第15話「ミクログリア」

『やっちまったなー』


 サトコと真蔵しんぞう仙人が浮かんでいる。その下には病院のベットで痙攣けいれんしているサトコ。


「先生、姉は大丈夫でしょうか?」

 病院の先生に訪ねるサトミ。

「CTを撮って見ましたが、脳出血ではないようなので大丈夫だと思いますが、しばらく様子をみましょう」


「あたし、死んじゃったの?」サトコがつぶやく。

『死んではいない。安心しろ。気が頭で詰まったんだ』

「それじゃ〜っ、あたし精神異常者になるの?」

『お前のカステラみたいな弱い気では時期に消えるから異常はおこらんじゃろう』


「カステラ……この体は魂ですか?」

 フワフワと宙に浮いているサトコ。

『幽体になっている。すぐに体に戻ることもできるが、今なら仙界に行って修行することができるが、行かんか?』


「仙界で修行? 帰って来れるんですか?」


『仙界には時間というものがないので、いくら修行しても行った時間と同じ時間に戻ることもできる』

「……それなら、行きます。でも、今のあたしの体は大丈夫でしょうか?」


『なんなら、覗いていくか? 幽体となった今なら自分の頭の中に入ることも可能じゃぞ』


「それ、入ってみたい!」


『よし!』

 真蔵仙人はサトコを連れてサトコの頭の中に入って行った。

『これが、お前の頭の中じゃ。出血した所を見せてやろう』


『ここじゃ、ここから出血したんじゃ』


「うあーーっ。血の固まりがすごい」

『これが左の手足につながる神経じゃ』

「へ〜〜っ、血の固まりに圧迫されてるじゃない」

『そうじゃ。手足の神経が血の固まりにり圧迫されて神経が麻痺したんじゃ。いいか、これをしっかり見ておくんだ! 仙界に行ってから非常に重要になる』


「はい!」


『よく、新婚さんが腕まくらをして寝ると、朝になったら腕が動かないことがあるじゃろう』

「いゃ、聞いたことないです……」

『そうか? 昔はよくあったんだが、嫁の頭が旦那の腕の神経を一晩中圧迫するから腕の神経が麻痺してしまうんじゃ。』

「あたしの手足も、この血栓が圧迫して動かなくなったんですか?」

『たぶんな……』


「それじゃー、この血の固まりをどければ手足が動くようになるのでは?」


『一度麻痺した神経は回復に時間がかかるぞ。腕の麻痺でも治るのに何ヵ月もかかる。まぁ、この血栓の圧迫をとらなければどうにもならないがな』


「これ、どけれないかな? 押してずらすとか」

『幽体のお前の体では触れることもできん』


「これをずらせば神経の圧迫が取れるのに悔しい」

『そんなに嘆くな。ほら、あそこを見ろ』

「うん? あれは何です」


『彼らはミクログリアじゃ、血栓を食べてるじゃろう』


「あっ、どうもミクログリアです。脳の管理してます。異物を食べて神経も修理します」

「えっ、血栓を食べてくれるんですか?」

「はい、血栓を食べて神経を修復するように言われてます」

「それは、ありがとうございます。私は本人のサトコです」 

「あっ、まあ仕事ですから。ちゃんと血栓食べて神経も治しますよ。ただ、どれを食べればいいのかいまいちわかんないんですよ」


『免疫細胞は、がん細胞でも食べてしまうほど力があるのに、少し隠れた物は見つけられなくなる。わしが食べていい部分に印を付けてやろう。ここからここまでは血栓だから食べてくれ。ここの出血した所は血栓を残して出血しないようにして血管の修復を頼む』

 真蔵仙人は血栓に仙術魔法で白い色をつけてミクログリア達に分かるようにした。

「あ〜っ、これならわかります。俺たちは、標的さえ分かれば、がんでも血栓でも食べれるんだ。ただ、冷えとか寝不足だと仕事がはかどらないけどね」


「はい、ごめんなさい。テレビゲームが面白くて寝不足でした。でも、夢みたい。あたし治るかもしれない……」


「最近は、温かいから仕事がはかどるんだ。前はでっかいアイスクリームを抱えて毎日食べてたでしょう? 俺たちは冷えて動けないから仕事ができなくて血管の修復もほったらかしで出血したんですよ」とミクログリアが言う。

「あっ、ごめんなさい。アイスクリーム美味しくて毎日食べてました」


『免疫細胞は冷えると動きが悪くなるんじゃ。大根風呂で体を温めると免疫細胞はよく働く』真蔵仙人が言う。


「大根風呂はミトコンドリアの電気だけじゃないんだ……」

「ミトコンドリアも最近は元気ですよ。脳の中でいっぱい光っているでしょう。前は電気不足でひどかった。俺らも動けなかったよ」


「すいません、冷たいビールも毎日飲んでました……」


『ここはミクログリアにまかせて、そろそろ行くぞ』

「あっ、あの〜っ、できれば破れた血管を仙術魔法で治すことはできませんか?」

 恐る恐るサトコは真蔵仙人にたずねる。

『う〜ん、できないこともないが、糸がな……』

「糸?」

『糸が有れば縫うことができるんじゃが……その服をほぐすか?』

「これですか? これで血管を治してくれるなら……」


『そうか、じゃあほぐして糸を作るぞ」

 真蔵仙人は仙術魔法でサトコの服をほぐして糸にしている。

 下からほぐしてブラジャーの下まできた。

 ミクログリア達も興奮しながら真剣な目で見ている。

「あっ、あの〜っ、そのくらいあればいいのでは?」

 サトコが胸を押さえながら言う。

『えっ! あっ、そっ、そうだな……』

 真蔵仙人はなんだか悔しそうな顔をしながら舌打ちをした。

 ほぐした糸を針に入れ仙術魔法で破れた血管を縫っている。

『これで、もう出血の心配はないぞ』

「はい、ありがとうございます」

 サトコは心底喜んだ。


「あの〜っ、その余った糸、食べていいですか?」

 ミクログリア達が糸を見ている。

 糸は半分以上余っていた。

『ああ、食べたければいいぞ』

 真蔵仙人が、そう言うとミクログリア達はあらそってサトコの服をほどいた糸を食べている。


(ミクログリアさん、変な趣味あるのかな?)

 不思議そうな顔でミクログリアを見るサトコ。


『よし、行くぞ!』

「はい、それじゃーミクログリアさん、よろしくお願いします」


 真蔵仙人に連れられ体から出て仙界に向かうサトコ。

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