら入れてみて」

 と温玉を出す。

忍「じゃあ最後はそれにごはんを入れて食べちゃおう」

 と思いつく。

京子「うふふ、あたしも!」

 ニコニコしながら頬張る。


●19

<そして……>

京子{食べすぎたかな……}

 と下着姿で体重計に乗っている京子。

 同じころ自宅ふろ場の脱衣所で体重計に乗っている風呂上りセクシーの裸の後姿。

セクシー「う」

 同じくクリ子。

クリ子「やばい」

 と足もとの体重計を見ている焦り顔。



●20

 翌日昼休み学食。

4人「いただきまーす」

ボウヤ「あれ?」

ボウヤ「なんでみんなしていきなりポテドサラダから片づけてんの」

 みんなで定食を食べているとき、ふとボウヤが気がついて不審げに指摘する。

京子「いや~」

 と苦笑い。

クリ子「だってなあ?」

 とセクシーに同意を求めるように顔をうかがう。

■大

セクシー「野菜から食べ始めると太らないんだろ?」

 とバツが悪そうに。

■大

ボウヤ「イモは炭水化物だからいきなり血糖値上がるんだよ!」

京子「えっ」

セクシー(野菜じゃないの……)

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