第14話「絶体に回すなよ!」

 サトコは練丹法れんたんほうにはまっていた。


 フーーッ、フーーッ……

 なんだか、お腹が暖かくなってきた。気が練れてきたのかな?


『ぜんぜんダメじゃ!』

真蔵しんぞう仙人!?」


 今は夕方、サトコは自分の部屋で練丹法を練習していた。


「本当にいる。やっぱり夢じゃないんだ」

『わしは、仙界に住んでおる。お嬢ちゃんの世界とは別の世界じゃ。たまにこっちの世界に遊びに来るのじゃ』


「それは、あの世ってやつですか?」


『それは死後の世界じゃ。わしのは仙人界で、ぜんぜん違う』

「そうですか……死後の世界はあるんだ」

『いろんな世界があるぞ』

「そっか、死んで終わりじゃないんだ」

『終わりの奴もいる。お嬢ちゃんもあきらめて自殺なんかしたら、それで終わりじゃろうな、魂が消されてしまう』

「あ〜っ、ダメか、自殺も考えてるんだ……来世があるなら頑張るか!?」


『せっかく、仙縁があるんだから仙術をマスターしたらどうじゃ? お前の呼吸は、まだまだ単調で力の加減が出来てない』


「呼吸のしかたは臍下丹田せいかたんでんに強く入れるだけじゃないんですか?」

『練丹は煮物を作るようにするのじゃ。お前のやり方では黒こげだ』


「どうやればいいのでしょう?」

『まず、鍋に具(気)と水(意識)を入れて強火(呼吸)じゃ。水が沸騰したら弱火にして煮込むのじゃ』


「それは、最初は強く呼吸して、お腹があたたまったら呼吸を弱くすると言うことですか?」

『そうだ。呼吸と意識の力を調整するのじゃ』

「その気をどうすればいいのでしょう?」


『臍下丹田に熱が発生したら、呼吸と意識で丹(薬)を練るのじゃ。丹が安定して大きくなると、それを還丹かんたんと言う、そうすると全身にまわせるのじゃが、その前に気の通路をつくらねばならん』


「けっこう大変ですね」


『当たり前じゃ! 小周天しょうしゅうてんが簡単にできるか! いいか、気が動きだしても絶体に動かすなよ。気の通路は背中から頭、腹と一方通行じゃ。途中で詰まったら取れなくなるぞ。お前は気の通路がまだできてない。やれば詰まるぞ! 頭で詰まれば精神に異常がでるからな』


「そんな危ないものなんですか……」


『当然じゃ! よく仙術書を読んで我流でやる奴がいるが、師についてやらないと病気になったり精神異常を起こすんじゃ。気を回すには導引で気血の流れをスムーズにしておかなければならない』

「はい、わかりました」

『本当にわかっておるのか? 車を走らせたはいいが、一方通行で行き止まりになるようなもんだぞ、しかも気はバックができない。上級の仙人ならできるが、お嬢ちゃんには無理じゃ』


『いいか、絶体に回すなよ!』


「…………」サトコはうなずくが返事はしない。


 あっ、また消えた!


 気がだいぶ固まって、少し動くんだよな~

背中から頭に回すのか……

 背中くらいまでなら行けそうな気がするんだけどな~

 バックできないのか……

 危ないから止めておくか……


 練丹は止めてテレビを見るサトコ。 

 呼吸を浅くして弱火で煮込むように……


 テレビを見ながら浅い呼吸で練丹をしている。

 ゆれている。これなら動くな……

 ちょっとだけなら動かしても大丈夫かな?


 あっ、やばい! 動いちゃった!!

 腰の方に行った、どうしょう? 戻すか……

 戻らないよ! バックはできないというのは本当だ。

 まずいな、背中に昇っていく。止められないの? 肩甲骨でひっかかった。これ、頭に行ってひっかかったら、あたしは精神異常者になるの? 半身不随で精神異常者は辛いな、しかも自殺したら魂が消滅か、魂が残れば次の人生もあるのか?!


 あっ、やばい! また動き出した。もう首まで来ている。どうする? 

「真蔵仙人様!! いませんか? 助けてください」

 いないか? 仁蔵に電話するか……


 サトコは仁蔵に電話をしようと思った時、すでに還丹となった気は頭に入ってしまった。サトコの頭は脳卒中の後遺症で流れが悪くなっている。案の定、頭の中でひっかかった。


 体が動かない、意識も遠のく、これは死んじゃうかな?


「ただいま」

 サトミが帰って来た。

 部屋の奥でバタバタと音がしている。


「お姉ちゃん? 何かしてるの? 開けるよ……」

 サトミがサトコの部屋を開けると、サトコが倒れて痙攣けいれんしていた。右の手足がピクピクしている。意識はなさそうだ。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

 サトミがサトコのほおを手で叩くが意識がない。

「大変だ! また脳卒中!? 救急車を呼ばなくちゃ!」

 救急車って何番だっけ? 99? 110……

 え〜と、117か!?

「今日の天気は……」違う!

 119か!?

「はい、火事ですか救急ですか」

「火事か……ちがう」

 サトミが受話器を置こうとした時、

「救急ですか?」

「救急? そう! 救急! あねが、姉が倒れているんです!」


 救急車が来てサトコは病院に運ばれて行った……

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