第12話「モヤシペペロンチーノ/etc.」

コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87160418


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>




●1

 扉

 タイトル


●2

 京子の夢。

 さめざめと泣いている忍。

忍「しくしく……」

 それに気がつく京子。

京子「どうしたの忍?」

 と、顔を覗き込んで。

■大

忍「お金がなくって食べるものが買えないよ」

 流れる涙を拭いながら。妙に色っぽい。

忍「ひもじいよー」

 哀れっぽく。

京子「それは切ないねー」

 と同情する。

忍「京子のせいじゃないか!」

 と京子に向いてかわいく怒る。

忍「僕が働いても働いても京子がお菓子やゲームを買うから……」

 びっくりする京子。


●3

忍「うっ、ううっ」

 とまた泣き出す。

京子「ごめんごめん」「でも忍だってゲームやるじゃん」

 と申し訳なさそうに苦笑い。

忍「もうこうなったら僕がこの知らないおじさんに援助してもらうしかないよ」

 と忍の隣に顔が見えない中年のやらしそうなおじさんが立っている。

京子「援助?」「なんで知らないおじさんが援助してくれんの?」

 と、え、なんの冗談? と軽く笑いながらもちょっと不安げに。

■大

知らないおじさん「さあ、キミ、この知らないおじさんが援助してあげよう」

 といつのまにか女の子のかっこうした忍の肩を抱く。

忍「お願いします」

 と覚悟したように視線を落としながら、でもこれから何をされるのか知っている淫靡さも含んだ表情。

京子「あれ? 忍って女の子だっけ?」

 と忍を見て少し混乱する。

京子「あ、ちょっとちょっと、忍、知らないおじさんとどこ行くの? まってよ!」

 と肩を抱かれて京子を振り返る忍に。

忍「京子、僕のこと嫌いにならないでね……」

 と哀しそうに微笑む忍。なんかエロい。

■小

京子「忍! あたしが悪かったから、だからあたしが代わりに……っ」

 遠く小さくなっていく忍と知らないおじさん。追いすがる京子。

■小

京子「まって!」

 手を伸ばすが届かない。

 暗転。


●4

■大

 日曜の夕方、家の6畳間で寝ている京子。

京子「うーん……」

 うなされている。ざぶとんを枕にして、タンクトップに短パンとか薄着で。

京子「わはっ」

 がばっと起きる京子。

京子{……}

 ぐるっとまわりを見て夢だと気が付く京子。

 時計、18時すぎ。

京子「……もう夕方か」

京子「忍……」

 と台所のほうに顔を向ける。

 台所に立つ忍。

忍{みそ150gにみりん2分の1カップをあわせて……}

 とボウルに菜箸でかき混ぜている。


●5

忍{長ネギはみじん切り}

 包丁でネギを切る。

忍{それから顆粒の昆布ダシの素を4分の1カップの水で溶いておいて、と}

 忍の後を寝ぼけまなこで京子が覗き込みながら通る。トイレに行く京子。忍は気にもしない。

忍{フライパンにごま油を熱して、長ネギを炒める}

(じゃー)

 木ベラで炒める。

忍{香りが立ったら、みそとみりんをあわせたのを入れてよく練る}

(じゅわー)

 トイレから出てくる京子。

(ジャー)

(ばたん)

京子{なんか変な夢だったな……}

 まだぼんやりしながらも思い出して少し顔を赤らめる。

忍{水分が飛んだら顆粒の昆布出しを溶いた水を入れてさらに練る}

(じゅわわー)

京子「なに作ってるの?」

忍「ネギ味噌」


●6

忍{とろみがついてきたら醤油をまわしかけてできあがり}

 と木ベラでフライパンからかき集めるように小鉢に移す。

京子「いい匂いだねー」

忍「上手にできた!」

 と木ベラを舐めて笑う。

忍「これで晩御飯に一品ふやせたね」

(ぴんぽーん)

 と誰か来る。

京子「あたし出るね」

 玄関口。夕方だとわかる日差しとか。

配達「着払いですね。8200円」

 と通販の配達。京子が美少女なのでちょっと目を見張る。

京子「通販のおこめちゃんの寝袋が来た」

 と無邪気に段ボールを受け取る。

配達{……いい}

 と顔を赤らめて驚異の眼差しで京子の胸を見ている。

京子「あれ? ちょ、ちょっと待ってください」

 と自分の財布の中を覗き込んで少し慌てる。

配達{……いい}

 と京子の尻と脚を見て顔を赤らめる。

京子「まっ、待ってくださいねー」

 と慌てて家の財布を取りに台所のほうへバタバタと。


●7

京子「あー、ありましたありました」「ははは」

 となぜか焦りつつ家の財布を見ながらお金を配達員に出す。

京子「はいこれでちょうどー」

 そっちをあまり気にしていない忍、ネギ味噌の小鉢にラップを張っている。

 冷蔵庫を開けて見ている京子。

京子「……梅干ししかない」

忍「え?」

 と振り返る。

京子「冷蔵庫の野菜室が空なんだけど?」

 と冷蔵庫の野菜室を引き出してみている。

忍「今日、セールだからって昨日全部さらって食べちゃったじゃない」

 と普通に。

京子「他に食べ物は?」

 とだんだん焦りが表情に出てくる。

忍「うーん、パスタも切れてたっけ。乾燥ワカメとネギの残りがあるよ」

 と冷蔵庫にネギ味噌の小鉢を入れながら。

 京子、あちゃーという顔で天を仰ぐ。


●8

忍「どうしたの? 買い物ならこれから行くし、まだ──」

 と京子に言いかけるのをさえぎるようにかぶせて、

京子「いま通販であたしの財布にお金がなくて家のお財布からお金を借りました……」

 とおこめちゃん寝袋を見せながら。

京子(これ買った)

忍「うん、ちゃんと返してよね」

忍{またしょうもないもん買って…}

 と思いながら。

京子「わかってるよ、でもね」

京子「お金まだあると思っておろしてなかったから家のお財布にも13円しか残ってない」

 と早口で。

忍「えっ」

忍「じゃあお金おろさないと」

京子「いまからだとATM手数料がかかる」

忍「あっ!」


●9

忍「梨由子オバさんが家計簿チェックしたとき、銀行の引き出しでATM手数料引かれてたら「1トチり」にカウントする、って言ってたよね?」

 と不安そうに。

 こくり、とうなずく京子

<忍と京子が二人暮らしをすることを叔母の梨由子が許した際、ふたりに課した条件──>

 怖い笑顔で梨由子が指をポキポキ鳴らしているイメージ。

<──それは生活するうえでなにか一つ失敗する毎に「1トチり」とカウントし、カウントが限度を超えたときは二人暮らしを打ち切るということであった>

京子「もし梨由子オバさんと暮らすことになったら、きっと毎日ピリピリして怖いよ」

 震える京子。

忍「僕だってヤダよ」

 同じく忍。

忍「えーとつまり」

 と状況を整理しようと考える。


●10

忍「晩御飯はこれから作るけど冷蔵庫はカラ」

京子「ひもじい」

 掛け合い。

忍「現金はないけど、銀行からはおろせない」

京子「オバさんが怖い」

忍「ということは、あるものでなんとかするしかないよね」

忍「幸いなことにさっき作ったネギ味噌があります」「梅干しもある」「これで白いごはんを食べよう」

 米びつを覗き込む忍と京子。

 なんかこの辺で京子のサービスカット的な。

忍「お米さえあればごはんはなんとでもなるから大丈夫!」

 と励ますように拳を握る。

京子「おこめちゃんはたのもしい」

 とお米ちゃん寝袋を持ち上げる。

忍「ネギの残りと乾燥ワカメでお味噌汁もできるし」

京子「完全にネギ味噌がかぶってるよ……」

忍「しょうがないでしょ」

 ネギ半分と乾燥ワカメのパッケージを持つ忍。

京子「あー、なんで通販でこんなもん買っちゃったんだろうーっ?」

 とお米ちゃん寝袋にすっぽり入って顔だけ出して立つ。

忍「本当だよ、まったく」

 呆れる。


●11

京子「なんかすごく貧乏みたいだ……」

 とお米ちゃん寝袋から脚を抜いて、くすん、みたいな顔。

京子{さっきのは正夢?}

京子{あたしがしっかりしないと忍が知らないおじさんに……}

 悲しそうに憐れむように忍を見る。

忍「?」

 京子の視線に邪まなものを感じてやや怪訝な顔。

京子「せめてなんかオカズが一品欲しい」「あ、ニンニクも2片あった」「ベーコンもちょっとだけ残ってる」

 と再び冷蔵庫を開けて。お尻突き出してのぞいている京子。

忍「ウチはわりと調味料は充実しているから食材さえあればなんとかできるような……」

京子「忍、お小遣いいくら残ってる?」

 調味料が並んでいる棚。

忍「……70円あるけど」

 と財布を開けて、目をあげて少し恨めしそうに京子を見る。


●12

 スーパー。野菜コーナー。

■大

 露出度高い部屋着のままで買い物カゴ持つ京子。いやそうな忍。あいかわらず京子に男たちの視線が集まっている。

忍「京子、もうちょっとちゃんとした服着てよー……」

京子「貧乏だからおしゃれは自粛中だよ」

 といいつつ何かめぼしいものを探す。

忍(そういうことでなくてですね……)

 バナナ88円の値札。

(ぴかー)

 うっ、というように大げさにまぶしそうに値札から顔をそらす京子。

京子「いつもなら安いバナナなのに、手が届かない…!」

京子「貧乏を思い知らされる買い物って辛い」

忍「でも今夜だけのことだし。ウチは全然貧乏じゃないよ」

 と励ますように。


●13

京子「ううっ、もし本当に貧乏になったらって考えたら憂鬱になってきた」

 と凹む。

忍「もし貧乏になっても僕がなんとかするよ!」

 とまかせてと言うように自分の胸に手を当てる。

京子「ねえ、お願いだから忍!」

 と真剣な顔でバっと忍の両方の二の腕を掴んで。びっくりする忍。

京子「あたし、これからちゃんとする!」「だから貧乏になっても知らないおじさんに援助されないで!」

 大真面目に。

忍「援助?」

 と、わけがわからないというように。

忍「あ、見て見て、モヤシが安いよ」

忍「5袋だって余裕で買えるね」

 と京子を振り向きながら駆け寄る。

 モヤシ1袋15円セールの札。

京子「そんな無駄遣いできない!」「2袋でいいよ!」

 と恐る恐るモヤシを二袋カゴに入れる。

忍「……」

 なに言ってんだって呆れ顔。



●14

 再び家の台所。

京子「海苔とカツブシのパックがあった」

 と流しの上の収納を開けて取り出す。

 流しでは忍がモヤシを洗っている。

 食卓の上にボウルを置いて腕まくりする京子。

京子「ネギ味噌以外にもフリカケ的なものを作ろう」

 ボウルに材料を入れて菜箸でかき混ぜる。

京子「カツブシ2パックにゴマ油大さじ1と醤油小さじ1をまぜて」

京子「これでゴマおかか出来上がり」

 と小鉢に入れる。

京子「他のバリエーション作ってみるか」

京子「今度はカツブシ2パックに種を取った梅干し3個、醤油小さじ1みりん小さじ1」

 と梅干しのタネを手で取りながらボウルに入れる。ボウルまわりに醤油のボトル、みりんのビン、計量スプーンなど。

 ペロっと味見して。

京子「ん!」「ん!」「いいね!」

 とひとりうなずく。


●15

京子「よーし調子出てきたぞ」「もう1パックいくか」

 とニコニコしながらカツオ節のパックを開ける。

「カツブシ1パックにマヨネーズ大さじ1、いや1.5!」「醤油は3滴くらい!」

 とイシシシと笑ってる顔。

京子「これで三種類のおかかができたぞ」

京子「ふふふ」

 とボウルと菜箸でかき混ぜている京子。

 その背後で味噌汁を作っている忍。

忍{味噌汁は刻んだ長ネギと水で戻した乾燥ワカメでいいとして}

忍{ごはんが炊けた}

 炊飯器の電子アラームがピーピー鳴っているほうをチラッと見る。

忍{メインディッシュはモヤシ}

忍{フライパンにオリーブオイルをたっぷり}

忍{みじん切りのニンニク2片と、小口切りのホール鷹の爪を少々投入してから弱火をつける}

 フライパンで炒める。


●16

忍{焦がさないように注意して香りが出るまで炒める}

京子「炒めものならあたしのシュバルツシュメルツ貸そうか?」

 と忍がフライパンを使っている後ろから中華鍋を持ち上げて指さす。

忍「え、もっと早く言ってよ……」「ケホっ、ケホっ!」

 と振り返りながらフライパンから立ち上る香りに咳き込む。

京子「クシュっ」

 とクシャミ。

京子「…なっ、なにこれ、辛っ……」

忍「鷹の爪炒めるとなにかが出るんだよ……ケホッ」

忍{めげずに1センチ幅に切ったベーコンを入れて炒める}

忍{さらに水けをきったモヤシを入れて塩コショウして手早くよく混ぜてサッと炒める」

 ベーコンとモヤシを炒めながら塩コショウする。

忍{あんまり炒めすぎると食感が損なわれるので、強火で短くね……}

 と皿に取る。



●17

忍・京子「いただきまーす」

■大

<モヤシペペロンチーノ>

<ネギ味噌>

<おかか三種(ゴマ、梅、マヨ)>

<長ネギとワカメのお味噌汁>

<白いごはん>


●18

 モヤシを取る京子と忍の箸。

 モヤシをシャグシャグ食べる京子。

京子「あ、ペペロンチーノの味だー」

 と頬に手を当てる。

京子「シャキシャキしておいしい!」

忍「我ながらいいデキです」

京子「ごはんにおかかとかネギ味噌のせて海苔で食べるとおにぎりみたいだね」

 ネギ味噌が乗った白いごはん。

 それを箸を使って切り海苔で巻くようにして口に運ぶ京子。

忍「いっそおにぎりにすれば良かったかもね」


●19

京子「握るのがめんどくさいし一緒に食べちゃえば同じだよ」

 ニコニコしながらもぐもぐ食べている。

忍「このおかか冷奴にのせてもおいしいかも」

 おかかを口に運ぶ忍。

京子「ネギ味噌は白いごはんにあうねー」「これほんのちょっとだけでごはん1膳軽く食べられちゃう」

 とおいしさに震えるようにイヤイヤするように首を振る。

京子「お金がなくてもおいしいものは作れるねー」

 とご飯のおかわりをつぐ。

忍「もうおかわり4杯目だよ」

 と呆れながら味噌汁をすする。

(ずぞ)


●20

京子「もし将来あたしたちが貧乏になっても、こういうつましい食事で生きて行こう」

 と目を伏せておかかごはんを口に運ぶ。

忍「僕がいっぱい稼いで京子にもっとちゃんとおいしいもの食べさせるよ」

京子「……忍は何して稼ぐつもりなの?」

 とチラッと目をあげて忍の顔を見る。

忍「うーんと、社会に役立つ……、誰か人を喜ばせるようなことかな?」

 と上を見て考える。

京子「知らないおじさんはダメだよ!」

 と真面目な厳しい顔で。

忍「はあ?」

忍(知らないおじさんなんか知らないよ……)

 意味が分からない忍。


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