第7話「牛肉丼と中華スープとマッシュ里芋」


コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87158814


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>





●岸哲也 京子の小学校から中学までの友達。神木隆之介風。映画好き。京子が好きで告白しそびれた。


●矢野伸吾 岸の高校の友達。チャラい。狩野英孝風とか。京子のツンとした様子を見て、ムラムラくる。わりとヨコシマ。



●1

 イオン的な大きなショッピングセンター。

■ぶちぬき

 忍と京子が歩いてる。

 京子はよそ行きの顔。ちょっとツンとしつつ遠くを見ている。

 タイトル。

 前から歩いてきてすれ違う若い男たちが京子をじっと見てる。

 それを目で追う忍。

忍<京子はその外見でけっこう人の目を惹く>

 前を通り過ぎる京子を見る、休憩のイスに腰掛けるおじさんの目。

 ちょっと面白くなさそうな忍。

忍<僕はそれが、ちょっとイヤだ>


●2

 チャラい高校生男子・矢野、友達の岸がトイレに行ってるあいだ待っていて、ケータイを見ている。

 矢野の前で京子(と忍)が立ち止まりどっちに行くか相談している、それに何気なく顔を上げる。

 京子、ツンとしている

矢野{うお、かわいい}

 と目を見張って乗り出す。

 クールに遠くを見ている猫のような京子の目。

矢野{ヤバい、すごくいい}

 と発情している。


●3

 京子の半開きの唇。

矢野「存在がエロいっつーか」

 京子の胸。

矢野「くう~、タマんねえな」

矢野「身体柔らかそう」

 京子のスカートからのびる脚。視点がいちいちやらしい。

矢野「こういうコとつきあえたら楽しいだろうなー」

矢野「……けど、ぜってーオトコいるだろうなー」

 と腕組みして目で京子を追っている。

岸「おう、おまたせ」

 とハンカチで手を拭きながらトイレから戻ってくる。

矢野「お前の地元ちょうかわいいコいんじゃん」

 と岸に。

岸「まじ? どこ?」

 と見回す。

矢野「あれ? さっきそこに」

 と京子を見失ってキョロキョロする。

岸「はらへったな」

 あまり関心なさそうに。


●4

京子「なんかすごくおなかすいた~」

京子「暗転堂でパン買って食べない?」

 と目をつぶって自分のおなかをさわって弱ったようなフリ。

忍「すぐ晩御飯だよ。我慢して」

 とすまし顔でカゴを持って先を行く。

忍「今日は僕がごちそう作るんだから」

 と振り返って京子を見て。

京子「ねー」

京子「ちゃんと晩御飯も食べるからさあ」「忍だっておなかすいてるでしょ?」

 と甘えるように。

忍「だーめ」

 とそっけない。

忍「うーんと、すぐ作れるものでごちそうっぽく……」

忍「やっぱりお肉かな」

■ 

 レジに並ぶ行列。

忍「うわ、並んでるな……」

 と行列を見て。

京子「レジの向こうで待ってるね」

 と指さしながら回り込むべく忍から離れる。


●5

 レジを済ませた岸と矢野。

 飲料コーナーで買った500ミリリットルのペットボトル飲料をシール貼ってもらっただけで持っている。

岸「飲み物はこっちが安いだろ?」

 とそこへぶらぶらと京子がやってくる。よそ行きの顔。

 それに気が付く矢野。

矢野「おい、さっきのかわいい子だ!」

 矢野が見てる方へ振り向く岸。

岸「えっ、あれ?」

岸「市川……」

 と声をかけるでもなくもらす。会う心構えができてなかったので狼狽えている?

 とそれに気が付く京子。よそ行きの顔。

京子「あ、岸くんだ」

矢野「え、知ってんの?」

 と岸に。

岸「ひ、久しぶり」

 と近づいてきた京子にバツわるそうに目を泳がせて。

矢野「なんだよ。知り合いなのかよ、紹介しろよ!」

岸「いや、お、おな中なんだよ」

 と矢野に。

京子「ん? 岸くんの高校の友達?」

 と矢野を見て。

岸「あ、ああ、こいつ矢野ってんだ」

矢野「へへ、ちーっす」

 と軽薄な感じで。


 ↑みたいな感じでなんかしゃべってる3人。サイレント。

 遠くの行列からそれを見ている忍。

忍{……京子の友達?}

京子「しのぶー」

 とレジの向こうから手を振る京子。


京子「フードコートで待ってるから」

 と大きなジェスチャーでフードコートの方をゆびさして。



●6

 フードコート。ショッピングセンター内のパン屋(暗転堂)の近く、軽食の売店とマクドナルドが併設されている。自由に座れるテーブル席がいっぱい。

 テーブル席に座っている京子、岸、矢野。岸と矢野はてきとうにペットボトル飲料に口をつける。

京子「中学の卒業式以来だねー」

岸「そ、そうだね」

岸{告ろうとして、失敗して、それっきりだった……}

 うつむきかげんで目を合わせにくそうに。

矢野「あ、オレ、食い物てきとうに買ってくるわ」

 と京子にニコニコして立ち上がる。気前のいいとこ見せて点稼ぎのつもり。

矢野{つか、もっとギャルギャルしてビッチな感じかと思ったら、わりと人当りいいな}

 と後に残した二人をちらっと振り返りながら。想像と違ったのでちょっと意外そうに。

 岸と京子、二人だけ無言の間。

岸「あ」

岸「あの、ゴメ…」「おれ、お葬式行けなくて……」

 といきなり謝りだす岸。

 目を丸くする京子。

京子「んーん! いいのいいのー!」

 と両手の平を見せて振って苦笑。

岸「いきなりで、両親ともって聞いたけど……、た、大変だったよな」

 と顔色をうかがうように深刻な顔。

京子「そんな顔しないでよー、もう大丈夫だって」

 という会話をフランクフルトとたこ焼きを買ってきた矢野が聞いている。

矢野{……}


●7


矢野「たこ焼き買ってきたよー」

 とチャラい笑顔で。

矢野「つまんでつまんでー」

 と京子のイスの背もたれに手をかけて横からすり寄るように。

京子「あ、ありがと」

 と軽いノリにとまどう。

岸「家、引っ越したんだろ?」 

 と矢野を無視して。

京子「うん」

京子「近所のアパートだけどね」「弟と二人暮らし」

岸「二人で? 弟って、まだ小学生だっけ」

 二人暮らしと聞いて驚く。

矢野「えっ! それじゃあ寂しくね?」

 とかぶせ気味に話に割り込んでくる。

矢野「俺、京子ちゃんち遊びに行くよ。行っていい?」

 と横から食いつく。

 ちょっとのけぞる京子。

京子{……}

 と、矢野のノリに少しヒキぎみ。

岸「お前なあ……!」

 とたしなめようとする。

矢野「まーまー、ほら、京子ちゃん、このフランクひとくち食べていいよ!」

 と手にした串刺しのフランクフルトを突きつける。エロい絵面。

京子「え」

(ぐー)


●8


京子「うっ……」

 と腹が鳴るタイミングにおどろいて腹をおさえて赤面。

矢野「ほーら、おなかすいてんじゃん!」

 笑う矢野。

矢野「あーんして!」

 突きつけられた棒つきのフランクフルトを見つめる京子。ちょっとムッとして。

京子{ひとくち? なめんなよ}

忍{京子、どこだろ……?}

 とレジを済ませてフードコートでキョロキョロ探している。

 フランクフルトを岸にあーんさせられそうな京子を見つける忍。

■小

京子「あー」

 と口を開けて、

■大

京子「んっ」

 とフランクフルトのほとんどを口の中に入れて食いつく。髪をかき上げながらフェラっぽい絵面。


●9

矢野・岸「うっ」

 フェラっぽい絵面に驚いて赤面する二人。

 固まる忍。

 ぎゅっと買い物袋を握り直す忍の手。

京子「んぐんぐ」

 とひょっとこフェラっぽく串からフランクフルトを引っこ抜く京子。

京子「んんっ」

 と頬張って飲み下し。

(もぐもぐ)(ごくん)

京子「ひとくちはひとくちだもんねっ」

 と舌なめずりして挑発するようなドヤ顔で矢野に。

矢野「いやー、やるねえ」

矢野{意外とチョロいかも……}

 とヘラヘラ嬉しそう。

 赤面して圧倒される岸。


●10

忍「京子!」

 ドキッとする京子の背中。

矢野「ん? なんだ?」

 と忍を見て。

忍「なんでそんなの食べてるの」

 と悲しそうに。


京子「ん……?」

 と、しまったという顔で口元をおさえる。

 矢野、岸とコソコソ話す。

矢野「え? 弟?」

 岸うなずく。

忍「帰ろうよ」

 と、京子にすがるような目で。捨てられた子犬のように。

京子「う、うん」

 その様子にちょっと驚きながら慌てて立ち上がる。

矢野「えー、行っちゃうの? ラインのID登録してよー」

 とヘラヘラと。


 忍についていくように立ち去る京子。

矢野「いいなあ、京子ちゃん」

 と見送って。

矢野「最っ高にシコいな!」

 と岸に。

岸「お前色々と最悪だ」

 とせっかくの再会を台無しにされて半泣きで怒る。


●11

 すたすた歩く忍。京子に捨てられたような哀しそうな顔。

 後から京子が追いかけるようについて来る。

 前を制服のカップルがイチャイチャしながら歩いているのを目にする忍。

京子「……ねー、なにそんなに怒ってんの?」

 と後から忍に声をかける。

忍「……さっきの誰?」

 忍の小さな背中。

京子「え、中学の時の友達と、もう一人はよく知らない」

忍「もうすぐ晩御飯なのに知らない人から食べ物もらってさ……」

 京子、目をぱちくり。


●12

京子「なーに、しのぶぅー、ヤキモチかあー?」

 うれしそうに忍の顔を覗き込む。

京子「あたしがあんたのごはん残したことなんかないでしょ?」

京子「ちゃーんとその分のおなかをとってあるんだから」

 と自分のおなかをさする。

京子「あんくらいじゃ、ちーっとも足りないよ」

(ぐー)

 と絶妙なタイミングで京子のおなかが鳴る。

■同

 二人とも目をまるくする。

京子「ホラ、きいたあ?」

 破顔する京子。

忍「ぷっ」「あははっ」

 こらえきれず笑い出す忍。


●13

 アパート外観。夜。

 家の台所。

京子「手伝うことある?」

 エプロンをした二人。

忍「まずマッシュ里芋」

 と里芋と手にする。

忍「里芋をきれいに洗って」

 京子、ドロを水で洗い落してザルに入れていく。

忍「串がすっと通るくらいまでしっかり中まで柔らかく茹でる」

 手鍋で里芋を皮ごと茹でる忍。串で里芋をつつく。

忍「つぶしやすい熱いうちに皮を剥いて──」

 あちち、とツルンと皮を剥いてボールに入れる京子。

忍「──スリコギでつぶして仕上げに細かく刻んだ柚子の皮を散らしてできあがり」

 スリコギでつぶす京子。


●14

忍「つぎは中華スープ」

忍「塩わかめを水で戻して塩抜き」

忍「良く絞って切る」

 塩わかめをボールに入れる京子。

忍「チンゲンサイは葉と根元に切り分けて、葉はザク切り、根元はタテ半分に切る」

 まな板の上でチンゲンサイを切る忍。

忍「卵は溶いておいて」

(かっかっかっか)

 ボウルと菜箸で卵を溶く京子。

京子「はいはい。まぜる係」

忍「鍋に水2カップに顆粒の中華スープの素を大さじ1杯、チンゲンサイの根本を入れてひと煮立ち」

 チンゲンサイの根本を手鍋に入れる忍。

忍「大さじ半分の片栗粉と水大さじ1杯で水溶き片栗粉を作っておいて──」

 お椀で水溶き片栗粉を溶く京子。

京子「はい片栗粉まぜ係ね」


●15

忍「──しょうゆ小さじ半分とチンゲンサイの葉の部分を入れて、水溶き片栗粉を投入」

 材料を手鍋に入れる忍。

忍「煮立ってとろみがついたら溶き卵を回し入れて、コショウ、ワカメを入れて、仕上げにゴマ油をほんのちょっと」

 コショウする忍。

忍「ん、いいかんじ」

 と小皿にとって味見。

忍「牛肉丼のお肉、どのくらい食べる?」

京子「はい! ありったけ!」

 と右手を高々と上げて左手で右腋を隠す。

忍「じゃあ400g」

 とスルーしてパックを破く。


●16

忍「牛肉はひとくちで食べやすい幅に切って、大さじ2杯半の小麦粉を薄くまぶす」

忍「小麦粉をまぶして煮ると食感が柔らかくなるんだよね」

 切った牛肉がボウルの中で小麦粉にまぶされる。

忍「鍋に水1カップ半、みりん大さじ2杯半としょうゆ大さじ2杯半を入れて中火」

 手鍋を火にかける。

忍「グツグツしてきたところに牛肉を入れる」

 鍋に牛肉を入れている忍の背後を、京子がうろうろする。

忍「肉に火が通って味がからんできたら火を止める」

 慌ててどんぶりにご飯を盛る京子。

京子「ごはんつぐ係」

忍「ごはんを盛った丼に牛肉をタレごとのっけて……」

 と菜箸で牛肉をのせる。京子が次のどんぶりを差し出している。

忍「粉山椒をふってと……」


●17

忍「はい、できました」


<牛肉丼>

<中華スープ>

<マッシュ里芋>

京子「おおー、ごちそうだねー」

京子「いただきまーす」

忍「はい、どうぞ」

京子「うん、さすがいいお肉!」


●18

忍「足りる? おかわりあるよ」

 頬張りながらこくこくと首を縦に振る京子。

京子「おっ、マッシュ里芋、柚子が香る」

京子「香りが入るだけで別の食べ物みたいだね」

忍<京子がごはん食べているところを見るのが好きだ>

 大きく口を開けて肉を口に運ぶ京子。

忍<とくに僕が作ったごはんを食べているところが>

京子「んー幸せ!」

 と左手で頬をおさえて幸せそう。


 就寝時間。フトンを敷いた居間。

忍「おやすみ」

 と電気を消す。

 布団に入る忍。


●19

忍「!」

 布団にもぐった忍、背後にもぞもぞ何か動いてる。

京子「今夜は忍を抱いて寝るよ」

 と後から忍を抱きしめて耳元でささやく。

忍「ひゃっ」

 と、びくんっとなる。

京子「んふふ」

 好色そうに笑う。

忍「ちょっ、くすぐったいよお」

 とくすぐったそうに身をよじる。

京子「あーっ、おっぱいさわった。忍のエッチ」

 と、わざと意地悪に咎めるように。

忍「ちがっ…」

京子「ええい、観念しろい」「姉の力にかなうと思うてか」

 と布団の中でごそごそする二人。

忍{気まぐれにいじくられる猫ってきっとこんな気分だ……}

 もうぐったりして。

京子「すんすん」

京子「忍は柔らかくていい匂いがするねえ」


●20

京子「なんかこうしてると安心するんだ」

 と囁きながら穏やかな京子の顔。

京子「だから、ね」「忍も安心して」

 囁きをきいている忍。

京子「あたし、どこにも行かない」「ずーっと忍といっしょだよ」

 忍の耳元でささやく京子の唇。

京子「この世でたった二人の家族じゃないか」

 涙の粒が不意にこぼれる。

 その言葉に救われたような忍の顔。

忍「……うん」

 二人がもぐりこんだフトン。

 更けゆく夜。

忍「うん……、そうだね」


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