第5話「火の姿勢・一の型」

 健康法教室『仙術の会』


「それでは、これから『火の姿勢』を行います。まず、一の型! 両手のひらをこすり合わせて手のひらを暖めます。その暖まった手のひらで顔、首、鎖骨、胸、お腹、背中、股関節をなでます」

「あたし、手のひらをこするのできないから……」

 サトコと仁蔵じんぞうの仙術修行が始まった。


「あぁ、そうだね……こすりあわせるのはいいよ。暖めるだけだから……」

「体をこするとどうなるの」

「血行が良くなるよ。顔とかやったら美人になるよ」

「いいね、やるわ!」

鎖骨さこつはリンパに関係するんだけど、特に左の鎖骨だね、よくなでておかないと詰まってしまう」

「リンパってなに」

「免疫なんだけど、大きく分けて免疫は2種類あるんだ」

「ふ~~ん」

「例えると、警察官と自衛官かな? 警察官は悪い人を捕まえるけど、自衛官は悪い人がいる建物ごと破壊するんだ」

「それがリンパ?」

「リンパは自衛官のいる所みたいなものでガンでも治してくれるんだよ」

「ガンも治るの」

「ガンは毎日できるらしいよ」

「なに!? そんなにできたら死んじゃうじゃない」

「うん……詳しいことはわからないけどリンパ球が毎日ガンを退治してるようだね」

「それが鎖骨?」

「リンパの通り道があって、鎖骨が難所になるので撫でて通りを良くするんだ。ほら、鎖骨って骨が出てるでしょう、だから冷えやすいんだよ、骨が冷えるとその下にある血管も詰まりやすいから」


「えっ、なに? 血管って詰まるの?」


「詰まるよ。毛細血管なんかすぐ詰まるよ」

「詰まったら困るじゃない」

「そう、だから詰まらないように火の姿勢を使う」

「火の姿勢をやると詰まらないの?」

「そうとは言えないけどね、やらないよりはましだろうね」

「じゃあ、やろう!」


「わかった、やるよ。え〜と、なんだっけな~鎖骨をでて、次は胸だね。ブラジャーなんかすると締め付けて血行が悪くなるから良く撫でてやるんだ」

「エロジジイ」サトコが小声で言う。

「えっ、何だって?」

「なんでもない。続けて」

「え~と、何だっけ? 胸はオッパイと心臓を撫でるんだ。サトコくんは、まだ心臓は大丈夫だよね」

「当たり前じゃない! 大丈夫よ」

「俺、こないださ~、一瞬心臓が止まってビックリしたんだ!」

「えっ! 心臓止まるの? 大変じゃない?」

「大変だよ! 死ぬかと思った」

「で、どうなったの?」

「突然心臓が止まって倒れそうになったんだけど、そこで動きだした」

「なにそれ? 歳取るとそうなるの?」

「いゃ、わかんない? 心臓の血管が一瞬だけ詰まって、すぐに流れたんじゃないかな? 特に何をしていたわけでもないからね」


「それが世間で言う腹上死?」


「いゃ、腹の上じゃないから……」

「えぇ、わかる冗談よ……」

「え~と、どこまでいった? 心臓までか……ま~人間、死ぬ時は死ぬな、なんか、そんな感じしたよ……、それで次は、お腹か、お腹は免疫の8割が有るって言われているんだ。お腹を冷やすと免疫力は落ちるし、お腹には免疫を教育する学校みたいなものがあるんだ」


「お腹に学校があるの!?」


「学校みたいなものね。攻撃する物と攻撃してはいけない物を教えるんだ。ここが機能しなくなると自分の体を攻撃する免疫ができてしまうかもしれないんだ」

「へーーっ、お腹ね」

「お腹出して寝たらダメだってお母さん言ってなかった?」

「だから、あたし、お母さんいないんだって!」ちょっと切れぎみのサトコ。

「そっか……ごめん、ごめん」

「蹴るよ!」

「わかったよ。え~と、お腹はやったから股関節ね。股関節はイスに座って何時間も曲げているから血管も曲げられて詰まりやすい所だね。股関節の曲る所と内側と外側の太ももをよく撫でましょう。上から軽く押さえるだけでもいいよ」

「エロジジイ」またも、サトコは聞こえる程度の小声で言った。

「股関節をよく撫でておかないと立たなくなるからね」

「変態ジジイ」



 なかなか進まない火の姿勢だが、一の型は終了。



【仙術導引・火の姿勢】

 三日月仁蔵が教える仙術導引。


 菌やウイルスはどこにでもいるそうじゃ、それでも元気でいられるのは、常に免疫が体を守っていてくれるかららしい。

 小さくて目に見えないし、自分で感じることも出来ないが免疫は体に入って来た菌やウイルスと戦い、がん細胞までやっつけてくれるらしい。


 この免疫は腸に多く、腸が温かいと良く働くそうじゃ。

 歳を取ると筋肉がなくなり体温が下がるので、お風呂などで温めるのがいいな。

 若くても、冷たい物を食べ過ぎると腸が冷えて下痢になってしまうぞ。


 自己免疫疾患も体を温めるのが有効らしいから、この火の姿勢を試してみるといいと思うぞ。


 体を温めるということは、体のエネルギーATPを作っているミトコンドリアも喜ぶんじゃ。

 紀元前のギリシャ人、ヒポクラテスも「鍛冶職人はペストにならない」と言っているように、昔から体験的に体を温めることが病気の予防に良いと感じていたんじゃろうな。


◉やり方。

【一の型】 手の平を擦りあわせて、手を温めます。

 手の平で顔、首、胸、腕、腹、腰、足と身体中を優しくなでます。

 なでながら、シコリや違和感のある所はないかを調べます。

 特に腰をなでると腎臓によいです。


【二の型】風呂に入る。 

・身体を温める入浴剤等をいれます。

・身体を温める薬草、大根の葉・ヨモギ等を煎じていれます。

 寝る1時間半前に風呂から上がるのがよいようです。


【三の型】足湯をします。

 タライに40度くらいのお湯を入れ、椅子に座ってタライに足を入れます。

 電気ポットでお湯を足しながら15~20分ほどタライに足を入れています。

 寝る直前にやって足を冷やさいうちに布団に入って寝るのがコツです。


【四の型】湯たんぽで足を暖めます。

 時間があれば湯船につかり身体を暖めると血管も広がり、血管の柔軟性も保たれるらしいです。

 あまり時間がなくて湯船につかれない方は、寝る前に足湯をしてから寝ると寝つきも良く、寝覚めもいいです。頭もスッキリします。足湯は血液の循環を利用してお腹を暖めることで免疫力を上げます。寝る前にやるのがコツです。お風呂は寝る1時間半前くらいにお風呂から上がるといいようです。

 大根の葉の薬湯は皮膚にも良いようです。

 時間が無ければ、湯たんぽで足を暖めましょう。


 暑い夏でも、汗をかいて身体はけっこう冷えています。

 お腹を冷すと免疫力が落ちてしまいます。

 下痢が続くようなら要注意です。

 わたしは、扇風機にあたりながら、湯たんぽを腹に抱えていると意外に気持ちが良いです。


 身体を動かすのに電気(ATP )を使っているそうですが、電気を作るミトコンドリアは温かいと良く働き、身体が冷えているとあまり働かないそうです。


 朝起きて身体が温かければ、火の姿勢は成功です。


【プラス3分】

 足湯がめんどうだという人は、シャワーの時に3分間ほど足湯をするといいぞ。

 わしも毎日足湯はめんどうなので、バスタブに入ってシャワーを浴びる時に、風呂のせんをして足首まで熱めのお湯を入れて温めるんじゃが、その時に股関節をなでる行と仙骨をほぐす行をするんじゃ。


 股関節は座っていると血管が曲がりっぱなしなのでやさしくなでるように押してやるんじゃ、左右で感覚が違ったり血管が固く感じたら習慣的にやるといいぞ。

 泌尿器系によく効く。


 仙骨をほぐすのは仙骨に手を置き前屈をして、次に後ろにそりかえるんじゃ。

 ゆっくりと軽めにやるのがコツじゃ。

 バスタブの中なので、あまり本気ではやらない。


 3分から5分くらいしたら、あとは普通にシャワーを浴びて終了じゃ。

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