第21話「レモンフィッシュのステーキ」

コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87176468


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>


谷取穂(たに・とれほ)45歳 忍と京子の行きつけのスーパーの魚売り場の人。

 二人とはたまに話すこともあるていどの顔見知り。ダニー・トレホ似。ゴム前掛けに白いゴム長ぐつ。




●1 どちらかのコマに単行本時サブタイトル。

 初夏。学校の帰り道。中津、ゆみみ、ロングキスグッドナイト、忍の四人で帰っている。

中津「サメ映画?」

ロングキスグッドナイト「海水浴場にでっかい人食いサメが出て大騒ぎになるんだよ」

ロングキスグッドナイト「ガーッ!」「ってすごいでかい口で人間が食いちぎられる!」

 ジョーズのイメージを背負って大げさなジャスチャーで脅す。

 軽くびっくりする3人。


●2

 怯えるゆみみ。

ゆみみ「こわーい」

ゆみみ「そんなのいたら海で泳げない」

忍「……海水浴したい人は困るけど、海に入らなければ安全だよね?」

 ちょっと考える忍。

中津「陸にいればそんなの怖くねーよ」

 鼻で笑って強がる中津。

ロングキスグッドナイト「甘いね」

 と、さらにそれを勝ち誇るように嘲笑う。

ロングキスグッドナイト「最近のサメ映画は陸にいたってサメに襲われるんだ」

忍「最近のサメ映画?」

ロングキスグッドナイト「サメ映画にもいろいろあって、もっとすごいサメが出てくるんだ」

■大

ロングキスグッドナイト「頭が2つあるサメとか」

ロングキスグッドナイト「タコと合体したサメなんか、平気で陸に上がってくるよ」

 ダブルヘッドジョーズとシャークトパスのイメージを背負って勝ち誇るロングキスグッドナイト。

ゆみみ「そんなサメがいるならもう海に行きたくない」

 泣きそうなゆみみ。

忍「それサメかな……?」

 首をかしげて苦笑する忍。


●3

中津「ロングキスグッドナイトって、映画くわしいよな」

 ちょっと感心する中津。

ロングキスグッドナイト「お父さんが映画好きだからね」

ロングキスグッドナイト「毎日いろんな映画のDVD見るのつきあわされるんだ」

■小

 忍と京子のアパート外観。

 部屋。京子、クリ子、セクシー、ボウヤがDVDを見ている。

 つまんない映画が終わったところで、しきりにうなずいているボウヤ以外うんざりしている。

セクシー「終わりか」

ボウヤ「なっ?」

ボウヤ「頭が3つあるサメどうよ!?」

ボウヤ「衝撃度3倍!」「破壊力3倍!」「食欲3倍!」

 と一人興奮。

クリ子「つまらなさも3倍じゃねーの?」

 醒めた目で。

京子「ダニー・トレホとロブ・ヴァン・ダムが出てたのはよかった」

 とマニアックなキャストが出ていたので良かった探し的な感想をボウヤに。つまんなそう。

ボウヤ「よし、じゃあ次のサメ映画!」

 とリモコンとDVDパッケージを手にはりきる。うげっとなるクリ子。

忍「ただいまー」

 と忍が帰ってきた声。


●4

 部屋に忍入ってきて。

忍「あ、いらっしゃい」

 みんな忍に手を挙げたり会釈したりして応える。

京子「サメ映画見てたんだ」

 テレビを指して。

忍「え!?」

 偶然の一致に驚く。

クリ子「ボウヤのサメ映画DVDコレクション」

 とテーブルの上に積み上げたDVDのパッケージを示して笑う。ボウヤが次に何をかけるか嬉しそうに選んでいる。

忍「もしかしてサメ映画って流行ってるの?」

 不安げに京子に。

京子「さあ?」

 困り笑い。

京子「夏になったら海行こうぜーって盛り上がってたら」「ボウヤがサメ映画を熱く語り出して、その流れで」

セクシー「だいたいさ」「サメが出るなら海に近づかないで陸にいれば安全なのに」

 とヤボなツッコミ。

ボウヤ「甘いね!」

 すかさず振り返り、ロングキスグッドナイトと同じように勝ち誇るように嘲笑う。


●5

■大

ボウヤ「海から離れた陸にいたって竜巻に乗ってサメが飛んでくるんだから」「逃げる場所なんかもうどこにもないよ!」

 ボウヤの背後に竜巻と稲妻にサメのシルエット。

セクシー「サメが飛んでくる?」

ボウヤ「トリプルヘッドメガシャークトパスが竜巻に乗ってワシントンに降り注ぐ!」

 DVDデッキにディスクを入れる。

ボウヤ「ホワイトハウスダウン!」「合衆国崩壊の危機にチェーンソーで立ち向かうシャークハンター!」

 「トリプルヘッドメガシャークトパスネード」のタイトル画面。

京子「特盛全部乗せみたいのがあるのか」

セクシー「唖然とするな」

 呆れる二人。

クリ子「忍、ここ座んなよ、一緒に見よう」

 と隣を勧める。


●6

 5人で見ている。

 得意顔のボウヤ。

セクシー「サメ退治に海軍まで出撃か」

(パンパパーン♪)

 あまりの展開に険しい顔。

 横から忍に脚と腕で抱きついているクリ子。忍に膝枕させている京子。困り顔の忍。

 同じ構図。

 笑っているボウヤ。

(ボカーン!)

セクシー「おい、まて空母撃沈」「第七艦隊壊滅て」

 あ、あ、と画面を指さして。

 忍の膝枕でうつぶせ気味に片目で見ている京子。退屈そうに見ながら忍の肩に脚をかけて寝っ転がっているクリ子。困り顔の忍。

 同じ構図

 感動して泣いてるボウヤ。

(ブォンブォーン!)(ブイ~~ン!)

(「やめてください大統領!」「サメ野郎!チェーンソーで真っ二つにしてやる!」)

 他4人、超展開で「はあっ?」みたいに信じられないものを見たような顔で。


●7

 映画終わって。

ボウヤ「すごかったでしょ?」

 と涙を拭きながら嬉しそうにリモコンを操作。

 ボウヤがDVDを取り出している。他4人全滅という感じでうんざり。

京子「たしかにすごい映画だった」

セクシー「うん、見てすごい損したって気持ちになった映画だ」

クリ子「一生見なくてもいい映画ってあるんだね」

■小

ボウヤ「次のサメはもっと怖いよ」

セクシー「もういいってば」

ボウヤ「サメが人間に殺された恨みで幽霊になって襲ってくる!」

ボウヤ(「ゴーストシャーク」という……)

 と幽霊の手つき。

クリ子「まじか。サメの幽霊とか最高に怖くね!?」

 とガバっと起き上がってビビる。

セクシー「帰ろ帰ろ」

 と立ち上がる。



●8

 セクシーたちを帰したあと、スーパーに買い物に来た忍と京子。

京子「さて、今日はなに食べる?」

忍「んー」

 思案顔。

忍「はっ」

 と魚売り場で何かに気がつく。

忍「京子!」「見てこれ!」

 と振り返る。忍が持った買い物カゴにお菓子を入れようとしていたのでビクッとなる京子。

京子「こ、これは……!」

 と衝撃。

■大

京子「サメの肉が売ってる……!」

 モウカザメのパッケージが並んでいる。


●9

忍「きれいなピンク色だね」

 と二人でパッケージを手に取って見る。

 横から鮮魚売場のおじさん谷が声をかける。

谷「モウカザメ、最近はよく入ってくるよ」「安いでしょ?」

京子「サメと人間はお互いに捕食しあう関係だったのか!」

谷「ヤなこと言う姉ちゃんだな……」

谷「モウカザメは脂のないカジキマグロみたいでおいしいよ」

京子「へえー!」

京子「忍、サメ食べてみようよ」

忍「おすすめの料理方法は?」

谷「クセがなくてアッサリしてるから煮付けとかフライにいいし、ステーキみたいに焼いてもいいね」

 フキダシに顔スタンプ。フィッシュアンドチップスのイメージ。

■小

谷「外国じゃレモンフィッシュっていうみたいだよ」

忍「さわやかな名前だ」


●10

■大

 家に帰ってきた二人。

京子「おなかすいた―」

忍「ごはん炊けてるからすぐに作るね」

忍{味噌汁は油揚げと乾燥ワカメ}

忍{油揚げは切る前にザルに入れて裏表に熱湯をかけて油抜きするんだけど}{急いでいるから油抜きは省略}

忍{切り開いた油揚げの袋の上で細切りに}{まな板を油で汚さないですむ小技}

 まな板の上に油揚げのパッケージを開いてその上で油揚げを細切りにしている。

忍{鍋の水が沸いたら顆粒の出汁と油揚げを入れて}

忍{また沸騰したら火をとめて味噌を溶き入れる}

 味噌を溶き入れている。

忍{食べる直前になったらもう一度軽く沸騰しないていどに温めて、その時乾燥ワカメを適量入れたらできあがり)


●11

忍{さて、未知の食材、モウカザメ}

 4枚の切り身を前に腕組みする忍。

忍{かんたんなのはステーキかな}

忍{切り身を軽く洗って、ペーパータオルで水気を拭き取る}

忍{両面に塩コショウを振る}{魚売り場の人が「しっかり味付けしたほうがいい」って言ってたっけ}

 まな板の上にキッチンペーパーを敷き、塩コショウした切り身。

忍{京子は嫌がるけどニンニク使おう……}

忍{薄くスライス}

 ニンニクを切る忍。切り身はボウルに退避。

忍{次にソースの準備}{白ワイン150mlとお醤油大さじ1を合わせておく}

 小さなボウルでワインと醤油をまぜたのを指についたのをちょっとナメて味見。

■小

忍「スッパニガ……」

 と舌を出す。以降、ちょっと顔赤く。


●12

忍{あとはマスタードソースも作っておこう}

忍{マヨネーズ2に粒マスタード1の割合でかき混ぜる}

 かきまぜる椀の中。

忍{レモン汁もちょっと入れよう}

忍{つけあわせに水菜を洗って切っておいて}

 水菜を切る。

忍{あと、しめじ}{これは根元を切ってバラす}

 バラしてザルに入れる。

忍{オリーブオイルをたっぷり、ニンニクのスライスをフライパンに投入してから弱火をつける}

(ぼっ)

忍{ニンニクの香りが少しでてきたら、モウカザメの切り身を入れて中火にする}

(じゅ~~)

 フライパンに投入される切り身。


●13

忍{1分くらい焼いてひっくり返してさらに1分}

忍{もう一回ひっくり返して焼き色がついていたら、白ワインと醤油を合わせたやつを半分だけかける}

 ひっくりかえした切り身の位置をヘラで調整しながら小さなボウルからソースをかける。

(じゅわーっ)

 と湯気が立つ。

忍{蓋をして3分くらい蒸し焼きにする}

 フライパンに蓋をする。一息ついたような忍。

忍{汁気がなくなったらできあがり}{水菜を敷いてその上に盛りつけ}

 とテーブルの皿の上切り身を盛りつける。

忍{仕上げのソース}{半分残しておいた白ワインと醤油を合わせたやつをフライパンで火にかけて、しめじを投入}

 再びフライパンでしめじを煮る。


●14

忍{お酒を飛ばすくらいに軽く煮たら、ステーキにかけて……}

 とまたフライパンを傾けてステーキにかける。

忍{最後に乾燥バジルを軽く振る}

(ぱっぱ)とバジルのビンを振る。

■大

<レモンフィッシュのステーキ>

<油揚げとワカメの味噌汁>


●15

■大

京子「お、本当にカジキマグロみたいだ」

 と口に入れて目を丸くして。

■大

忍「柔らかいしツナっぽさがある」

忍「これ、サメって言われなければわからないかも」

 ともぐもぐ。

京子「4枚の切り身が500gで500円だと、コストパフォーマンスは優秀だなー」

忍「鶏肉といい勝負だね」「大きいからたっぷり食べられる」

 箸でほぐされる切り身。

京子「醤油とワインのソースがきゅっとしてご飯すすむ~」


●16

京子「マスタードソースつけるとまた味が違っておいしいね~」

 マスタードソースをつける。

忍「元の味が淡泊だから、味付けでなんとでもなる」

 ともぐもぐ味わいながら考える。

忍「これお酒に合うかな?」「梨由子叔母さんが来たら作ってあげよう」

 食後。

京子「ほい、洗い物おわり~」

 と手を拭いて。

 奥の部屋。

 本を読んでた忍に飛びつく京子。

京子「メガシャーク!」

忍「わーっ!」


●17

 京子に手を甘噛みされる忍。

(あぐあぐ)

忍「やめてー! くすぐったっ……」

(あははっ)

 笑いながら。

忍「じゃあこっちはメカシャーク!」

 と笑いながら反撃で二の腕に甘噛みし返す。

(がぶがぶ)

京子「ひーひっひっ」

 忍の反撃にひっくりかえって笑い転げる京子。

京子「あーあ」

 とひとしきり二人でじゃれあったあと折り重なるようにぐったり寝転がってブレイク。


●18

 起き上がって。

京子「モウカザメがどんな奴なのか調べてみようよ」

京子「サメっていっても色々いるからね」

忍「おとなしくてちっさいやつなんじゃないの?」

 二人でパソコンをのぞきこんで。

■小

京子「画像検索…と」

■大

 驚く二人。口をおさえる忍。


●19

忍「すごい歯……モロにサメだね」

京子「全長3m……ジョーズのイメージまんまだよ」

忍「和名はネズミザメ……」「そんなかわいい感じじゃないけど」

 魚図鑑を引っ張り出してきてひらいて見ている。

京子「水揚げされてる写真がみんな血まみれなのが凶悪さに拍車をかけている……」

 スゲーという顔でちょっと興奮気味に画面をスクロールさせている。

忍「この「星」ってなんだろう?」

 とパソコン画面を指して。

京子「……あー、星ってモウカザメの心臓か」「希少部位で珍味だって」「先に星だけ取りだしてるからみんな血まみれなんだね」

 とパソコン画面を見ながらなるほどなるほどーみたいな。

京子「今度は星を食べてみたい!」

 と忍に。京子のあくなき探究心にちょっと目を丸くする忍。


●20

■小 のせゴマ

 翌朝。

ロングキスグッドナイト「サメを食べた?」

 驚く顔。

 登校途中で会った忍とロングキスグッドナイト。歩きながら。

ロングキスグッドナイト「すごいな! それって食物連鎖の頂点じゃん!」

 尊敬するように忍を見る。そんなたいそうな、と苦笑いの忍。

忍「駅前のスーパーで売ってたよ」

ロングキスグッドナイト「ホント?」

ロングキスグッドナイト「ウチでもサメ料理作ってもらおうっと」

 と決意して走り出す。

 忍も一緒に。

 京子の高校。朝の教室。4人。

セクシー「え? サメを?」

 と怪訝な顔で聞き返す。

クリ子「あんな映画見た後によく食べる気になったな」

 呆れる。

京子「メガシャークが襲ってきても逆に食ってやんよ!」

 と自分の胸を叩く。


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