第6話「火の姿勢・二の型」

「では、次に『火の姿勢・二の型』を教えます」


 健康法教室『仙術の会』仁蔵じんぞうがサトコに仙術を教えている。

 サトコは車椅子に座っている。


「これは『足湯あしゆ』と言って足を温める技だ」


 仁蔵はタライと電気ポットを持ってきた。

「寝る前にこれをやって、足を冷やさないようにして早めに寝ると免疫力を上げることができるんだ。寝る前にやるのが秘伝なんだ!足を温めて、冷えないうちに布団に入れば寝ている間に自分の細胞が体を修復してくれるんだ。足湯が面倒な時は、湯たんぽでもいいぞ、布団に入って本を読みながら足を温めるんだ」


 サトコはあまり関心がないらしく話を聞いていない。

「ふ~~ん。免疫ね」

「では、やってみるよ。タライにお風呂の温度くらいの40度くらいのお湯を入れます」

 仁蔵は湯沸し器から洗面器にお湯を入れ、それをタライに入れている。何度か洗面器でお湯を入れるとタライに6分目くらいまでお湯が溜まった。


「さあ、サトコくん、ここに足を入れるんだ」

 サトコの付き添いに妹のサトミも来ている。サトコ自身では靴下を脱ぐのも不自由で、タライに足を入れるという普通なら何でもないことも大変な作業になってしまう。

 妹は姉のサトコとは仲がよく、献身的に介護してくれる。サトミはもともと献身的な性格のようで姉の介護を嫌がりもしない。


「お姉ちゃん、足入れるよ」

「そう、ゆっくりね。車椅子大丈夫? ひっくり返らない」

「車椅子では難しいわ、そっちの椅子に移るよ」

 サトミが協力してサトコを健康教室にある椅子を持ってきて移した。

「どうだい、サトコくん、熱くない?」

「うん、大丈夫」サトコは素直に足湯をしている。

「しばらくするとお湯の温度が下がる。そうしたら、これの出番だ」

 仁蔵は電気ポットを軽く手のひらでポンと叩いた。

「ぬるくなったかな?」

「うん、ちょっとぬるくなった」

「よし、入れよう」

 仁蔵はタライの中に電気ポットで熱いお湯を注ぐ。


(足湯はバケツでもできますが、熱いお湯を継ぎ足していく時に一回一回足をバケツから出さないと焼けどをします。バケツだと高さがあるので電気ポットは使いづらいです。普通はヤカンでお湯を沸かして、それを入れるのですが、けっこう手間がかかります。

 大きめのタライを使うと、高さがちょうど電気ポットがそのままお湯を注げる高さなので使いやすいです。)


「熱くなったら言って」

「うん、もういいかな」

 電気ポットから注がれた熱湯はコップに半分程度です。お湯がぬるくなったら電気ポットでお湯を継ぎ足す、これを小まめに何度か繰り返します。健常者なら一人で簡単にできるのですが、サトコには一人では無理だった。


「いつまで足を入れてるの?」

「えーとね、時間は、だいたい15分から20分くらいだね。これは足を温めているんだけど、本当はおなかを温めるのが目的なんだ」

「お腹?」

「そう、お腹」

「血液って循環してるじゃない、足の血液は心臓に戻るんだけど、それを利用して、足で温めた血液でお腹を温める技がこれなんだ」

「それで、どうなるの?」

「お腹には免疫の8割があるので免疫力が強くなります」

「免疫は別に言われてないんだけど」

「神経も温めるといいんだよ。逆に冷すとダメなんだ。寒くなると神経痛が痛くなるとかおばあさん言ってない」

「おばあちゃんは、あんまり合わないからな……」

「まぁ、温めることは神経にいいんだ。ミトコンドリアも喜んで電気を作ってくれるしね」

「また、ミトコンドリアか……電気で人間が動くの? 目も光るようになるんじゃない?」

「サトコくん、病院で低周波治療器、使わなかった?」

「低周波? ビリビリするやつ?」

「そう、ビリビリするやつ」

「うん、使った、使った」

「あれ電気なんだよ。神経の電気が弱っている所に電気を補っているんだ」

「えっ、そうだったの!? ただビリビリさせているのだけかと思った。あんまり効かないみたいだけど意味はあるんだ」

「良くなる人もいるんじゃないかな……」


「もうそろそろ、いいかな? お腹は温まった?」

「お腹が温まったら終わり?」

「そう、お腹を温めるのが目的だから、お腹が温まったら終わり」

「もう、いいかな。お腹温かいよ」

「それじゃ、足をお湯から出してタオルでよく拭くんだ。このとき水分が残ると冷えてしまうからね」

 仁蔵は丁寧ていねいにサトコの足を拭いている。指の間の水分もちゃんと拭いていた。

 サトコは、まだ子供の面影が残るあどけない顔をしている。体も小さいので仁蔵は子供と遊んでいるようで楽しかった。

「ちっちゃい足だな」

「ほっといて」すぐ切れるサトコであった。



 ◐仙術裏話。


『腸内免疫会議』

 サトコの腸内で免疫Aと免疫Bの会話。

「足湯でだいぶ暖かくなってきたな」(免疫A)

「あーっ、ひどく寒かったもんな」(免疫B)

「この女、裸足で台所に立って料理するから足から冷えて、俺達を殺す気かと思ったよー」(免疫A)

「そうだ、そうだ! スリッパぐらいはけよ! 中学や高校の時はスカートで真冬なのにストッキングも履かない時がいっぱいあったぜ」(免疫B)

「あったね、免疫をまったく無視だもんな、寒さでだいぶ死んだな」(免疫A)

「真冬でもアイスクリームをよく食べるしなー」(免疫B)

「二十歳過ぎたら毎日冷えたビールだよ、俺も死ぬかと思ったよ」(免疫A)

「足湯続けてくれたらいいなー」(免疫B)

「あぁ、続けてくれたらいいな」(免疫A)

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