第7話「大根風呂」
1週間後、仙術の会。
「サトコくん、足湯はちゃんとやってるかい」と
「やってるよ」
ちょっとふてくされ気味に言うサトコ。
「何か変化はないかな? 足が動くとか」
「すこしは動くんだ。足は……歩くのは難しいけど」
「あせらないでいいよ。細胞が治るには時間がかかるから。花に水をあげるのもやり過ぎたらダメだろう」
「花は別に育てないから……」
「そうか、じゃあ今日はサトコくんに、この花をあげよう」
「なんだ、これ!? ドライフラワー? ホウレン草か?」
干からびたホウレン草のような物を仁蔵はサトコに渡した。
「これはね、大根の葉っぱ!」
「これが、サトコくんのミトコンドリアを活性化させ、大量の電気を発生させるんだ。すると神経が
「これを食べるのか?」
「これは入浴剤だよ」
「入浴剤? 何それ」
「ほら、ゆず湯とか、
「入ったことないよ……」
「これは仙術でも秘中の秘なんだ」
「これが……大根じゃん」
「ほら、前に話した脳卒中を得意とする仙人が本の中に書いたんだ。干した大根の葉を風呂の湯と一緒に沸かすことで多くの病気が良くなるのがわかっていたが、ずっと秘伝として隠していたんだけど、高齢になったので公開したんだ」
「大根が秘伝?」
「秘伝っていうのは、すごく難しいっていうことではなく、逆に簡単なことが多いんだ」
「なんだそれ……」
「コ○・コーラって作り方を秘密にしているじゃない」
「あっ、そうだね」
「作り方を公開すればライバル会社なら同じ物を作れるんだよ」
「へ~~っ」あまり関心がないサトコだった。
「大根の葉っぱを1~2週間ほど陰干しして、2~3本分くらいの葉っぱを木綿の袋に入れ、水をはった浴槽に入れる。そして、そのままお湯を沸かす。それだけ! 簡単だろ」
「お風呂か、入れるかな? 脳卒中になってから1回も入ってないんだよねー」
「そうなの? なんだったら、俺が入れてやってもいいぞ」
「エロジジイ……」
「お姉ちゃん、あたしが入れてあげるよ。一緒に入ろう」
付き添いで来ている妹が言った。
「大根風呂は脳卒中や自己免疫疾患の病気に効くようなので、是非やってみてほしいんだ。妹さん、頑張ってお姉ちゃんを入れてくれるか」
「はい、頑張ります。あたしサトミです」
妹のサトミは、姉のサトコと同じように小柄な体型で双子と言ってもわからないくらい顔も似ていた。
「本によれば3か月くらいで歩けるようになるらしいから。すぐに風呂も自力で入れるようになるよ」
「本当ですか!?」
妹のサトミが目をキラキラさせて仁蔵を見ている。サトミは仁蔵に対して好意的なようだ。
「あくまで、本によればなんだけど、脳卒中を発症して3年以内なら効果はあると書かれていた。俺も何度か試して大根風呂に入ったけど、体は温まるよ。ただ、脳卒中が本当に治るかは疑問だね」
「……あたしは、まだ発症して半年だから効くかな?」とサトコが言う。
「大根風呂じたいは、昔からあったんだ。冷え症を治すのに使われていたらしいので危険はないだろう。しかし、早く治そうとして長風呂したり、温度を上げすぎたりしら、また脳卒中を起こす危険があるからね」
「もう、脳卒中はかんべんしてくれ! こんどやったら○んじゃうよ」
「普通のお風呂でも適切に使えば血管を丈夫にするのにとてもいいんだよ。日本人の寿命が伸びたのはお風呂を始めとして体を温める機械の発達が大きいと思うんだ。手軽に体を温められるようになってミトコンドリアもよく働いていると思うよ」
「そうなの?」
「血管は弾力があるほうがいいんだ。お風呂に入ると血管が広がるので血管のストレッチになるんだよ」
「本当か? 見たのか」サトコが突っ込む。
「テレビで見た……」仁蔵は小さくなって言う。
◐仙術裏話。
大根の葉っぱについて一言。
昭和の時代は八百屋に葉っぱ付きの大根が並んでいて、葉っぱを切って買っていく客が多かったので、八百屋に頼むと大根の葉は簡単に手に入ったらしい。しかし、今は大根の葉は大根自体の栄養を吸い取るので、収穫と同時に機械で切り取られてしまうらしく、市場に葉っぱ付きの大根は並ばなくなってしまった。
漢方薬屋さんに入浴剤として1回分400円ほどで、そのまま沸かせる袋入りの大根の葉があったが、お湯を出して溜めるタイプの風呂では、大きな鍋かヤカンを使って煮出さないとならないので、けっこうな手間がかかります。
現代は沸かしなおしができない風呂が多いので、1回入っただけでお湯を流さなければならないのがもったいない。
しかし、1回400円で病気が治る可能性があるなら私は試します。
温泉があれば、もちろんそれでいいのですが、そんなにいい環境は普通はないでしょう。
酵素を使った入浴剤でよく体が温まる物があり、粉を浴槽に入れるだけなので手軽に使えてこれは便利です。これでも大根風呂と似たような效果を出せるかもしれません。
お風呂を水から沸かすタイプが多かった昭和には大根風呂は時代にあっていたが、現代では難しいと思います。
ちなみに大根風呂のお湯は沸かしなおせる風呂ならば2~3日使えるようです。
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