第3話「ほったらかしシチュー」

↓コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/87157671


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>



・コヤジュン

子安純子。

23歳。職業新任女教師。忍の担任。

いつもジャージ。草薙素子みたいな髪型。かわいい系? ムダにビッチ顔というかクチビルポッテリとかスケベボクロとか、誤解されやすい感じ。身長158センチくらい。わりとボイン。

教育の理想に燃えるが現場はいつも彼女に立ちはだかる。がんばるがどこかヌケてる。

漫画が違えば、不良グループに性奴隷にされる展開になりそうな。

生徒には優しく親しみをもって接するスタンスを取りつつなめられまいとするが、完全になめられている。

むしろ忍にフォローされている。

田舎の親に仕送りしているので生活は切り詰めている。彼氏はいないらしい。

イジメはダメ絶対。とくに自分に対して。


・ゆみみ

榎本由実美(えのもとゆみみ)

忍の同級生。友達。少し内気で集団が苦手。

二つ結びにしてる。よく笑う良い子。

風呂なし廊下トイレ共同アパートに母と兄(19歳ニート)と住んでいる。

元球児の兄の影響でロッテファン。ものを大事にする。

幸薄系。

清潔感あるのに貧乏がにじみ出てしまうが、健気さが勝っている。


・ロングキスグッドナイト

星野朱里(ほしのあかり)

忍の同級生。友達。グイグイ攻めてくる気の強い美少女。

背が高い(150センチ)。足が速い。サッカーがクラスで一番上手い。ケンカ強い。

ショートカット。忍の保護者きどり。遠慮しないでモノを言う。正義感強い。かわいいものが好きで、かわいくなりたいと思っている。見た感じ忍と並ぶと初心者向けショタホモカップル(見た目女の子に見えるショタ同士)。

昔上級生につけられたあだ名がすっかり定着している。


・中津

忍の同級生。ホビーもののライバルキャラっぽく。



●季節

12月頭なので冬着で。



●1

 扉

●2

 高野台小の昼休み。校舎と時計12時40分。わーわーと校庭で遊んでる生徒の歓声。

<かつて高野台小で>

 教室の隅で机を二つくっつけてカードゲームをやっている忍たちを数人が囲んで見ている。

忍「「月の輪熊」を召喚!」

<トレカゲーム「スリキン(ルビ・スリーキングダムス)」最強を誇り>

<「黄金姫(ルビ・プリンセスゴールド)」と呼ばれた京子を姉に持つ忍>

 対戦している忍と中津、横で観戦しているロングキスグッドナイトとゆみみ、他何人か男子。

忍「スペル「猛火の勢い」! このターン召喚したクリーチャーは攻撃できる」

 とカードを手札から場に出す。

中津「あっ!」

 しまった、その手があったのか、みたいな顔。

忍「「月の輪熊」で本体を攻撃!」

 少年漫画ホビー物みたいな決めゴマ。

<京子に鍛えられ、そのノウハウとカードコレクションを引き継いだ忍は──>


●3

中津「ライフゼロ……」

中津「負けた~」

 がっくりする中津。

男子たち「すげー!」「忍の「野生の王国デッキ」強いなー」「6年にも勝てるんじゃね?」

<──クラスの男子たちの中では断トツの強さを誇り>

<「小覇王(ルビ・ヤングチャンピオン)」の別名で認められていた>


<だが男子のそんな評価とは無関係に>

ロングキスグッドナイト{忍は笑うとかわいいな。笑わなくてもかわいいけど}

ロングキスグッドナイト{忍みたいにかわいくなりたいな}

ゆみみ{忍くん、女の子の服を着せたら似合うかも……}

 忍をじっと見る女子二人。

<一部の早熟なクラスの女子たちの頭の中ではオモチャにされていた>


 教卓の近くでその様子を見ている担任教師・子安。

子安{市川君、もともと大人びた子だったけど}

子安{ご両親が亡くなってまだそんなに経ってないのに落ち着いてる……}

 と、忍を観察している。

子安{だけど見た目はしっかりしているようでまだ子供なんだから}

 ロングキスグッドナイトが男子を押しのけて忍に対戦を挑む。男子たちが順番守れと抗議している。

子安{さりげなく様子を聞いたり、たまに家庭訪問したり}

 忍と対戦して、思うようにできないロングキスグッドナイト、イライラしながらカードを出している。苦笑いしてる忍。

子安{他の生徒にわからないようにそっとケアを……}


●4

<彼らの担任、新任教師・子安純子は>

<生徒たちと上手くやっているつもりであったが──>

子安「市川君、市川君」

 と手招き。

忍「なんですか」

 とゲームを中断して抜けて教卓の方へテトテトやってくる。

子安「放課後になったら校長室に来てくれる?」

 と耳打ち。

忍「?」

 えっ、と不安そうな顔。

子安「大丈夫、お説教じゃないから」

 笑いながら教室を出て行く子安を見送る忍。

忍{なんだろ?}

 それを見ている他の生徒たち。

<──ごく一部の女子は>

<その「上手くやってるつもり」を>

ロングキスグッドナイト{コヤジュン※、なんかっていうと忍にかまうよなー}

 と、子安を睨むように見ている。

<色々と敏感に感じとってしまっていた>

※コヤジュン:子安純子の略。

<世代を超越した女同士の抗争の火種はくすぶり>

 廊下を立ち去る子安の後ろ姿。

<子安純子の学級運営の前には暗雲が立ち込めていた……(東映実録路線調)>


●5

 放課後の校長室。

忍「失礼しまーす」

(ガラガラ)と戸を開けて入ってくる。

忍「……あれ、子安先生だけ? 校長先生は?」

 とソファから立ち上がって手招きする子安を見て。

子安「あ、ちがうの、この部屋使わせてもらってるだけだから」

子安「こっちきて座って座って」

子安「さて」

(こほん)

 と二人掛けのソファに座った忍の隣に座る。

忍{なんで隣に座るんだろ……?}

 と、じゃっかん反射的に身体をそらそうとする。うっ、みたいな軽い警戒。

<学生時代の銀座バイト経験で身についた振舞いが>

<うっかり出てしまうコヤジュン(23)であった>

子安「最近、なにか困ったこととかない?」

(↑さりげなく聞いているつもり)

 と何気ない笑顔を装って。

忍「んん?」

忍「……とくにないですけど?」

 と考え込む。

子安「ごはん、ちゃんと食べてる?」


●6

子安「偏食してない?」

子安「ここ最近なに食べた?」

 と母性をにじませつつ、うん? うん? みたいに畳みかけて聞き出そうとする。

忍「えーと、昨日はヒラヒラカレーを作りました。おとといは鶏のスッパ煮して、その前はギョウザ包んだし、ブロッコリーと牛肉炒めた奴と、それからー……」

 と指折り数え始める。

 子安、おおっ、と気圧される。フキダシに圧迫されるみたいな。

子安「えっ、それ外食じゃなくて市川君が作って……」

 と軽く驚きながら。

忍「うん」

忍「あ、でも京子と交代で」

子安「京子ってお姉さん?」

子安「そ、そうだ、二人暮らしだと怖いこととかない? いままで危ないことなかった?」

子安「お姉さんまだ高校生なのよね?」

忍「え、京子?」 

 このコマ、大きめに、一見、小学生にエロ教師が迫ってるかのような絵面に誤解させるとか。

 


●7

忍「うーん……あぶないこと……」

 と、ハッとして。

忍「……あ、え、えと…」

忍「あの、大丈夫です、僕が責任もって姉を見てますから!」

 と子安の目を見て安心を訴える。家庭裁判所で息子を庇う母親のように。

 えっと目を丸くする子安。

忍「こないだサギ捕まえようとしたけどちゃんと僕がとめました!」

 このコマ大き目に。忍を女の子っぽいかわいさで!

子安「詐欺っ?」

 とぎょっと驚く。

忍「うん、サギ。川に降りて追っかけようとしたんだけど…」

子安「それっ、被害はなかったのっ? ちゃんと警察に通報した!?」

 泣きそうな顔で心配しつつ厳しく追及。

忍「?」

 えっ、と今度は忍のほうが呆気にとられる。


●8

 ちょっと時間経過。誤解が解けて。

(あはは)

子安「あー、そういうことねー」

子安「先生びっくりしちゃった」

 とやっと腑に落ちて笑っている。

 忍も笑ってる。

忍「あははは」

忍(詐欺とサギって……サギなのに……)

 ツボにはまって大受けで笑っている忍。

子安(そんなにバカウケか……)

子安{けど、どういうお姉さんなのかな?}

子安{お葬式のときとか家庭訪問したときはしっかりしているように見えたけど……}

 と内心、首をひねる。

子安「あ、それでね」

 と気を取り直して忍を見る。

子安「些細なことでもなんでもいいの」

子安「なんか最近あったできごととかをこれからは先生に教えてくれない?」

 と、文房具屋の紙袋からガサガサとなにかを取り出す。見ている忍。

子安「だから」

子安「これ」

 とかわいい交換日記用のノートを差し出す。

子安「先生と交換日記しよう」

子安「他の子にはナイショね」

 邪気のない笑顔。


●9

 話が終わって校長室から教室へ。

 学校の廊下を歩いている忍。もう夕方。

忍{これはきっと、心配されているということだな}

 無表情。

 階段の踊り場。降りている。

忍{まあ、いいけど}

 忍が目をやると階段の踊場の窓から校庭が見える。

忍{けど、毎日なに書けばいいのかなあ……}

 校庭でサッカーをしている友達。

忍{……子安先生}{さっきまで別に困ったことなかったけど}{困ったことができました}

 教室。

 (ガラガラ)と戸を開けて忍がカバンを取りに戻ってくると、まだトレーディングカードゲームをやってる、ゆみみ、ロングキスグッドナイト。

忍「あれ、ゆみみちゃんとロングキスグッドナイト、まだいたの」

ロングキスグッドナイト「コヤジュンに叱られてたの?」

 と忍の顔をよく見ようとする。

忍「ちがうよ」

 とカバンをとりながら。

忍「みんな校庭でサッカーやってるけど行かないの?」

 と何気なく校庭を指す。


●10

ロングキスグッドナイト「ゆみみと二人でお前を待ってたんだよ!」

 とムッとして立ち上がる。あわててゆみみがロングキスグッドナイトをおさえるようなしぐさ。

忍「?」

忍「先にサッカーやってればよかったのに」

 え、なんで?みたいにきょとんと。

ロングキスグッドナイト「だってお前が叱られてるのかもしれないと思って……」

(ごにょごにょ)

 と困ったように頬を赤くして。

忍{あ、心配してたのか……}

 と苦笑い。

ゆみみ「待ってるあいだ、忍くんの「野生の王国デッキ」の対策を」「ロングキスグッドナイトと考えてたんだ」

 ととりなすように。

ロングキスグッドナイト「そ、そうだよ!」

ロングキスグッドナイト「お前のデッキは「象」とか「猿の大群」とか一番弱い「野火」のスペルみたいなのしか入ってないのに」「わたしの「エンシェントダークドラゴンナイト」や「聖堂暗黒魔術院総帥ウンタルシュライバー」が負けるのはおかしい!」

 と渡りに船とまくし立てる。背後にカードのイメージ。

忍「重いレアカードをデッキに入れすぎじゃないかな?」

ロングキスグッドナイト「だって弱いカード入れたくないもん」

 と口をとんがらかせて。

忍「うんと、でもまず1ターン目で出せるカードを……」

 と、ロングキスグッドナイトのカードをめくりながら見る。


●11

 その後。

 陽が暮れ始めて、サッカー終わって、だいたい解散になった頃。

 校庭でリフティングしているロングキスグッドナイト。

 以降、トリッキーな技を色々見せつづける。

 見ている忍とゆみみ。

https://www.youtube.com/watch?v=wMsyuRFXajw

https://www.youtube.com/watch?v=Ea-ml-WUkqI

忍「前にさ、ロングキスグッドナイトって日記つけてるって言ってなかった?」

 と思い出したように。

ロングキスグットナイト「え? うん、わたし毎日つけてるよ」

 と返事しながらもリフティングは続ける。

ロングキスグッドナイト{そんなこと憶えててくれてたんだ……}

 とちょっと嬉しそう。にしし、みたいな笑い方。

忍「なに書いているの」

ロングキスグッドナイト「ふつうにその日あった楽しかったことを書いてるよ」


●12

忍「楽しいことがなかったら?」

ゆみみ「悲しいことがあったら?」

 素朴な疑問を投げる二人。

ロングキスグッドナイト「そんなことあっても書かないし」「なんか楽しかったことがんばって見つけて書くよ」「一行でもね!」

 とクルクル回転するボールを持ち上げたくるぶしに乗せてリフテインングをフィニッシュ。

ゆみみ「そっかー」

 と感心する。

ロングキスグッドナイト「ゆみみは?」

 とボールをポンとゆみみに蹴る。

ゆみみ「うちのお兄ちゃんがブログ書いてるよ」

 とボールを受け止めて。

ゆみみ「毎日アニメの感想、っていうか悪口書いてる」

忍「あー、そういうのもあるのか」

 と感心する。

ロングキスグッドナイトとゆみみ「?」

ロングキスグッドナイト(帰ろうぜ)


●13

 その晩。

 家の台所に立つ忍。

忍{今日は寒いからシチューにしよう}

忍{まずニンジン1本。3センチくらいの長さに切って、さらに縦に4つ割り}

忍{玉ねぎ1個。縦半分に切ってから繊維にそって薄切り}

忍{白菜は4分の1だけ使おう。さらに芯をとって横に4等分}

 と材料を切ってる忍。

忍{豚バラ肉に塩コショウして、下茹で}

 と、手鍋で豚バラを茹でる。

忍{豚肉の表面の色が変わるまで茹でて取り出す}

忍{茹でたお湯は捨てちゃう}

 とボウルに菜箸で取る。

忍{なんと!}{ここまでやったらあとはもうほとんどすることはナシ!}

 と、びっくりしたポーズみたいに手のひらを見せておどろきの表情。

忍{僕たちのお父さんが教えてくれた「ほったらかしシチュー」}(僕たちの=傍点)

忍{水は8カップ=1.6リットルにブイヨン5つ}{野菜と下茹でした豚肉を入れてふたをして強火にかける}

 と材料を入れた大鍋に、ブイヨンキューブを剥いて放り込む。

忍{煮立ったら弱めの中火にして15分くらいほったらかし}

 とすまし顔で居間に入ってくる。

京子「あれ? 料理は?」

 コタツで本を読んでる京子。


●14

忍「大丈夫。もう火にかけるだけだから」

 とカードをコタツの上に広げだす。

京子「スリキン? 相手しよっか?」

京子「久しぶりにアタシの「カウンターのカウンターのさらにカウンターデッキ」でギタンギタンにしてやんよ」

 と黄金姫のイメージになって忍を挑発する。

忍「あんな陰険で邪悪なデッキ、永遠に封印しておきなさい」

 と大人の対応でノーセンキューのポーズ。

忍「ちがうんだよ、友達が強いカードばかりでデッキ組もうとするから全然勝てなくてさ」

忍「だから僕がその友達の手持ちのカードでよく回るデッキにして」「だけど本人が好きな強いカードのコンボも入れて組んであげようかなって……」

京子「ふーん、じゃあ一緒に考えてあげよっか」

 と二人でカードを広げて見だす。

 時間経過。コタツの中の二人の脚。

(あーでもない こーでもない)

京子「カウンター入れたら……」

忍「それだと相性が……」

京子「……手っ取り早く「黒レンコン」を4枚入れるのは?」

 とめんどくさそうに。

忍「それ京子が生まれる前の、リアルに古の伝説級制限カードでしょ」

忍「真面目に考えてよ」

京子「アタシ4枚持ってるもん。おとうさんの遺産」

 とフフフと笑う。

忍「ただの自慢じゃないか」

忍「……あっ、鍋見なきゃっ!」

 と時計を見る。


●15

 再び台所に立つ。

忍{まあ、このシチューはほったらかしてひたすら煮ていれば柔らかくて美味しくなるから大丈夫だけど……}

 と鍋をオタマでかきまわして。

忍{マカロニを150グラムザラザラっと入れて、マカロニが柔らかくなるまで煮る}

忍{味を見て、塩コショウで整える}


京子「今日は何かな?」

忍「お父さんが教えてくれた料理です」

京子「お父さんってどっちの?」

忍「当然、僕たちのお父さんだよ」(僕たちの=傍点)

<ほったらかしシチュー>

京子「おっ、シチュー!」

京子「これお父さんよく作ったよね」

 どんぶりにレンゲ。


●16

京子と忍「いただきまーす」

 レンゲを使ってふーふーさます京子の口元。クチビル。

京子(はひはひ)

 だらしなく口開けて舌を出してこぼしそうになりながら熱がる京子。

京子「んまー」

 以降二人とも頬上気させて汗かきはじめる。

忍「熱いからよく冷まして。ヤケドするよ」

京子「よく煮た野菜がドロドロに溶けて、甘味が出てる」

 熱さに涙目になりながら、おいしそうにレンゲを口に入れてしゃぶる。

京子「マカロニいっぱいでうれしいなー」


●17

忍「味に飽きたらマスタードで変化つけてね」

 と小皿に取ったマスタードを小さじでとる。

京子「この「味はお好みで」ってとこがいかにも男の料理っぽい」

京子「「ほったらかしシチュー」は味付けもほったらかしだね」

忍「だからかな」

 と思いつくように。

忍「僕、お父さんの料理から味付けに興味持ったんだよね」

忍(あちち)

京子「そうだ柚子コショウ試そう」

 と冷蔵庫を開ける。

忍「柚子コショウは試すまでもないね」

忍「何にでも合う。というか全部柚子コショウが勝っちゃう」


京子「ところでさ」

京子「あんた、さっきから「友達」「友達」ってそのデッキ考えてあげてる子の名前を言わないけど」

 クチビルをすぼめてマカロニをくわえながら。ちゅるん。

京子(汗かいてきた)

京子「女の子でしょ?」

 チラっと意地悪そうに見る。

忍「なんでわかったの?」

 感心するように。別にギクッとかしない。

京子「その子のこと好きなの?」

京子(ん~~?)

 んひひ、といたずらっぽく笑いながら乗り出す。

忍「ちっ、ちがうよ!」

忍「ロ、ロングキスグッドナイトは女の子だけど、仲のいい友達だよ!」

 と不意をつかれて慌てる。


●18

京子「ろんぐきすぐっど……??」

京子「その子、外国人なの?」

 といぶかしむ。

京子(はあ?)

忍「ロングキスグッドナイトはあだ名だよ」

京子「そのアホみたいに長いあだ名の由来は……?」

京子「てゆうか略称無いの?」

 と呆れる。

忍「知らないよ。みんなずっとそう呼んでる」

忍「京子の友達だって「なんでそんなあだ名?」っての多いじゃないか」

京子「どんな子なの?」

忍「背は僕より高くて、サッカーがクラスで一番上手くて、脚だって速いし」

忍「それでね、それでね、毎日かかさず日記つけてて、楽しかったことしか書かないんだって」

忍「毎日ってすごいよね」

 と嬉しそうに話す。

京子「ふーん」

京子{やっぱロングキちゃん※のこと好きなんじゃね……?}

京子「アタシだって毎日かかさずごはん食べてるもんね」

 ちょっとツンとして。

 ※京子なりのロングキスグッドナイトの略称。

 忍、言われて、食べる手を止めて、気がついたように目を丸くする。

忍(あっ)


●19

 食後。居間。

 勉強机に向かって座り、交換日記を書く忍の顔。モヤモヤ解消してスッキリ。

忍{……そうだ}

忍{毎日の献立のこと書けばいいんだ}

忍{そしたら書くことに困らないや}

 と鼻歌まじり。

京子「?」

 こたつで宿題している京子が顔をあげて忍を見る。


<そして──>

 翌日の職員室。自分の机に座った子安。

子安{うんうん…!}

 と満足げにうなずきながら交換日記を読んでいる。

子安{市川君の作るごはん、読んでるだけでおいしそうですね! 作り方教えてください。……と}

 と交換日記に書きこんでいる。

 教室でプリントと重ねて一緒にこっそり交換日記を忍に渡す子安。

 ナイショね、と目配せ。

 焦る忍。怪しんで見るロングキスグッドナイト。


●20

<──交換日記は無事軌道に乗ったが……>

 時間の経過をあらわすコマ。日めくりカレンダー的な。

 ぺら、ぺら、とめくられる交換日記のページ。間からお互いの文章の応酬が見える。

忍のコメントの文末(ブタ肉をしたゆでするとアクとりしないでカンタンです。子安先生も作ってみてくださいね。)

それに返してる子安のコメント(先生は昨日はコンビニでおソバとおにぎりを買ってきて食べました。みんなのテストの採点が大変なので自分でごはん作る時間がなかなかとれなくて……。)


 職員室の机に座っていて交換日記を読み返している子安。

子安{あれ?}

 ハッと気がつく。

子安{なんか、いつのまにかお互いが食べたものを報告しあうノートになっちゃったな……}

子安{あっ!!}

忍のコメントの文末(子安先生のごはん、炭水化物ばっかりですね。先生はいそがしくてたいへんだと思いますが、野菜もとってバランスのいい食事をしないとたおれちゃうと思います。しんぱいです。からだを大事にしてください。)

子安{普段から自炊もせずロクなものを食べてないことがバレて、ついに私の食生活のほうが注意されてしまった!}

子安{田舎のお母さん、教師になって毎日が教えられることばかりです……}

 遠くを見る。


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