第43話 聖王との戦い②

「こんな……なぜこんなことが……」


 驚き戸惑い続ける聖王。

 俺は奴の姿を見て、ニヤリを笑みを浮かべる。


「お前の力を封じさせてもらった」

「ふ、封じただと……そんな、そんなバカなことがあるか!」


 聖王は力の限り俺の顔を殴りつける。

 が、子供に殴られたように痛みは感じない。


 俺は聖王の『力の扉』、そして『技能の扉』を閉じた。

 新たに入手しておいた技能だ。

 相手の技能を一時的にではあるが封印できるというもの。


 聖王は【吸収】ができないことに、俺に攻撃が通用しないことにガタガタ震えていた。


「ははは。もうお前に勝ち目はないぜ。ここからは……今まで世界に迷惑をかけてきたこと! そして人々を騙してきたことのお仕置きだ!」

「げふっ!」


 聖王の腹に思いっ切り拳を叩き込む。

 腹を押さえ、膝をつく聖王。

 そこから奴の顔面に膝蹴りを放つ。


「あああっ!!」


 激しい痛みに血と涙を流す聖王。

 恐怖に満ちた瞳で俺を見上げ、懇願するように口を開く。


「た、頼む。止め――」

「止めるかよ! 世界は今まで一方的に命を吸い取られてきたんだ! それに大勢の人の命の吸ってきたんだろ! これは全部、お前に対しての恨みなんだよ! 因果応報だ!」

「がはっ!」


 回し蹴りを顔に放つと、聖王は勢いよく壁際へと吹っ飛んで行く。

 

「う、ううう……」


 痛みと恐怖に、這いながら逃げようとする聖王。

 俺はゆっくりと奴に近づいていく。


「逃げられるとでも思ってんの?」

「はっ?」


 壊れた壁の向こう側からモモちゃんが顔を出し、聖王に怒りの蹴りを喰らわせる。


「このこの! 今までいい人だと思ってたのに! エルフたちだって悪い奴らじゃないじゃない! 3000年もあんな人らを酷い目にあわせてさ!」

「やめ、やめてくれ! お願いだから止めろ!」


 聖王らしさ……高貴さや神聖さを一切失った情けない姿でモモちゃんの足にしがみついている。

 モモちゃんは寒気を覚えるような表情をし、渾身の一撃をお見舞いした。


「ちょっと、触んないでよ!」


 ボカッと蹴り上げられ、俺の下へと飛んで来る聖王。

 今度は俺の足にしがみ付き、大量の涙を流している。


「もういいだろ!? 俺は十分に罰を受けたはずだ!」

「十分? まだまだ足りるわけないだろ。お前の地獄はこんなものじゃないぜ」

「ちょ……ちょっと待て……ハッキリ言っておく。俺を殺したところで、エルフたちと共存していくなど、世界の真実を人間たちに理解させることなど不可能だぞ! 俺を殺したら、人間の住む世界でお前たちが生きていくことは無理になるんだぞ!」

「分かってるよ。分かってる」


 聖王はホッとし、笑みを俺に向ける。


「俺を生かしておいてくれるのなら、今回の話は上手くまとめておく。これからもお前たちが人間の世界で生きて行けるようにな」

「あ、その必要はない」

「……え?」

「分かってるって言っただろ。解決策はもうあるんだよ」

「か、解決策……?」

「ああ」


 俺は聖王の頭に手を当てる。


「な、何をするつもりだ?」

「俺は今回、いくつかの技能を習得してきた。これから『意識の扉』を使い、お前を俺の思い通りに動かさせてもらう」

「……お前の思い通りだと?」

「ああ。『意識の扉』は俺の思うがままに相手を操作する技能だ。ウェイブが眠りについたのも俺が眠れと命令したからさ。お前にはこれからも、聖王としてその地位に君臨し続けさせてやる。ただし、傀儡としてだけどな」


 聖王の顔が、みるみるうちに青ざめていく。


「止めろ……止めろ……」

「3000年分の罰だ。人間としての寿命が尽きるまでの後100年足らず、操り人形として生きるだけでいいんだ。優しいもんだろ?」

「止めろ!!!!――」


 技能を発動させると、聖王はピタリと叫び声を止める。

 そしてぼんやりとした視線を俺に向けていた。


「お前はこれからも聖王としての役目を果たせ。ただし、世界の壁を壊し、他種族との共存の道を進んでもらう。いいな?」

「かしこまりました」


 起き上がり、恭しく俺に頭を下げる聖王。

 俺は嘆息し、聖王と共に外で戦っている者たちを止めに行く。


「もうやめなさい。話し合いは終わりました」

「せ、聖王様……しかし、蛮族を根絶やしに――」

「いいのです。私は彼らのことを勘違いしていたのです。彼らは人間の世界を乗っ取ろうとしているわけではないようです。手を取り合い、一緒に生きる道を提案しにきたようなのです。だから戦いをやめ、輝かしい未来へと共に進もうではありませんか」


 女王が青い顔で俺に近づいて来る。


「……怖いぐらい上手くいったみたいだな……。これでこいつは一生お前の傀儡というわけか」

「いや。違う」

「?」

「世界のための傀儡だ。俺の都合だけで操るつもりなんてないしな」

「ふっ。そうだな」

「ムウちゃ~ん!」


 義母さんと義姉ちゃんが俺を見つけ、胸に飛び込んで来る。


「怖かった~! 熊みたいに大きい人に追いかけられてたんだよ~」

「ママもお姉ちゃんもおにぃに甘えすぎ。ちょっと離れなさい」

「そういうモモも引っ付きすぎ」


 俺の腕に手を回すモモちゃんを見て、ルールーが呆れている様子だった。

 ルールーもなぜか、空いている方の手に腕を回してくる。


「ありがとう、ムウ。全部あなたのおかげ」

「いや。ルールーが真実を教えてくれたおかげさ。それに、まだ全部ってわけじゃない」

「?」

「俺にはまだやるべきことが残ってる」

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