第4話「ミトコンドリア」
一、冷たいものは控える。
一、体を温める。
一、睡眠は7時間以上とる。
一、腹八分目。
一、免疫・ミトコンドリアに感謝。
「なんですかこれは?」
サトコは健康教室『仙術の会』に来ていた。
「我が健康教室の道場訓だよ。サトコくん」
「意味がわかるかな」
「いえ、ぜんぜん……だいたい道場じゃない……」
健康法教室は、それほど広くはなかった。10人くらいが限度の部屋だった。
「それでは解説しよう。まず、一つ目の冷たいものは控える。体を守る免疫は冷えに弱くて体温が下がると悪い菌を退治できなくなり、感染症や炎症を起こすんだ。だから、手で持って冷たいものは口に入れない。水道水も麦茶に使う容器に汲んでおき、室温にしてから飲むんだ。」
「えっ! そうなの? あたし蛇口からコップに入れて直接飲んでたよ」
「それは胃腸が冷えるぞ……」
「それに、あたし冷えたビールが大好きで毎日飲んでる」
「それは恐ろしいね。続けたら幻覚や幻聴がでるかもしれないよ。グッスリ寝れなくなるかもね」
「……うん、あんまり寝れない」
「さらに、下痢になると思うよ」
「いゃ……あたし……そういうのしないから……」
「昔から、雨に濡れて帰ってきたら、すぐにお風呂に入って体を温めないと風邪をひくって、お母さんに言われたろ」
「あたし、お母さんいないから……」
お母さんの話はサトコのコンプレックスで同級生ともよくケンカになった。
「あっ、そうか……ごめん。ごめん」
「え~と、なんの話だっけ」
「まぁ、いいか……じゃあ今日は『火の姿勢』をやろう」
「火の姿勢?」
「そう、火の姿勢。体を暖める技だよ。体を暖めることで免疫力を上げて、細胞を入れ替え新陳代謝も上がるんだ」
「免疫とか、わかんないんだけど」
「免疫は体を守ってくれているもので、まだ発見されて間もないんだ、これからその働きがわかってくるだろうね。もし、免疫がなければ人間は数日で菌に感染して死んでしまうらしいよ」
「そうなの?」
「イメージで言えば、蚊のうようよいる山の中で裸で寝るようなかんじ? 蚊取り線香が免疫」
「なんだかわからないわ」
「そうだなー 健康な人は体の周りにぐるっと蚊取り線香が置かれていて、冷たいものを飲んでいると蚊取り線香の数が減っていき蚊に刺されやすくなるような感じでどうだ」
「なんとなく……」
「実際は顕微鏡で見ないとわからない世界だから、研究してる人の言ってることを信じるだけだけどな。ほら、昔の人は
「やおよろず? 知らない。ヤマタノオロチなら映画で見た」
「ヤマタノオロチではないんだな。山や木や生活に使う道具なんかにも魂が宿っているっていうやつ」
「あたしの家は仏教だから……」
「八百万の神々も仏教でなかったかな?」
「それがなんなの」
「あぁ、そうね……俺はこの八百万の神々がミトコンドリアのことに思えるんだよ」
「ミトコンドリア!! また、わけのわからないことを……」
「ああっ、これは顕微鏡の世界で……電子顕微鏡の世界かな? 人間は日々細胞を入れ替えているのはわかるだろう? 新陳代謝って」
「まぁ、それは聞いたことある」
「ミトコンドリアは新陳代謝に関わっていて、さらに体を動かす電気を作っているらしいんだ」
「体に電気があるの?」
「そう、神経は電気信号を使っているんだ」
「へ~~っ、あたしの体も電気信号が原因で動かないの」
「それはわからないが、神経は冷えに弱いらしいから、温めたら電気信号が上手く伝わるかもしれないよ」
「ミトコンドリアがあたしの体を治してくれるの?」
「そうとも言える。俺は、昔の人達が目に見えない神々が体に宿って守ってくれていると感じていたのではないかと思っているんだ」
「ふ~~ん」
「免疫もミトコンドリアも神経も寒さを嫌う。温めてやると良く働くんだ。たぶん……まだ医学的には認められてはいないようだけどね」
「あたしの左の神経も温めると良くなる?」
「それは……なんとも言えない、神経が切れていればどうにもならないと思うけど、治っている例はあるらしいんだ」
「どこかで治しているの?」
「うん、日本には仙術を使う人が何人かいて、その内のひとりは脳卒中を得意としていたらしいんだ」
「えっ、じゃあ、その人の所に行けば治してくれるんじゃないの?」
「そう、それが一番簡単だが、もう亡くなっている。お弟子さんはいるらしいけどね」
「お弟子さんは、近くにいるんですか?」
「いや、××県にいるらしい」
「ずいぶん遠いね」
「旅費や教えてもらうのに、そうとうかかると思う……その人は腕はいいけど、かなりの金も取っていたらしいから」
「ブラック●ャック!?」
「金に余裕があれば、その人のお弟子さんに頼むのもいいだろうね」
「無理、無理! 旅費と宿泊費だけでパンクしてしまう」
「うちでやってみるかい?」
「いいわ、その火の姿勢でやりましょう!」
サトコは口では、仁蔵に反抗的な口調をとるものの、内心この人には何か有るのではないかと思っていた。
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