第15話「コールドチキンとトロロ焼き」
コンテ
https://www.pixiv.net/artworks/87161482
(擬音・吹き出し外文字)
「セリフ」
{人物モノローグ}
<ナレーション・モノローグ・解説>
・モブの女子。
吉木
大場
西崎
・佐野先生
佐野史郎みたいな風貌の京子たちのクラスの担任教師。40歳。
生真面目で融通が利かなそうに見える。社会科教師。
音楽好きで元ギタリスト志望。
美人でしっかりした若い奥さんがいる。奥さんの頼み事に弱い。
冷たくて突き放した感じで生徒と接しているが、わりと面倒見がいい。
●2
■
クリ子「佐野センセー」
職員室。
自分の机に座っていた佐野、声に振り返る。
■
クリ子「いひひ」
クリ子「今日はつきあってよね」
クリ子、ニヤニヤしている。
■
佐野「わかった」「わかったからそういう言いかたやめなさい」
ちらっと周りの教師の目を気にする。
■
クリ子「あ、でも今日のHR長引くかもしんない」
佐野「ん? 文化祭の話し合いが?」
■
教室の前の廊下。女子が固まって話している。
●3
■
吉木「矢面に立ってもらって悪いけど、女子全員でバックアップするから」
とセクシーに。
セクシー「ん」
■
大場「男どもは?」
西崎「まだ気がついてないと思う」
ボウヤ「とっちめてやれセクシー」
■
佐野と一緒に職員室から戻ってきたクリ子、廊下の女子に気がつく。
クリ子「あれ? 決起集会?」
■
みんなクリ子と佐野を見る。「あ」とちょっとバツが悪いように。
京子「しっ」
とクリ子に。
佐野「?」
■
教室にぞろぞろ入ってくる女子と佐野。
■
(ざわざわ)
佐野「ホームルーム始めろ」
生真面目な雰囲気。
●4
■
黒板に「文化祭」「カフェ」「メニュー」と書かれている。
登壇して板書していたクラス委員・宮脇、振り返って、
宮脇「えー、それではメニューですが……」
■
セクシー「宮脇議長!」「その前に質問いいですか?」
と挙手。
■
宮脇「高木陽子君」
■
セクシー「二学期に入って以来、このホームルームで文化祭の当クラスの出し物については大揉めに揉めてきたことは誰もがご存知かと思います」
セクシー「議決の際、一票差の過半数で「カフェ」ということに決まりましたが、その内容、コンセプトはいまだ曖昧なままです」
■
セクシー「コンセプトも決めずいきなりメニューを選定するというのは順序がおかしいですね」
●5
■
宮脇「えー……、メニューも出し物の内容のうちかと思いますが、コンセプトはもう少し時間をかけてですねー」
セクシー「議長」「まだ質問が終わっていません」
■
宮脇「た、高木陽子君、どうぞ」
■
セクシー「そもそもコンセプトが曖昧なまま議決するという異例の事態ですが、文化祭実行委員の小田君の言によれば、今後実行委員会と連絡をとりつつ他のクラスと調整し、内容の重複を避けるという趣旨のご説明でした」「そうでしたね?」
■
小田「は、はい、その件につきましてはまだ調整中でして、他のクラスも決定が出揃っておらず……」
セクシー「はい、ありがとうございます結構です」「確認したことにだけお答えください」
■
セクシー「ところで議長、ワタクシの調査によると、女子の中に一人も「カフェ」に票を投じた者がおりませんでした」
(ざわ)
●6
■
セクシー「ワタクシの記憶では、男子からも「カフェ」以外に複数の案が提案されていたように思いますが」
ぎくッとする男子たち。
■
セクシー「つまりそれらの案には提案者の男子本人すら票を入れてなかったということですよね」
虫を見るような目で周りを見回すセクシー。
■
男子「なんだその調査は!」「そんなことしたら無記名投票の意味がないじゃないか!」
ぐっ、と狼狽えながら野次を飛ばす。
■
男子「どういうつもりだ!」「民主主義をバカにしているのか!」
(そうだそうだ)
セクシー「……」
冷ややかなセクシー。
女子「男子だまれ! 質問中だぞ!」
女子「議長、不正規発言をやめさせろ!」
■
宮脇「え、静粛に」
●7
■
セクシー「これが意味するところは、つまり男子全員が密かに共謀し」「一方で女子の票を分散させてまで確実に「カフェ」を通したかった」「そういう意図があるように考えられます」
男子「さっきからなに言ってんだ!」
■
男子「証拠があんのかよ」「質問しろよ、質問を!」
宮脇「高木陽子君、質問をどうぞ」
■
セクシー「コンセプトも不明な「カフェ」案になぜ男子は一致して投票したのでしょうか?」「不自然じゃないですか」
■
男子「コンセプトは後からついてくるんだよ!」
セクシー「質問はまだ終わっていません」
■
セクシー「ここにとある筋から入手した領収書と、既に実行委員会に提出済みのわれわれのクラスの予算書のコピーがあります」
■
小田「あっ」
■
宮脇「!」
●8
■
セクシー「領収書の宛名は「貫井高校1年A組」とあります。我々のクラスです」
セクシー「但し書きにご注目ください。「バニーガール衣装」とあります」
(ざわざわ)
■
セクシー「実行委員会に提出された予算書の衣装代と金額が一致してますが、これはどういうことでしょうか実行委員!?」
■
小田「……」
宮脇「おい、アレがなんであいつの手に……」
■
大場「宮脇議長! 小田委員と何を相談しているんですか!?」
吉木「実行委員に答えさせろ!」
■
宮脇「くっ」
宮脇「……文化祭実行委員、小田君」
■
佐野{バカだなー}{やるならもっと上手くやれよ}
●9
国会答弁画像
■
小田「……えー、わたくしの存じ上げない資料でございます」「記憶にございません」
セクシー「この予算書に小田委員のサインがあるじゃないですか!」
■
<追及は入れ代わり立ち代わり続き>
ボウヤ「買った衣装ってどこにあるんですか?」
宮脇「文化祭実行委員、小田君」
■
<密謀は暴露されたが、男子側はこれを認めようとせず>
モリモン「ウチら女子にその衣装を着せてバニーカフェやるって計画なんだろ!?」「ネタ上がってんだよ!」
宮脇「文化祭実行委員、小田君」
■
<対立は急速に深まっていった>
セクシー「曖昧なコンセプトでカフェ案を先に通し、予算でバニーの衣装買い、既成事実を作ってから「バニーカフェ」を押し通すつもりだったんですよね?」
クリ子「ふざけんな! 議長降りろ!」
■
セクシー「実行委員の協力なくしてこのような陰謀は不可能ですが首謀者はだれですか? 犯人の名前を言ってください」
■
京子{……}
居眠りしている京子。
●10
■
<議事録より>
○宮脇議長 ただいまの私の答弁は、本クラスのクラス委員として御答弁いたしたのであります。私は確信するのであります。
○高木議員 議長は興奮しない方がよろしい。別に興奮する必要はないじやないか。それとも責められて興奮しているのか。
(女子一同、嘲笑)
(宮脇議長「無礼なことを言うな」と呼ぶ)
何が無礼だ。
(宮脇議長「無礼じやないか」と呼ぶ)
質問しているのに何が無礼だ。君の言うことが無礼だ。文化祭情勢の見通しについて、生徒会長の言説を引用しないで、翻訳した言葉を述べずに、本クラスのクラス委員として答弁しなさいということが何が無礼だ。答弁できないのか、君は……。
(宮脇議長「バカヤロー」と呼ぶ)
何がバカヤローだ。バカヤローとは何事だ。議員をつかまえて、クラスメイトをつかまえて、バカヤローとは何事だ。取消しなさい。
■
宮脇「解散だ! 今日のHRは解散!」
半泣き、苦しそうに宣言する。脂汗。
<後の世に言う「A組HRバカヤロー解散」である>
■
国会の強行採決とそれを阻止する野党のように男子と女子がもみ合いになっている。
女子「ごまかすな!」「議長を帰すな!」
●11
■
<空転するHR>
教室ではなく、大揉めに揉める国会みたいなところで乱闘寸前になっている男子と女子。
<HR解散の宣言後も遅くまで追求は続いた>
■
<男子側の釈明は「仮装カフェである」とのことであったが、女子側はこれに納得せず──>
宮脇を取り囲んでる5人ほどの女子。一方小田も取り囲まれている。
わーわー言い合っている。
■
<明朝のHRまでに納得のいく回答が得られないのなら実力行使もじさない構えを見せた>
なぜか街中に出動する戦車隊を歩道から見ている親子連れやサラリーマン。パト2の治安出動っぽく。シルエットでイメージっぽく。
■
<一方男子側はケチな策を弄した負い目から尻込みする者が続出、強硬対決の意志統一ができないでいた……>
ドイツ参謀本部っぽいところで将軍のかっこうで押し黙る宮脇たち。ベルリン陥落寸前風。
●12
■大
京子「まったくしょうもない」
と暗くなった道を下校している。
京子「めちゃくちゃはらへった」
■
家の台所。
忍が冷蔵庫からワインを取り出す。
忍{料理酒切れていたけど梨由子おばさんが飲み残した白ワインがあった……}
■
忍{鍋に8カップ水、鶏胸肉2枚、白ワイン大さじ8、塩小さじ4を入れて沸騰させる}
●13
■
忍{沸騰させて5分くらいしたら弱火にしてさらに5分煮る}
■
忍{火をとめてそのまま余熱で火を通す}
忍{あとはそのまま冷まさせる}
■
忍{水菜をしいてその上に盛りつけよう}
■
忍{一つは冷蔵庫のチルド室に入れて明日食べよう}
■
京子、帰ってくる。
京子「ただいまー」
■
忍「遅かったね」
京子「んもー、文化祭のことでクラス中揉めちゃって大変」
■
忍「すぐごはんにするよ」
京子「あー」
とイスに座ってテーブルに突っ伏す。
●14
■
忍{味噌汁は長ネギとワカメにして、と}
■
忍{山芋を一本すりおろして}
■
忍{卵を一つ、めんつゆ少々入れてかき混ぜる}
■
忍{普通はこれでトロロとしてご飯にかけたりして食べるんだけど……}
忍{ゴマ油をしいたフライパンを火にかけて、これを小さいかたまりにして中火で焼く}
■
忍{ハンバーグとかお好み焼きとかホットケーキの要領だね}
忍{ふっくらしてきた}
●15
■
忍「できました」
<ごはん>
<長ネギとワカメの味噌汁>
<トロロ焼き>
<コールドチキン>
■
二人「いただきまーす」
箸を伸ばすふたり。
●16
■
京子「これなに?」「パン?」
■
忍「トロロを焼いてみました」
と口に運ぶ。
京子「忍の発明料理?」
■
京子「うわ」「ふわふわだ!」
忍「お好み焼きの小麦粉とキャベツ抜きみたいな感じになった」
■
京子「ホットケーキみたい!」
忍「ソース……わさび醤油もいいかな」
■
切り分けられたコールドチキンを箸でつまむ。
■
口に入れる京子。
●17
■
肉をしっかり噛みしめる京子。
京子「コールドチキンてシンプルで安く作れるけど、すごくごちそう感あるよね」
■
忍「塩で下味がついているからそのままでもいけるけど、塩コショウ振ってもいいし、わさびとかマスタードでもいける」
京子「ポン酢、ゴマダレでもいいね!」
忍「まだもう一つ冷やしているから朝食べよう」
■
忍「文化祭って大変なの?」
京子「……ウチのクラスの問題は文化祭の問題ではないような」
忍「?」
■
忍「僕ね、京子の学校の文化祭に行くの楽しみなんだ」
京子「そう?」
■
忍「早く高校生になって僕も文化祭を用意する側になりたいな」
京子「そうだね。自分でお祭り用意するのって楽しみかも」
■
京子{忍のような純粋さで楽しみたいものだ}
と肉をかみしめる。
●18
■
<翌朝、女子側は一斉蜂起し>
女子のデモ隊が突破して、倒れたり逃げたりしている男子がつかまったり囲まれたりしている。
<男子側はなすすべもなく蹂躙された>
■
(買い込んだ衣装はどこだー!)
とか女子に詰問されている宮脇。
喧噪をよそに自分の机で眺めている佐野のところに佐々木が来て頼み込んでいる。
佐々木「佐野先生、ここはひとつ先生の御威光でこの混乱を治めていただきたく──」
■
佐野「俺はタイの王様じゃないんだが」
シラケている。
佐々木「学級担任といえば教室の王様じゃないですかー」
泣き笑い。
■
佐野「今どき学級王国とかそういうのなあ」
佐野「俺はアレだ、生徒の自主性を尊重して監督しているだけだから」「仮に王様だとしてもホラ、「君臨すれども統治せず」って中学の世界史で習わなかったか?」
とため息交じりに。
佐々木「そこ試験範囲じゃなかったと思うんで」
■
肩を組んでラ・マルセイエーズを歌い始める女子たち。
(Aux armes, citoyens,
Formez vos bataillons,
Marchons, marchons !
Qu'un sang impur
Abreuve nos sillons !)
佐々木「でもこのままでは革命に巻き込まれて文化祭どころでは」
●19
■
<結局、宮脇議長の回答に納得しなかった女子側は──>
佐野「ギロチンにかけられるわけじゃなし」「お前らがしくじったんだから腹をくくれよ」
と突き放す。
<──HRを実力で解体し、A組文化祭臨時革命HRの樹立を宣言した>
■
<後の世にいう悪名高い「文化祭革命」──>
文化大革命っぽいイメージ。
<──すなわち「文革」である>
■
吉木「A組文化祭革命臨時HRは民主的な議会でありますが、男子に一切の発言権はありません」
(嵐のように長く長く続く拍手)
(パチパチパチパチパチ)
■
吉木「卑劣な陰謀により、既に実行委員会へ提出された予算書は撤回できないことが明らかとなりました」
板書。「カフェ続行やむなし」と書かれている。
吉木「次善策として前向きに「カフェ」案を検討していきたいと思います」
■
大場「えー、ではメニューからコンセプトを探るという方向でよろしいですね?」
吉木「メニューの案を出してください」
書記役で板書していく。
■A
顔を見合わせるてうなずく京子、セクシー、ボウヤ、クリ子。
大場「挙手をどうぞ」
●20
■B
セクシー「クレープ!」
クリ子「サバサンド!」
ボウヤ「ドーナッツ!」
京子「おこめちゃんおにぎり!」
と挙手して同時に。
■A
えっ、と意外そうにお互いの顔を見る4人。
■
大場「え、ごめん」「一人一人お願い」
とまどう。
■A
ムッとけん制するようにお互いの顔を見合う京子、セクシー、ボウヤ、クリ子。
■B
セクシー「クレープ!」
クリ子「サバサンド!」
ボウヤ「ドーナッツ!」
京子「おこめちゃんおにぎり!」
と再び挙手して同時に。さっきよりお互い張りあうように。
■
<「文革」の混乱は始まったばかりであった……>
口々に発言して混乱する教室。うつむいて押し黙る男子。
女子「お好み焼き!」
女子「焼きそば!」
女子「チュロス!」
女子「ワッフル!」
女子「あんみつ!」
女子「かき氷!」
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