第32話「技くらべ 7・ノイン」

 1回戦が終わり、2回戦に勝ち残った者は、ノイン・サトコ仙人・毛堅仙人・フィーアの4名である。


【2回戦・準決勝】

 第1試合


ノイン VS サトコ仙人


 リング上でノインが黒いマントをヒラヒラとなびかせ、体をクネクネとくねらせ踊っている。


「あれは、中近東のダンスだな。ノインちゃん、いい体をしとるの〜クネクネと観客へのサービスもたまらん。わしが戦いたいわ」

「サトコはノインに勝てますかな?」

 酒を飲みながら、真蔵仙人が久米仙人に話す。

「真蔵仙人は神通力を使えば先までわかるんじゃろう?」

「まぁ、そうですが、それじゃー面白くないでしょう」

「そうじゃのう……サトコちゃんは耳がいい。早耳はやみみは、もはや通力から神通力にまで行っているじゃろうな。おそらくダーク・マターの秘密にも気づくと思うぞ」


 黒いマントに黒いミニスカートのノイン。対して白い和服に赤いハカマの巫女スタイルのサトコ、リング上でにらみ合っている。


 ゴングが鳴ると、ノインの身体が“パチパチ”と放電して赤い火花が全身を包んだと思ったら姿が消えてサトコの前に表れた。

 赤い息をサトコに吹きつける。

 赤い息は麻酔のように体の動きを鈍くさせる。

「お前も毒で倒してやる!」

 ノインの両手がサトコの首を押さえた。指先から管が出てサトコの首に刺さる。


「ヤバい! 体がシビレる、神経毒だ! これは倒れる……」

 サトコがマットに倒れた。

 馬乗りになるノイン。

「きゃはははははっ! サトコちゃん。お胸をもみましょうね。それ、もみもみもみもみ♫」

 ノインはサトコの首に入れた毒で勝利を確信してサトコの胸をもんで遊んでいる。


「あれは、オッパイを大きくする行じゃな」

 久米仙人が食い入るように見ながら言う。

「オッパイを大きくする行ですか!?」

「おや、真蔵仙人は知らないのかな?」

「ええ、私は知らないですよ……」


「成長期の娘はオッパイをもむと大きくなるんじゃ。もっとも、ホルモンのバランスを取らないといけないので、上半身と下半身の行をして、お風呂の中でオッパイをもむんじゃがな……」

「そういう行は、ぜんぜん知らないです」

 真蔵仙人は美容に関する導引は知らないようだ。


「美容の導引を覚えると、飲み屋に行くとお姉ちゃんにもてるぞ」

「そうですか……」

「美顔術とかいいぞ」

「それは、どんなものです?」

「ただの顔の行じゃよ、手で顔をなでるやつ。頭蓋骨って穴が空いているじゃろ、小さいやつ」

「血管が通る穴ですか?」

「そう、そう。あの穴。目の上と下にあるじゃろう。あれを優しくもむようにすると目元の血行が良くなり綺麗な目になる。なんて言うと、お姉ちゃんが喜んでやるんじゃ」


「本当に効くんですか?」

「どうじゃろうな〜 他にホルモンを出す首を横に曲げる行とか……おっ、サトコちゃんの反撃だ!」


「一身分体の術!」

 分体が三体出てノインを持ち上げた。


「まさか、毒が効いて動けないはずだろ!?」

 通常ならば、ノインの毒でまだ動けないのだが、金丹を持つサトコの解毒スピードは速かった。


 三体の分体はノインをリングの外に落とそうとしている。

「魔族魔法、『赤い霧』」

 マントから赤いけむりが出ると分体が溶けていく。

(はっはっはっは〜このマントがあれば、ダーク・マターの力で無敵だ! バカな仙人には負けん)

 三体の分体を溶かし得意になるノイン。

 後ろにサトコがいた。


「そう言うことなんだ」

 振り向いたノインのマントの留め金を外し、素早くマントを脱がせると、マントをリングの外に落とした。


「なんてことをするんだ!」

 驚くノイン。

「このマントが無いとダーク・マターは使えないんでしょう?」

「……なんでわかった!?」


「あんたが教えてくれたよ」


「……心を読んだのか!?」

 逆上したノインはサトコの髪をつかみ頭突きをする。

「痛い、痛い、痛い……」

 サトコの髪の毛が抜ける。

 

 ひるんだサトコに向かい、ノインはお辞儀をするように頭を下げた。ノインとサトコの距離は約2メートル。

 ノインの肩まである髪の毛がサトコに向かい逆立ち矢のように無数に飛んだ! しかし、半分以上はサトコの後ろの観客席に向かった。

 リングの外には沢山の観客がイスに座り酒を呑みながら戦いを楽しんでいる。


 ノインの髪の毛は、観客の手前で全て止まった。レフリーの刻仙人は縮時しゅくじの術で時間を止めたのだ。ノインの体には毒袋があり毒を溜めておける。髪の毛の先にも当然、毒は付いている。


「リングの外に髪の毛を飛ばしたのでノインの反則負け!」


 刻仙人はサトコの手を上げている。

 サトコはノインの矢のような髪の毛が刺さりハリネズミのようになっている。

「大丈夫か? 解毒薬をもらいに行ってこい」

 刻仙人がサトコを支えている。


「大丈夫、大丈夫」

 そう言うとノインの髪の毛がバラバラと全て床に落ちた。

「とっさに分体を出してカバーしたから刺さってないの」


「お前、仙術の修得が異様に早いな」

 刻仙人があきれている。

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