第13話「さする」

 『仙術の会』に来ているサトコとサトミ。


「先生、このあいだ夢を見たの」

 サトコは車椅子に乗って仁蔵に話しかけている。サトミが車椅子を押している。 


「夢?」

「たぶん夢なんだけど、すげーリアルだった。真蔵しんぞう仙人があたしに練丹れんたんの術を教えてくれたの」

「レンタン……練炭? 自殺なんて考えないでくれよ」


「違うよ! 臍下丹田せいかたんでんに気を集中させるんだよ」


練丹術れんたんじゅつか? あれは難しいんだぞ」

「あっ、それ言ってた。仁蔵じんぞうは練丹が下手だって」

「…………」ちょっとムッとする仁蔵。


「あ、でもね、ドーインってのは上手だって言ってたよ」

導引どういんのことか?」

「何のことか、わかんないけどね」


「導引って知名度が低いので普段、体操とか技とか言ってごまかしているんだけど、よく知っているね」

「いや、知らないけど真蔵仙人が言ってた」


「真蔵仙人ね……」

 ひょっとしたら、あれか? でもサトコくんが知ってるはずないし。でも導引も教えてないのに知ってたな……


「三日月流の初代が真蔵しんぞうなんだ、弓の名手で殿様から『三日月のようなみごとな弓だ、そなた、これから三日月と名乗れ』と言われたのが三日月家の始まりなんだ」

「それだ! 弓を持っていた! あたしのお腹に矢が刺さったもん」


「本当? サトミちゃんも見た?」

 サトミは首をふっている。

「お姉ちゃん、寝ぼけてたよ」


「やっぱり夢かな?」

 サトコは確かに見たと思っていたが、やはり夢なのかと思い始めた。


「練丹も知っているのは変だけどね、仙人には肉体が無くなっても気のかたまりとなって生きる尸解仙しかいせんというのもいるとは聞くけどね……」

「たぶん、それだ! 透けていたもん」

「ちょっと信じられないな、話には聞くけどね」

「あたしも信じられないよ……」


 ❃


「今日は新しい技をやろう」

「導引?」


「導引ではないなー、火の姿勢で子供や動けない人にかける技だよ」

「あたしに技をかける?」

「そう、サトコくんの首から腕をさすろうと思うんだが」

「あたしの体をさするのか」少しあわてるサトコ。

「左側の血流を良くしようと思ってね。サトミちゃんもいるし、変なことはしないよ」


 サトコはサトミを見つめる。サトミは大丈夫だと言うように首を縦にふっている。

「じゃあ、いいよ、やって! 変なとこさわるなよ」


 サトコは車椅子に乗ったままTシャツ姿になっている。仁蔵はサトコの首から麻痺している左腕を優しく押したり、さすったりしている。


「所々引っかかるのがわかるかい? これは気血が乱れている所だよ」

「左側はなにも感じない」

「……サトコくん、肌は綺麗だね。ツヤツヤしてるよ」

「うん、最近、肌が綺麗になったのは感じる」

「それ、私も! ほらほら先生、見て!」

 サトミが腕をまくって仁蔵に見せる。


「えっ?! あ〜っ、綺麗だね」

 気のない返事をする仁蔵。

「ここ、アトピーで湿疹がいっぱいあったんだよ! 今、綺麗でしょう」

「そう、普通だね。湿疹はわからないな……」


「すごい綺麗になったんだから!」


 サトミが興奮ぎみに言うが仁蔵はピンときていない。

「大根風呂か? あれは冷え症に効くのと皮膚を綺麗にするとは言われているけど……」


「そうだよ! 大根風呂だよ! わたし、お姉ちゃんと一緒に入っているもん。あれでアトピーが治ったんじゃないかな?」

「そうかもね、よかったじゃないか!」


「よかったよ。嫁入り前の娘が肌がただれていて悩んでいたんだ」

「そうか、大根風呂は皮膚にも効くのか」


「若い娘の肌はいいなー」

 サトコの腕をなでまわす仁蔵。

「エロじじい、○すぞ!」


 サトコは悪態をつきながらも体の流れが良くなっていくのを感じ、真蔵仙人が仁蔵は導引が上手だと言った言葉をかみしめていた。


「あっ、先生、左手にもう一度触ってみて」

「ん、ああっ、こうか?」

「手の甲じゃなく、手のひら」

 仁蔵はそっとサトコの手のひらに触れる。


「ん〜〜っ、気のせいか……感触を感じた気がしたんだけど……」



 ◐仙術裏話。


 人の手に触って自分の手から人の手に何かが流れることを感じたことがあります。しかし、それが何なのかは今だに分かりません。流れたのも一人だけです。


 足ツボをやり始めたころ、足から頭まで流れる電気のようなものをハッキリと感じたことがあります。あるツボを押さえると何度でも感じることができました。しかし、翌日になったら、そのような現象は消えてしまいました。

 また、睾丸に電気的な刺激が一定のリズムで流れるというのが数日続いたことがありました。いずれも血液の流れではなく、微弱な電気に近いもので、心臓の鼓動とは別のリズムを持っていました。

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